12.悪役令嬢、ストーリーに乗っかります
「王子、お願いがありますの。」
「聞くだけ聞きましょう、ノア。」
「私と街にいっていただけないかしら。」
「珍しいですね。」
「侯爵家のご令嬢が王子と一緒に街に行きたいだなんて珍しいかもしれませんが。」
「そうじゃなくて、ノアのお願いがマルベスに関連していないことですよ。」
この王子様は、なんて失礼なんだろうか。私がマルベス様に関連することしかお願いしないなんて。そんなこと…いやそうかもしれない。
「是か非を答えてください。」
「そうだな、何より君からの誘いだし行きたいのは山々なんですが、父上や母上に許可を取らなければいけないから早急にというのは。」
「ご安心ください、陛下と王妃様には許可はいただいております。あとは王子の意志のみとなります。」
「準備がいいですね。なら断る必要はありません。しかし、どうやって説得したのか聞いてもいいですか?」
「次期国王になるのであれば、この国の民の暮らしを知ることは必要不可欠ではないかと。二つ返事でご了承くださいました。」
「流石ですね。」
「ありがとうございます。」
「でもどうして街だなんて。」
「そろそろ収穫祭の時期でして、1度体験してみたいなと。」
「そういえばそろそろですね。でも何故僕に?」
「王子と私は婚約者でありますが、いつもゲームや会話だけなので、たまにはどこかに行きたいなと。」
「婚約者と思ってくれていたんですね。…なにか企んでませんか。」
「失礼な。なにも企んでませんよ。」
意外と鋭いなぁ。そう、これはイベントなのである。
ノアが我儘をいい、10歳の王子とノアは収穫祭に参加する。ノアの我儘さに呆れた王子は人の多さを利用しはぐれたフリで別行動をするのだが、あまりの多さにもみくちゃにされ、転んでしまう。人の波から外れ、休憩しているところに女の子が声をかける。
『あら、怪我してるじゃありませんか。大変。』
といい、自分の持っていたハンカチを血が出ている膝に巻き付け、止血をする。
『汚くなってしまうよ。』
『物は汚れていくものですよ。ひとまずこれで大丈夫ですね。ではあたしはこれで。』
『あ、まって!』
女の子はすぐ立ち去ってしまい、どこの誰かも分からないまま手元には女の子のハンカチだけが残る。
そう、それこそ未来のヒロインなのだ。ヒロインは元々平民なのだが、実はとある伯爵の隠し子であり、15歳の時実母が亡くなり、そのまま父の元に引き取られ、学園に通うというストーリーだった。
最終的にはハンカチの刺繍からハンカチの女の子が、ヒロインということを知り、王子はヒロインに愛の言葉を囁くのである。
なんとロマンチックな話であろうか。ありがちなストーリーだったが、こういうのが好きで、「きゃー♡」と身悶えていたのだった。それを生で見れるなら儲けものである。
「分かりました。楽しみにしていますよ、ノア。」
「えぇ、私も楽しみにしています。王子。」
本当に楽しみだ。
「それとは別の話なんですが、名前では呼んでくれないのですか?この前みたいに。」
「私、チェスで勝ちましたわ。」
そう、王子にあってすぐチェスを申し込み、勝ったのだった。名前を呼べとはいわせないようスピーディに。私の作戦勝ちである。
「なるほど。」
「で、王子。そろそろゲームに勝った際のお願いを無しにしたほうがいいかと思うのですが。賭け事は良くないと思いますの。」
「最初に始めたのはノアですよね。」
「うっ。ま、まぁそうですが。あの頃は若かったのです。今は良いこと悪いことの分別がついていますから。」
「100%僕に勝つ自信がなくなったからですか?」
「王子、私は王子に何千回も勝っているんですよ。それに比べ王子が勝ったのはたった1回ですわ。王子が勝つ確率なんて、1%もないじゃありませんか。」
「勝率1%未満の僕に勝つのは造作もないのでは?だったら勝った際の特典だけ楽しんでおいたら得なのではないでしょうか。」
「で、ですが王子があまりに可哀想でみてられませんもの。」
「知っていますか?ノア。」
「はい?」
「僕は負けず嫌いなんです。」
「存じております。」
「負けたままで終わることはできないので、僕としては続けたいと思っています。そしてノアが勝つ確率の方が圧倒的であり、お互い利害が一致しています。それならば辞める必要はないとは思いませんか?」
「…」
「ノアが僕に負けるのが、怖いと仰るのであればやめましょう。」
「…どんどんお願いがエスカレートしても知りませんわよ。」
「僕を誰だと思っているんですか。普通の人よりは叶えられるお願いが多いとは思いますが。」
「後悔しませんように。」
「しませんよ。」
なんだか王子の言葉に言いくるめられた感が凄くて納得しがたいものがあった。