対策は・・・するべき?
そんな事を聞いた帰り道、僕と安見さんは部活終わりで一緒に帰っているなかで安見さんにも同じ様に話をした。
「それは確かに注意しなければなりませんね。」
「いくら半月先の話とは言え、そんなことを聞かれたらね。 さすがに伝えないわけにもいかないわけで・・・」
「まだ浮かれるような時期ではない筈なのですが、噂が闊歩しているだけだったりするのでは?」
僕だって1週間前な聞かされたならともかく、こんなに早くに対策をしておけと言われてもとは感じていた。
「しかし決め事をしておくのは悪くないのではないでしょうか? どのような妨害が来るのかまでは予測できないので。」
「そうかもね。 まずは渡すまでの道のりとかだよね。」
「今年のバレンタインデーは木曜日らしいですので、土日に渡すのも変な感じがしますよね。」
当日のイベントとして組まれているのならそれはおかしくなってしまう。 妨害を確実に避けられるならそれが一番いいのだが、特別な日には特別な事をしたいものだ。
「それで道のりについてなのですが、登校時間をお互いにずらせば問題ないと思います。」
「登校中に渡す可能性を無くすわけだ。」
「そう言うことです。」
「これに関してはなんだかんだやれているから大丈夫だね。 次は渡す場所だけど・・・」
「人目の事を考えるなら教室でいいと思いますよ。 知り合いも多いですし、私たちの関係を知っている人が大半ですので。」
それはそれでどうなんだろ? 確かにバレているのなら妨害も無いだろうけれど。
「それに私たちは別に校舎裏だとか屋上だとか、シチュエーション的なものに拘りを持っても意味ないと思うので。」
「安見さん。 それ言ってて悲しくならない?」
「学校では何かしら妨害を受けているので、そこまでする必要がないと判断した結果です。」
そう言うことならば・・・でもなんか納得しにくいなぁ。 深く追求してもしょうがないのは分かるんだけど。
「問題は帰宅時ですよ。 結局のところここで浮かれて、その隙を狙われると私は考えています。」
「確かに帰る時が一番危険かもね。」
「なので私は考えたのですが、ここは坂内君や小舞君の協力を仰ぎましょう。」
「それって・・・集団下校するってこと?」
「彼らにとってもメリットにはなると思いますよ? 彼らも同じ境遇にはなる筈なので。」
あぁ、確かに今の皆なら境遇はほとんど一緒だから、互いが互いを守れてWin-Winな関係になるのか。そこまでの対策は考えてなかったな。
「じゃあ当日はバレンタインデー当日はそんな感じで行こうか。 まあ普通はこんな会話すらもしないと思うんだけどね。」
「そうかもしれませんね。」
学校から電車に乗って安見さんの最寄り駅まで着いたところで僕らは降りる。僕はもう1つ向こうの駅だけど、最近は安見さんとこうして一緒に帰るのが日課になっている。
「そういえば光輝君。」
そんな安見さんの家に向かう帰り道。 安見さんからお声がかかる。 こう言った時の安見さんはなにかを質問をしてくるのは感覚で慣れた。
「今回のバレンタインチョコでなにかリクエストはありますか?」
「リクエスト?」
「なにか食べてみたいと思うチョコレートがあれば、可能な限りでお作りいたします。」
「それはいいんだけど、なんで今・・・あぁ。」
どうやらこれから試作に入るのだろうなと考えた僕は、これ以上はなにも言わずに、自分が食べてみたいと思うチョコレート料理を考えてみる。
あんまり凝りすぎたものだと作るのは大変だろうし、かといってありきたりっぽいのはちょっと違うよなぁ。
「あっ。」
そこで1つ思い出したことがあった。
「あれがいいな。 ランド・オブ・スウェーデンの中で見かけたチョコレートケーキ。」
「スウェーデンの・・・クラッドカーカと呼ばれるケーキの事ですよね? でも何故あれを?」
「いやぁ、普通のチョコレートケーキとなにが違うのかなって気になっててさ。」
完全にこちらの個人的な探求心から言ってみた事だけど、僕は安見さんが料理関連でミスをすることは無いのではないかと考えての発言でもある。 そう言うと安見さんは自分の顎に親指を当てて、悩んでいる様子を見せた後に、なにか納得したように1つ、首を縦に振った。
「分かりました。 ではそれでいきましょう。 それと違いを分かるように普通のチョコレートケーキも用意致します。」
「え? そんなわざわざいいのに。 そこまでしなくても。」
「いえ、これは私の好奇心の問題でもあります。 私も頑張りますよ。」
「張り切りすぎないでよ? 人の事は言えないけど、安見さんやり始めると意外と止まらない人だから。」
「でもその分反動が凄いんですよ。 休憩と言って目を瞑ったらいつの間にか2時間近く寝ていたことなんてざらなのです。」
「なんか、理由が安見さんらしさフルスロットルなんだけど。」
そんな会話を繰り広げている内に、安見さんの家に到着していた。 まだ誰も帰っていないらしく、家の中は静まり返っていた。
「それじゃあまた明日ね。」
「ええ、また明日です。」
そう言って安見さんの家から自分の家に帰ろうと思った時、
「あら館君。 こんにちは。」
ちょうど帰宅してきた音理亜さんと遭遇した。
「どうも、音理亜さん。」
「じーっ」
頭を下げて顔をあげると音理亜さんが僕の顔を見ていた。 どうしたんだろう?
「あの、僕の顔になにかついてます?」
「んー。 何て言うか、私は安見の姉な訳なのよ。」
「はい。 それは分かっております。」
「でね。 館君は安見と同じだから、年下になるわけなのよ。」
「・・・はい・・・?」
話の意図が掴めない。 音理亜さんはなにが言いたいのだろうか?
「だから館君も、私の事を「お姉さん」呼ばわりして欲しいかなって思って。」
「え? でも僕は音理亜さんの家族では・・・」
「双方の親が公認してるならもはや家族みたいなものでしょ? まあここは1つ「お姉さん」って呼んで欲しいかな? 呼びやすい言い方でいいから。」
そうする意図は良く分かんないけれど、それに関しては疑問にはあまり思わなかったので、試しに言ってみることにした。
「えっと・・・音理亜・・・お姉さん?」
「最初は慣れないかも知れないけど、今後から私を呼ぶときはそう呼んでね?」
そう言って音理亜・・・お姉さんは家に入っていった。
「音理亜さんって弟が欲しかったりしてた?」
「そんなことはないと思いますが、多分家族以外から言われたかったのではないでしょうか?」
ひそひそ話で安見さんと話す。 流石の安見さんでも分からないか。 そう思いながら今度こそ僕は自分の家に帰るのだった。




