私との距離は
今回は完全に視点を変えて、円藤 加奈美視点で1話分お送りいたします。
屋台の方に向かっていく館さんを見送った後、私は先程まで館さんが触れていた自分の肩にそっと手を当てる。
急なことで驚いちゃったけれど、触れられてしまった。 大きくも優しい、館さんの手が、私のこの無防備な肩に触れていた。 そう思うとすごくドキドキする。
耳元で囁かれたのも覚えてる。 とても近くにいたことを思い出すかのように、私のために、守ってくれるように囁いたあの言葉を。
「円藤、どうしたん? 急に肩なんか触って。 なんかついとったんか?」
「え!? あ、だ、大丈夫です! そんなのじゃ、ないです、から!」
「そうか? ならいいんだけどよぉ? お、濱井も江ノ島も来たみたいだな。 おーい! こっちだぜ!」
小舞さんが梨麻ちゃんと智美ちゃんを呼んでいる。 変に心配させちゃったなぁ。
「お待たせ、2人とも。 館と坂内は買い物かな?」
「そんなところだ。 みんな揃ったところで乗りたいのがあるんだ。 それに・・・」
「なら戻ってくるまで少し木陰にいてもいいですか? 直射日光が辛くて。」
「おう、そうだな。 ならあそこのヤシの木のところにするか。 後で連絡は取ればいいしな。」
そういってみんなで移動をして木陰に座ることにしました。
「加奈美さん。 隣、いいですか?」
「は、はい。 いいですよ。」
安見ちゃんが隣に座る。 木陰なので暑さも和らいでいく。
「どうでした? プチカップル気分は?」
「カ!? なななななな! なにがですか!? 私と館さんは、そんな・・・」
突然の安見ちゃんの発言におもいっきり戸惑ってしまいました。 確かにあの状況ではそう見えても仕方ないですけど、けど・・・
「言ったではないですか。 私達は友達でありライバルだって。 感想を聞いただけでそんなに動揺しているようでは恋敵としては失格ですよ?」
冷静沈着に言ってくる安見ちゃんは、そんな風に見えた光景にも本当に冷静で、今のアワアワしている私なんかよりも全然大人に見える。 だけれど、聞いてきたということは、なにか思い当たる節があるのだろう。 ならばそれの返事をしてみてから様子を見ても遅くはない。
「とても、良かったよ。 体にも、ふ、触れられたし。」
そこまで言ったところで安見ちゃんの様子を伺う。 私も、本当は嫌な女なのか
なって思っちゃうよね。
「そうですか。 私は、水着を褒められたくらいですね。 目は合わせてはくれませんでしたが。」
そんな言葉を安見ちゃんは言ってきた。 少しくらい乱れるかな? って思ったんだけれど、やっぱりそう上手くはいかないよね。 だって・・・
「安見ちゃん。 花火大会のあと・・・ ううん、私たちの、見えてないところで、館さんと、なにがあったの?」
こんなことを聞くのもおかしいし、自分にとって不利になるような事になるのは百も承知なのに、何故か聞きたくなってしまった。
「・・・話してもいいですけど、加奈美さんにはツラい話かもしれないですよ?」
「分かってなかったら、聞いてないよ?」
「・・・それもそう、なのでしょうか?」
安見ちゃんは疑問に思いつつも、口を開いてくれました。
「私の苦手な人に、花火大会の間に遭遇しまして。 そのことで館君に聞いてもらっていたのですよ。 話して、心が軽くなりましたよ。」
安見ちゃんはツラい思いをしていたのはもちろん知らなかったし、どうすればいいのか分からないけれど、そこにいたのが館さんだからこそ話せたのだろうなと思った。 やっぱり安見ちゃんは羨ましいな。
「おーい。 みんなぁ。」
そんなことを思っていたら噂の彼が現れる。 先程の事を思い出して少し赤くなってしまう。
「木陰にいるなら誰か残ってよ。 探すの大変だったんだから。 あれ? 円藤さん大丈夫?」
上から覗き込むように館さんの顔が現れる。 その突拍子もない行動に、私の心拍数は一気にはね上がる。
「す、すすす、すみません。 た、大丈夫ですよ? ぜ、ぜんぜん平気です!」
声がどんどん上ずっていってしまって、驚きと緊張が混じっているのがばれてしまいそうになる。
「? そう? 暑かったらこれ飲む? まだ口はつけてないから大丈夫だよ。」
そう言って本来は自分が飲むために買ってきた飲み物を渡してくれた。
「加奈美さんだけずるいです。 私の分はないのですか?」
「急だったことだから無茶を言わないでよ。 あれだったら後で買ってあげるから。」
「冗談ですよ。 あそこまでして引くに引けなくなったようですので。」
「ちょっと待ってよ。 確かにあれは大胆かなって思ったけど、ああした方がより強調されるかなって思っただけであって。」
「これも冗談です。 館君って結構真に受けることありますよね。 人の話を。」
「そうやって人で遊ぶのも母さんそっくり。 なんか自分の母親をもう一人みてる気分。」
「お母様はお嫌いですか?」
「嫌いだったらもっと反抗しているよ。 ゴールデンウィークの時とかね。」
そんな他愛のない話を、安見ちゃんと館さんは、まるで2人だけになっているかのように楽しく、面白おかしく話しています。
「・・・やっぱり、私じゃダメ、なのかな?」
あの2人の間には入れない。 直感的にそう思った。 でも諦めきれない自分がいる。 館さんの優しさと暖かさに触れてしまった今の私には踏ん切りがつかない。 私は、あの人とは距離が遠く感じる。 振り向かせようとも振り向いてくれない。 近そうで遠い、そんな気分だ。
「円藤さん、みんな集まったから、そろそろ行こうよ。」
1人で考え事をしていた私に手を差し伸べてくれるさん。 本当なら取ってはいけないその手のひらにまた触れてしまった。 それだけで、また彼にときめいてしまった。
ああ、神様。 私のこの気持ちに、終着点はありますか?
いかがだったでしょうか?
最後の館君と安見さんのやりとりは、あの有名な芸人のやり方を参考にしています。
今後このような第三者視点をやるかは気分次第です




