14.悪役令嬢と奴隷の子供
(これでヒロインと王子の仲が急接近してしまったりだなんて。)
途中まで王子とヒロインの関わりを見ていたが、ひっそりと立ち去った。王子とヒロインを見てられないとこではなく、ゲームとは違う関わりがあるのではないかと思ったからだ。ゲームとは違うシチュエーションでの出会い、これが強制力なのかもしれない。それなら私がどんなに回避しても、私の未来は決まっている。それなら他にどんな違いがでてくるのか知りたいがためにそっと離れたのだ。断じて、色恋目的ではない。
「しかし、ここはどこなのかしら。」
いつの間にか路地の裏に入ってしまったみたいだ。元々土地勘もないので、迷子になるのは当然である。
ドン
曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめん、なさ、い。」
8.9歳くらいだろう子供だが、ボロボロの布切れみたいな服を見にまとい、全身傷だらけである。
「大丈夫?」
「おい、手間かけさせんな!」
「あっ…」
男が2人、子供がきた方から現れた。その子供は咄嗟に私の後ろに隠れた。
「ちっ、おい嬢ちゃん、そいつ渡しな。」
「あなたたちとこの子はどういう関係なの?」
「こいつは逃げ出した奴隷だ。」
奴隷、首に鎖がついているのはそう言うことか。
「さぁ、戻れ、10番。もう逃げられねぇぞ。」
子供は走り出すが、すぐ男の手に捕まってしまった。
「ったく。戻ったら仕置きだな。さっさと行くぞ。」
「へい!」
みぞおちに勢いよく拳を当てると、「うっ」と声を漏らした後、暴れていた子供は動かなくなった。
「ちょっと待ちなさい。」
「あ、なんだ嬢ちゃん。言っとくが、こいつは商品だ。こいつの親から買い取ったな。どうこう言われる筋合いはねぇぞ。」
「その子は私が買います。」
「なにいってんだか、金はあんのか。」
「いくらなのかしら。」
「100万Gだ。」
「ならこれで十分ね。」
ポケットから宝石を3個取り出す。銭も前もって貰っていたが、父のアドバイスで念の為宝石を持ってきといてよかった。
「ほ、本物かよ!」
「本物よ。さぁ、その子を私に渡しなさい。」
「二ヒヒ、ならそいつだけ貰ってくぜ。」
男共は、宝石だけ奪おうと襲ってくるが、仕込んでいた短剣を取り出し、相手に刃を向ける。
「それは強盗かしら、それなら捕まえてもいいわよね。」
「ちっ…ほらよ。」
短剣を持ち出すことで、躊躇したのか子供を地面においた。
「ちゃんとした頭はあるようで安心したわ。」
宝石を投げ、受け取った男共は用は済んだということで立ち去っていった。
「さて、そろそろ王子のとこに戻ろうかな。だけど…」
そこで自分が迷子であることを思い出す。
「出口はあっちだよ、お嬢さん。」
「あら、ありがとう。…影の人は姿を見せないと教わったんだけどそうでもないのね。」
いつの間にか、焦げ茶色の髪をもつ背の高い男の人が立っていた。
平民の格好をしているが、さっきまでそこには誰もいなかった。となるとこの人は誰だか、簡単に分かる。
「ちょっと面白そうだったからな。」
影の人は無口だというイメージがあったが、この人は割とフレンドリーのようだ。
「しかし、どこに短剣隠しこんでいたのか、俺でもビックリ。」
「太ももに固定してたのよ。なにかあってもいいようにね。それより王子から離れて良かったの?」
「あ、元々2人いるんだよ。別行動すると思ったし。」
「なるほどね。それならなにもしなくても良かったのね。」
「くく、面白いお嬢様だな。これは殿下が振り回されるはずだわ。さて、殿下が凄い焦ってるから早く戻んな。この道をまっすぐいって、300歩いったら右に曲がれば出れるから。」
「ご親切にどうも。」
「あと、俺が姿を現したのは秘密で頼みたい。本当は姿を見せず守らなくちゃいけないんだ。バレたら減給される。」
「減給制度なんですの。道案内をしてくれたんですもの。勿論秘密に致します。」
「じゃあそういうことで。」
一瞬で消えた。影と言うだけあって、さすがの腕前である。
「さてと。」と気絶している子供をおんぶし、教えてもらったとおりに戻る。
「ノア!今までどこに。その子は?」
「あぁ。迷子の私に、道を教えてくれたの。案内する途中に寝ちゃって。戻る家もないっていうから、一旦家に連れて帰ろうかなと。」
「誘拐、じゃないよね?」
「私のことをなんだと思ってるの?」
「冗談だよ。変わるよ。」
「あら、いいの?」
「女の子に任せていたら、男が廃るよ。そろそろ戻ろうか。」
「そうね、この子の手当てもしないと。」
子供は王子に背負ってもらって、馬車で降りた所まで戻る。
「本当ビックリしたんだからね。ノアがいなくなってから。」
「ごめんなさい。私とした事が。それより手どうしたの?」
「あぁ、少し擦っただけなんだけど、助けた子が巻いてくれたんだ。」
「へぇ。優しい子だったのね。」
「そうだね。本当に大した傷じゃないんだけどね。」
どうやら、ハンカチを巻いたあとすぐ去っていってしまったらしい。やはり、ゲームと変わらないなぁ。
「でも誰だか分からないからハンカチも返せないない。」
「いつか会えるまで大事に取っておいたらいいんじゃないかしら。縁があれば会えるわよ。」
「そうだね。」
そうして初イベントは無事に終わった。王子は割とヒロインを意識していたようだし、これは6年後が楽しみである。