球技大会前日
あれから土日をはさみ、来週にゴールデンウィークを控えた水曜日。 いよいよ明日は球技大会になるわけだが、これといってクラス全体の雰囲気は変わらない。 変わったところと言えば、球技大会を認識し始めたところだろうか? 結局のところ、まともな試合にはならなそうだと思っていた。
「バレーチームはともかく、こんなので試合に勝てるのかな?」
最早優勝という言葉云々かんぬんよりもクラスの団結とはどこへと言ったようなレベルで話になっていない。
今の時間は明日に行われる球技大会の作戦会議をする時間として当てられているのだが、前回同様バラバラなグループが、バラバラに話しているため、そもそも作戦会議が成立しない。 これではなんの意味もなさないのだ。
「そもそもドッジボールに作戦なんているのかって話になってしまえばそれまでなんだけどな。」
僕の表情を見て、似たような感想を述べる小舞君。 他のクラスがどうかは分からないが、話し合いという団結くらいは欲しかったところだと思う。
「ま、やる気がないならそれまでじゃね? 館もあんまり深く考えない方がいいかもしれないぜ? その方がいい結果が生まれるかもしれないし。 それじゃ、
俺はあそこのグループと話してくるぜ。」
そう言って小舞君は僕の席を離れる。 取り残された僕は隣で眠っている安見さんを横目で見る。
彼女とは強い約束ではないものの優勝をしたらお出掛けをすると決めてしまった以上はそれなりに頑張りたいのはあるが、全体を通してるわけではないので、厳しい現実になってきたようだ。
「まぁ、優勝なんて遠い話だったのかもね。」
「え? 君も優勝する気だったの?」
第三者の声に耳を傾けると、そこにいたのは濱井さんだった。
「やあ濱井さん。 安見さんなら寝ちゃってるから、しばらくは起きないよ?」
「うん。 確かに安見を呼びたかったのは確かなんだけど、君の話に興味が湧いてきてね。」
「話って・・・・・・今のこの状況じゃ、ドッジボールチームの優勝は無理でしょ。 大体、最初の外野とか、基本的に投げる人とか、なにも決めてないのに、まともに勝てる気がしてこないよ。」
濱井さんの後ろの光景を見ながらそんな風に思う。 やっぱり無理な気がするんだよね。
「確かに今の状況だと女子は端っこに固まって動いて、男子はそれを盾にするんだろうなって見えちゃうよね。」
小学生や中学生の発想の戦い方であるが、強くは否定できないのは、僕もそう思っているからだろうか?
「そういえばルールって女子ってなにか特殊なのは無いの?」
「あー、そういえばそんなの聞いてないなぁ。 高校生だからそういうハンデは無しってことなのかな?」
随分と厳しいものを感じる。 これでは女子と男子の不平等さが目立ってしまう気がしてしまう。
「やっぱりさっきの話は無しになっちゃうなぁ。」
「優勝したいなら、もっとなにかあればよかったんだけど、クラスの団結力の向上が目的ならもっと先だよね。 時期的にはさ。」
そうは思うのだがイベントとしては外せない訳で。
「そう言えば館は安見の事は守ったりしないの? ほら、姫を守る騎士みたいにさ。」
「そんなことはないと思うよ。 むしろ安見さんは自分でどうにか出来ると思うし。」
「その心は?」
「安見さん、起きてるときは普通に運動神経はあるんだ。 授業だって起きていればちゃんとノートを取ってるし。」
そう、安見さんは寝ていなければスペックは高いのだ。 寝てしまうのはそれの反動なのかもしれない。
「・・・・・・・・・ふーん。」
「・・・・・・? どうしたの? 濱井さん?」
「いやぁ、安見のことをよく見てるなぁって。」
「まあね、隣だし。 それによく眠ってるのを見てるからさ。」
「いやいや、まだ1ヶ月も経ってないのに、そんな風に男女が見てるってよっぽどの事だと思うよ?」
そうかなぁ? 無くはないとは思うんだけど・・・
「よく2人でお昼食べに行ったり、部活も同じなんでしょ?」
「正確には僕は裁縫関係、安見さんは料理関係だけどね。」
「それでも一緒にいることが多くない?」
言われてみればそうかもしれない。 入学式前に桜の木の下で会って、同じクラスになって、そこからよく2人で色々と話し合ったりもして、プライベートでも会えることが分かって・・・・・・あれ? なんでこんなに安見さんと一緒にいることが多いんだ? 多分だけど坂内君たちよりも一緒にいるような気がしてきた。
「そ・れ・に。 館って安見の事「安見さん」って呼んでるじゃん?」
「あぁ、それは安見さんは三姉妹だから苗字だとややこしいって言われて・・・」
「でも学校にいるときくらいは隠さないの?」
隠さないというか向こうの公認だからなぁ。 それに僕自身ももう慣れてしまった感じがするのだ。
「まぁ館が無自覚ならしょうがないのかなぁ? 安見も気にしてる様子ないし。」
「安見さんとはよく話しているのかい?」
「当然。 女子同士での会話って大事よ。」
それは男子だって同じだ。 僕だって坂内君や小舞君との友情を確かめあっていたりするんだから。
「まぁ館が無自覚のうちに聞いておこうかな?」
「何を?」
「安見の事、好きなの?」
その質問にどう答えればいいのか分からなかったが、今浮かんできた言葉を紡ぐ事にした。
「安見さんとは友達? 確かに目が離せないような存在だけれど、好きかどうかっていう感情はまだ分からないや。」
多分濱井さんの聞きたい好きは「人として」ではなく「1人の女子として」というニュアンスだろう。 だから今の僕にそんな感情がまだ無いのかもしれない。 だからこそそんな曖昧な答えになってしまった。
「・・・ふーん。 そっか。 安見も似たような事を言ってたし。 まだまだってところかな。」
「・・・どういう意味さ、それ。」
「気にしないで~。 まぁ、明日から頑張りましょう。」
そう言って手をヒラヒラして去っていく。 なにが聞きたかったのだろうか? 疑問符を並べながら、隣の席を見るとそこには起き上がっていた安見さんがいた。 そのいきなりの行動に少しビックリしてしまった。
「あ、お、おはよう安見さん。」
「濱井さんと楽しそうにお話ししてましたね。」
その言葉にビクリとする。 表情こそ変わってはないが、何やらただならぬ雰囲気があった。
「えっと・・・・・・どこから起きてたのかな~ ・・・・・・なんて。」
聞くのは正直怖かったが、聞かずにはいられない衝動に駆られ、安見さんに質問をぶつけてみる。
「あまり覚えていませんね。 会話の内容もあまり聞いていませんでしたし。」
「そ、そうなんだ。」
少しホッとしたのだが、それが嘘か真か分からない。 分からないけれど、今は聞かれてないんだということにしておこう。 小舞君の言う通り深く考え過ぎてるかもしれないと不思議と実感した。




