六 補食
「ついたね」
「着きましたね」
ミオという人の家…むしろ、城と言ってもいい…の前に俺達はいる。
「さっきゅん、今更だけどいい?」
「なんすか?」
「ミオちゃんて…妖精じゃないんだ」
…。
「え?」
「この世界に迷い込んだ吸血鬼なんだよね」
…あの、それってすっごい今更ですよねハルさん。
ていうか吸血鬼てあーたね…。
「えい」
「うわっ!」
ハルさんに勢い良くつきとばされる俺。
貧弱とかゆーな。
「な、なにするんすか…ってドア閉まってる!」
なんてこった!
吸血鬼のいるお城というデンジャラスゾーンにたたき込まれてしまった!
さぁて…どうしようかね…今度こそ先祖に会いに行く羽目になるか…
「…ぅるさいなぁ…」
「んおっ!?」
「こんな昼間になんの用〜?」
寝癖がひどい赤いショートヘアーの女の子が出てきた。あ〜…流れからしてこれは…
「ミオさんですか?」
「そだよ〜…もしかして初対面?まだ知らない人いたんだ〜…」
なんか新鮮〜て言いながらまだ眠りから覚めてない感じのミオさん。
なんだか…すっごい無害な雰囲気がただよってるんですが。
そりゃそうか。命の危険があるなら一人でたたき込まないっての。
「初めまして、武藤五月です」
「ムトウサツキちゃん…?長い名前だね〜…」
「いえ、武藤、五月です。それに性別からしてちゃんは不適切です」
ミオさんはそれ聞いて動きがぴたって止まった。
その時
「…まずった」って正直思った。
「…人間?…の男?」
「…は…はぃ…」
沈黙。
ひたすら沈黙。
「わぁぁぁん!人間〜!やった〜!やったよ〜!」
「ぬぉぉ!?」
今日はよく押し倒される日だな!
「…んん…本当に人間だ…」
「ちょ…く…くすぐったいですよ…」
ただ今の状況を説明いたしますと…
ミオさんが仰向けに倒れている俺の上に乗っかって、俺の胸あたりで鼻をこすりつけるように匂いを嗅いでる。
しかもウルウルとした涙上目遣い。そして、反射的に抱き締めたくなる俺。
わかった。小動物が好きなんだ。俺。
「生き血なんて何年ぶりだろ…うう…」
「…って、もう吸う側で決定なんですね?」
「うん。もちのロンです」
選択権はない。
なんとなく、理解しちゃってる。俺ってば慣れてきちゃった。
「う、動かないでね…?えーと…む、武藤クン…」
い、いや。
なんかドキドキするな…これ。痛いのかな〜?とかいうドキドキじゃなくて。
「動かないで…」
ゆっくりとミオさんの顔が俺の首に近づいていく。
「大丈夫…」
ミオさんの息が荒くなってきて、吐息が首にかかってる。
たまらん。
「痛くないよ…」
つーかエロいよ。
うひっ…舌の先が首についた…いよいよ本格的にエロくなってきた。
って!
「いつ吸うんじゃーい!」
「きゃうっ!ごめんなさい!」
俺はもはやイラついてミオさんを投げ飛ばした。
ミオさんはひっくり返って、その回転を生かして後転をして座った。
「うう…だって久々なんだもん…」
「腕あたりじゃダメなんですか?」
「吸血鬼は首から吸うもんでしょ。腕でもいいけど」
「じゃあこれでいいでしょう?」
「テラサンクス」
いただきまーすとミオさんは俺の腕にかぶりついた。痛くは無かった。
どちらかというと腕にはりついている唇の感触のほうが…
「ごちそうさまでした…なんで顔赤いの?」
「血を吸われたからじゃないでしょうか」
「…?まぁいいか。すっごいおいしかった!ありがと!」
「いえ、お安い御用です」
俺はその後、軽く談笑してミオさんの家を後にした。血を吸った後は、最初に会ったときより元気になっていて、やはり吸血鬼なんだなと再確認させされた。
「あ、おかえり」
呑気に座って陽なたぼっこですかハルさん。
「ただいま。突き飛ばした人」
「あれ、もしかして怒ってる?」
「多少」
「なんだ、多少か〜」
…そこはホッとするところじゃない。まあ、なにごともなかったからいいけどさ。