卒業式で思うこと
「今日は君達がこの学校に来る最後の日となった。 もちろん名残惜しさはあるだろう。 だが君達に訪れる新しい門出のために、私達職員と在校生一同は君達の卒業を存分に使って祝おう。」
校長先生の話も終わり、体育館には拍手が贈られる。
今日は言わずもがな、3年生が主役の卒業式に参加をしている。 先輩達の最後の学校生活。 思い返すことはたくさんあることだろう。 それをただ数時間で済ませるのは、心許ないようにも思える。 そしてそんな先輩達の背中を見て、僕達も同じ道を歩むことになる。 それが卒業式というものなのかもしれない。
「って言ったって、俺達がなにかするわけでもないんだよなぁ。」
卒業式も終え、残るは先輩達を正門から送り届けるだけとなった時間の教室。 小舞君の言うことに少なからず僕も納得していた。
「言われてみれば私達は3年生の方々とあまり接点が無かったかも知れませんね。」
「部活に入っていても、中々一緒になることも無かったし、演劇部も学びにいこうとしても、時間を取らせては貰えなかった。」
安見さんと坂内君、そして僕は部活動をしているためそう言う機会もあったのだろうが、今回ばかりは恵まれなかったのだ。 そう言うことはみんな同じなようで、卒業生と言われても、思い出がなければピンとは来ないものなのだろう。
「でもさすがに見送りしないのは間違ってるよね。」
「そうですね。 支えてきてくれた先輩方々に、感謝が無いわけではありませんので。」
濱井さんや江ノ島さんの言うとおり、思い出はなくとも見送りは出来る。 それはそれ、これはこれということだ。
「卒業生が正門から出られるぞ。 みんな外に向かうぞ。」
担任の先生の合図にみんなゾロゾロと歩き始める。 思い出を作ることは叶わなかったけれど、せめてお見送りだけはしないとなと、歩きながら感じた。
『ご卒業! おめでとうございます!』
1年生一同でそんな言葉をクラスごとで繰り返し発していた。 とはいえ僕達だって心を込めてお送りしたいのだ。 最大限まで見送るのが1年生の務めだと感じるから。
「ふあぁ、これで卒業式も終わりかぁ。 なんか、実感湧かねぇなぁ。 先輩達が居なくなるって。」
卒業式も終わり、僕らもそれ以上授業は無かったので、下校することとなった帰り道、みんなで駅まで向かう途中に、小舞君がそう呟いた。
「とはいえ私達も後半月もすれば春休みが始まり、来月には進級をして後輩を迎え居れることになる。 そうなれば我々も先輩としての苦労が分かるようになるやもしれないぞ。」
坂内君は先輩が居なくなったことよりも、新たにくる新入生の事で気持ちを切り替えているようだ。
「そういえば今年の春休みって、そんなに長くないらしいよ?」
「春休みと言っても、長期休暇と言うわけじゃ、ないから、その辺りは、妥当かと思いますが。」
濱井さんと円藤さんは春休みの話をしている。 気が早いとは言わないけれどどうなんだろうと思ってしまう。
そんなこんなで学校の最寄り駅周辺に着いて、少し気になる光景が目に止まった。 それは噴水広場前で制服を来ている男女な姿があった。 卒業証書の筒を持っているということは僕らの学校の卒業生みたい。
「どうした館? あの二人になにかあるのか?」
「ううん。 でもなんだか気になっちゃって。」
特に先輩達の事を知っているわけではないので、気にするような事でもないのだろうが、なんだか気になってしまって、目が離せなくなった。
「・・・ふむふむ。 なるほど。 ・・・あぁそれで・・・うむうむ。」
「・・・坂内君? いったいなにをしているのですか?」
なんだか1人で納得をし始めている坂内君の様子を見て、江ノ島さんがそう質問をした。
「いや、あの2人の会話を聞いていたんだがね。 どうやら彼らは結婚を前提に付き合っていたそうなのだ。」
「・・・分かるのか? 会話の内容が。」
「演劇部としてはあまり必要な事ではないのだが、元々私は耳が良いのでな。 雑音がない状態ならこのくらいの距離は聞こえるんだ。」
それは知らなかった。 というかそれならある程度の会話は聞いていたってことになるのではないか? そんな疑問を避けつつ、坂内君は耳を傾ける。
「それで、なんの会話をしているの? あの先輩達。」
「先程も言ったが、あの2人は付き合っている。 しかもお互いに高卒で仕事をするので、2人で部屋を探すのだそうだ。」
「二人暮らしですか。 なんだかロマンのあるお話ですわね。」
そんな会話をこんなところで聞かれているとは思ってもないだろうなぁと少し同情しつつも、彼らの会話を聞くのは続く。
「・・・ぬっ!?」
「ど、どうしたの!?」
「う、うむ。 二人暮らしをする部屋を決めて部屋をコーディネートして、落ち着いたら最初に・・・その・・・「ヤりたい」んだそうだ。」
坂内君が気まずそうにそう内容を説明する。 その言葉を聞いてみんな同じ答えに至ったのか、なんだか居たたまれなくなってしまった。
「・・・行こうか。 ここにいても、なんだか申し訳無いし。」
そこで僕がだした結論は退散することだった。 みんなもそれに乗っかり、駅のホームに向かった。
改札口を通り、みんなで並んで電車を待っている。 ちらほらと他の学校の学生もいるのを横目で確認した。
「まあ、人の人生に踏み込むのは良くないよね。」
「そうですね。 幸せを掴む権利は、みな平等に与えられているんですから。」
濱井さんと江ノ島さんはなにかを染々と感じたように語っていた。
「向こうには、気付かれて、ないでしょうか?」
「その辺りは心配ないだろ。 こっちはそれなりに遠かったし。 なあ、坂内。」
「どうだろうか? 聞こえてはなくても見えていた気もしなくはないぞ?」
円藤さん、小舞君、坂内君は聞き耳を立てていたことに、相手が気が付いていないかの心配をしていた。 そんな中で安見さんだけはただ遠くを見ていた。
「安見さん? どうしたの? そんなぼぅっとして。」
特にこれといって意味はないのかも知れないけれど、なんとなく聞きたくなってしまったので聞いてみた。 立ったまま寝てないよね?
「私も・・・」
急に喋り始めたので、次に発せられた爆弾に対する反応と意味の読み取りが咄嗟に出来なかった。
「私も光輝君と卒業するのでしょうか。」
先程の会話のこともあってか、安見さんの言っている意味が飲み込めなかった。 それは近くにいたみんなも同じ様で、違和感に誰も気が付けなかった。
「・・・え? 安見さん?」
当の安見さんは遠くを見た後に僕の顔を見ると
「・・・あっ。」
なにかに気が付いた様に声をあげて・・・その後に顔や手が一瞬にして真っ赤になった。
「あっ!? ち、ちちち違いますよ!? み、皆さんと卒業出来るかなと、ふと思っただけで、べ、べべべ別にそんな変なことを考えてなんて、これっぽっちも・・・」
安見さんが急に慌てふためいたので何事かと疑問に思ったけれど、少し考えてから、
「安見さん大丈夫だよ。 僕らはなにも変なことなんて考えないから。」
そう言って、電車がくるまでに安見さんを落ち着かせなければと勝手な使命感が生まれていたのだった。
正直3年生との絡みを全く考えていなかったので、この話は飛ばそうかとも考えたのですが、あまりにも時間が飛びすぎるのも気持ちが良くないと考えて、急遽考えて作った話です。 重大イベントではあるんですけどね。




