13.悪役令嬢と初イベント
毎年秋には収穫を祝う祭りが各地で行われる。そして、今日は収穫祭当日だ。貴族だと知られると、街の人達が萎縮してしまうかもしれない。なので、私は町娘風の格好。王子は、やんちゃ系男の子の格好に変装して向かうことにした。馬車で街までいくと目立ってしまうため、街より少し離れたところで降ろしてもらい、歩いていく。
「ノア、影がいるとはいえ、逸れたら大変だから、手を繋ごう。」
“影”
昔より王族を守り、監視する役目をもつ者たちのことである。忍者みたいに、気配を感じさせず、その名の通り姿を見せることはほとんどない。そして、王族として振る舞いが正しくない者を断罪する権利を持っている。こうして、王族の腐敗を阻止しているのだ。
勿論ゲームでも名前しか出ていない。一体どこから、守っているのか本当に分からない程である。
「そうですね、グレン。」
流石に王子と呼ぶ訳には行かないので、仕方なく名前で呼ぶことにした。勿論、顔色は変えず。もうあんな失態を見られたくないからたくさん練習したのだ。その効果がでて良かった。
手を繋いでいく。街は既に大賑わいだった。
大きな通りには、サーカス集団がきており、動物と一緒に芸をしながら歩いている。屋台がズラッと並んでおり、美味しそうな匂いが辺りを漂っている。
「す、凄い。収穫祭って凄いんですね。」
さぞかし今の私は目がキラキラしていることだろう。
「ハハ、行こうノア!」
王子が走り出す。止めようかと思ったが、今日は平民としてここにいる。それなら止める必要もないと思い直し、王子に連れられ走り出す。
※※※
(や、やばい。楽しみ過ぎてしまった。)
「どうしたの?ノア、疲れちゃった?」
「まだ全然遊び足りないわ!」
しかし、困った。どうやって逸れたらいいのわからない。ゲームではノアの我儘な行動に呆れた王子が、別行動を企てるのだが、そんな様子は一切なく、まず私が王子に振り回されている感じだ。
凄く楽しんでるだろうな、王子は。まぁ10歳だなんて子供なのだから、はしゃぎたくのも分かる。頭はよく回り子供に見えない時があるが、それでも年相応の子供心もあることに嬉しくなった。
「お、お願い、その人を、捕まえて。」
後ろから声が上がる。後ろを振り向くと、15歳くらいだろう青年がピンクの包みを持って走ってくる。
泥棒かもしれない。と思い、前に出ていこうとするが、それは王子に止められた。
そして、王子は走り抜けようとする青年の行く手を阻み、投げ飛ばした。
さすが王子、武道も完璧だとは。
投げ飛ばされた男は、一瞬気を失っていたがすぐ目を覚まし、包みをおいて逃げる。その包みを拾い上げ、砂を払う。
「あ、あの。」
(えぇ!まさか!!)
「これはあなたの持ち物ですか?」
「は、はい私のです!本当にありがとうございます。良かった。戻ってきて。」
「それは良かった。残念ながら犯人は逃げてしまいましたが。」
ピンク色の髪。赤とか青とか変わった髪色の世界感のなかで、ピンク色の髪は未だ見たことない。ヒロイン以外には。
「いえ、それだけが戻ってきたら十分です。あぁ、大変、手に血が…」
よく見ると、王子の手には血がついている。
「あぁ、投げ倒す時に相手の歯に当たってしまって。」
「ご、ごめんなさい。私のせいで。」
「いえ、大した傷じゃないので。」
「ダメですよ。ここからバイ菌がはいったら悪化するかもしれないし。」
と自分のハンカチを巻き付ける。
「これでひとまず大丈夫ですよね。」
「ハンカチ汚れてしまいますよ!」
「大したことではありません。いけない、こんな時間だわ。急いで戻らないと。本当にありがとうございました!」
少女は去っていった。
「ノア!」
しばらく少女の姿を目で追っていたが、我にかえり、辺りを見渡すが、どこを探しても婚約者の姿が見当たらないことに気づく。