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須今 安見は常に眠たげ  作者: 風祭 風利
第1章 入学~一学期
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帰り道

「こうして一緒に帰るのは初めてではありませんか?」


 話があるということで一緒に帰ることになった僕と安見さん。 言われてみれば学校から電車で通ってるわけだし、駅も同じだから必然的にこうなるのは確かだ。 だけどこうして一緒に帰るのは今までなかった。


「それで話って言うのは?」

「今回のゴールデンウィークのお出掛けの件。 みんなと行けるのは確かに楽しいことなのですが、なんだか少し惜しい気もしているのです。」

「惜しい気持ち?」

「その辺りは私にも良くわからないのですが、なんと言いますか・・・折角二人きりの時に話し合ったことなので、こう、みんなには話さないで行きたかったなと。」


 知られたくなかったってことなのだろうか? 今回の事はいわば2人だけで思い付いたご褒美のようなもの。 他者に知られることはまず無かったのだ。 それなのに自分達が何かの弾みがついて、ああしてみんなで出掛けることになった。 その事について惜しいと行っているのだろうか?


「僕ら2人だけの事だったのにね。 それがいつの間にか広がっちゃったって事なのかな?」

「そういうことですね。 今回は計画を立てていたということになってしまいましたが。」


 そのことをお互いに確認した後、また沈黙が続いた。 どうも今日は気まずい時間が現れる。 どうしたことだろうか?


 特に2人で出掛けることに違和感は無かったし、なにかを期待しているわけでもない。 それなのになぜだか声が掛けづらい。 安見さんも喋ってこないし、どうすればいいんだろう?


 そう思い安見さんの方を見ると、なにやら紙袋の様なものを持っていた。


「安見さん。 その紙袋の中、なにが入ってるの?」

「・・・え!? あ、そ、そうです! これを館君に渡そうと思ってたんです!」


 急に名前を呼ばれたことに驚いたのか、とても普段の安見さんからは想像もつかないような大声が響いた。 近くにいた通行人も驚いていた。 僕が謝ることでは無いけれど、頭を自然と下げていた。


「これは今日の部活の時に試しに作ったものです。 形の方は少し歪になってしまいましたが、味は保証します。 先輩方のお墨付きです。」


 先輩のお墨付きなら問題はないははずだ。 そもそも安見さんは料理が趣味なので、彼女自身になにかない限りはよっぽど変な味にはならないだろうと何回も昼食時にお弁当の食べ比べをしている僕には確信が持てた。


「それでは、これを。」

「うん。 わざわざありがとうね。」

「いえいえ、それに先輩も仰っていた事なのですが、()()()()()の事を考えながら作るとより一層美味しく出来るのだそうです。」

「へぇ、その先輩もいいことを教えて」


 くれるね。 と言おうとしたときにふとあることに気がついた。


 今これを渡そうとしているのは僕だ。 そして安見さんは渡したい人の事を考えるとと言っていた。 つまりこれを作るときに安見さんは僕の事を・・・


 そんな根も葉もないことを考えていたからか、差し出した手が掴んだのは、紙袋の手持ち紐ではなく、それを持っていた()()()()()()()を持ってしまった。


「ひゃっ!」

「わっ!」


 さすがの安見さんも急なことで驚いたようで、声をあげてしまっていた。 それに驚き、僕も声をあげる。 なんとも間抜けなやり取りだ。


「・・・ごめん・・・・・・」

「いえ・・・大丈夫です。」


 そうお互いに何度目かの気まずさを感じながら紙袋を貰うのだった。


「味の感想、聞かせてくださいね?」


 駅のホームで電車を待ちながら安見さんがそんなことを言ってきた。 それは当然の事だし、しっかりと感想は述べるつもりだ。


「あ、そうだ。 そのことで思い出したことがあるんだった。」


 そういうと僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。


「安見さんって「NILE」ってやってるよね?」


「NILE」とは無料の携帯アプリで、これを使えば送りたいメッセージを相手に送れたり、電話も出来る。 しかもグループ登録しておけば複数の人物と電話が出来ると言う優れものだ。 今や携帯を持って人でこのアプリを登録していない人はいないと言われるほどの人気アプリだ。


「勿論ですよ。 今後のために交換しておきますか。」


 そういって安見さんもスマートフォンを取り出して、準備が出来たところで、携帯を振る。 こうすることで近くにいる相手の「NILE」情報がもらえると言うわけだ。


 そうしている間に電車が来たのでその電車に乗りつつ、「NILE」の友達登録を済ませる。


「ありがとうございます。 登録完了しましたよ。」

「安見さんのスマホ、結構シンプルなデザインだね。」


 安見さんのスマホカバーは青紫で閉じれるタイプのものだ。 安見さんらしいと言えばらしい。


「そういう館君は随分と派手ですね。」


 安見さんが僕のスマホカバーの感想を言ってくる。 僕のスマホカバーはメタリックシルバーにしてあるので派手と言えば派手なのだ。


「落としたときに光の反射で分からないかなって。」

「流石に無理がないですかね?」


 そんなことないでしょと思いつつ、電車に揺られ、安見さんの最寄りの駅に着いた。 そこで安見さんは降りることになる。


「それではまた明日です。」

「うん。 また明日。」


 そう会話を交わして、電車のドアが閉まった。 また明日・・・か。 その時間まで名残惜しいと感じてしまうのは、それだけ安見さんの事を見ているからなのだろうか?


 最近の自分は少々おかしい部分がいくつも出てきている。 しかもそれが全部安見さん関係でだ。 この紙袋も貰えるときは嬉しかった。 彼女の手に触れてしまった事に、鼓動が速くなった。 やっぱりおかしくなっているのだろうか? 


「NILE」に登録された、料理のアカウントになっている安見さんの名前の文字を見ながら、そんなことに思い更けていた。

お互いがお互いに自分の気持ちに気が付いていません。

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