クリスマスデート 時間は過ぎ・・・
お昼ごはんを堪能したので、改めて「ランド・オブ・スウェーデン」を楽しむことにした。
楽しむと言っても先ほどは行けなかった場所に足を運んだり、お土産屋さんでスウェーデン特有の置物なんかを見ていたりしていただけだが、それでも色々と安見さんと会話をするのはとても楽しい。 それを安見さんも感じていたのか、僕の視線に笑顔で返してくる。 今回は頑張って良かったと、本当に思った。
「うわー。 凄い人になってきたねぇ。」
「まだ陽は高いですが、恐らくはこのイベントの為でしょう。」
安見さんとパンフレットを見ると、冬季限定で行われる、噴水のショーがあるようだ。 近くで見たいと前の方に行く人達でごった返しているようだ。 おかげで向こう側に行くことも出来なくなっていた。
「私たちも見ていきませんか? まだ時間はあるようですし。」
そう言って時計を確認すると時刻は3時半。 噴水の時間は4時からのようで、始まる前には見える位置に行ければいいところかな?
「そうだね。 それなら探しに行こうか。 噴水を見れる場所に。」
そう言って僕は手を差し出す。
「あの? これは?」
「これだけの人混みだと、はぐれたら大変でしょ? だから手を繋ごうかと・・・思ったんだけど・・・」
自分で言っていてなんだか急に恥ずかしくなってきた。 確かに僕らは手を繋いだことはほとんどない。 こういったところもカップルらしくないのかなと思ったりはするけれど。 そう思っていたら差し出した左手に柔らかくて、少し冷たい感触が伝わってくる。
「こ、こうで・・・いい・・・ですか?」
見てみると安見さんが右手で僕の左手を掴んでいた。 改めてカップルらしいことをして、自分でやっておいて固まってしまった。 そして「ハッ」と自分を取り戻して、
「う、うん! それじゃあ行こうか!」
自分を誤魔化すために移動を始めた。
「いやぁ凄かったねぇ。 あれで水が一切ぶつからないんだから本当に精密に決められてるんだよねえ。」
「水の入水タイミングなども計算に入れていると考えると、それだけ微調整がいります。 あの噴水の設計をした人は本当に素晴らしいと思います。」
寒空の下、あれだけの芸当は凄いと本当に関心をしていた僕と安見さん。 空が雪雲のせいか若干暗くなるのが早い感じもするけれど、僕らは帰る前にお土産屋さんに行くことにした。 目的は家族のお土産と自分達の思い出の為だ。
「うーん、あのハッロングロットムも良かったけれど、こっちのルッセカットもいいかな?」
「あ、光輝君、 これはどうですか? 年明けの時期に食べられるスイーツだそうですよ? これからの時期にはぴったりではないですか?」
「どれどれ? あ、安見さん。 これ生菓子だよ。 持ち帰るには少し不向きかもよ?」
そう二人で話し合って家族のお土産は、僕はルッセカットというパンのようなもの。 安見さんはハッロングロットムにしたようだ。 どうやらあの味を味わって欲しいようだ。
「僕らのお土産はどうしようか?」
「そうですねぇ・・・」
二人してお土産屋さんの店内をキョロキョロと見渡していると、ふと目に止まったのは木彫りの馬だった。 赤をベースに様々な模様が施されている。 それだけのシンプルな置物なのだが何故だか目を奪われていた。
「お客様、そちらのダーラナホースが気になりますか?」
あまりにも惹かれていたのか、店員さんが声をかけてきた。
「ええ。 でもこんなに大きいのは流石に持てないなと思って。 キーホルダーやストラップのようなものはありますか?」
「もちろんありますよ。 こちらに。」
そう言って店員さんに案内されたのは先ほどのダーラナホースをストラップにしたものだった。 しかも誕生日によって色や模様が違うタイプのあれだった。 これなら僕と安見さんとで違うお揃いが出来る。
「すみません光輝君。 先に出てしまって。」
「気にしないで。 僕もお土産は買えたから。」
安見さんは先に買い物を済ませて外で待っていた。 降雪量が増えてきたので中で待っていても良かったのではないかと思ったけれど、待たせた僕が言えたことではないので、言わないことにした。
「あ、安見さん。 これ、受け取ってくれる?」
そう言って僕は先ほどのダーラナホースのストラップを渡す。 安見さんの誕生日が2月だということで、アメジストと同じ様に紫色のダーラナホースを選んだ。 腰のところにダイヤのマークが施されている。
「ありがとうございます。 私だけ貰っていいのでしょうか?」
「そう言うと思って、僕の分も自分で買ってあるよ。」
そう言って僕が買ったダーラナホースのストラップを見せる。 10月の誕生石はオパールなので白に様々な色が散りばめられているデザインのものだった。 あまり綺麗とは言いがたいけれど深く追究してはいけない。
「これでお揃いでしょ?」
「ふふっ。 そうですね。」
そう笑いながら僕らは入園口前にやってくる。 そうして近くのベンチに座る。 周りを見るとカップルが今日という思い出を残そうと写真を撮っていた。 時刻は5時前、まだ最終バスには早いが来たときの時刻などを考えると、このくらいの時間がいいぐらいだろう。 歩き疲れたし。
「光輝君。」
安見さんは目の前の光景を見ている僕に声をかけてくる。
「今日は本当にいい思い出になりました。」
そんなごく当たり前な事を言ってくる。
「うん。 僕も楽しかった。」
だから僕も同じ様に返事を返す。
「こんなにロマンチックなクリスマスなんて、私出来ないと思っていたんです。 縁がないのではないかと。」
そう語る安見さんはどこか寂しげだった。
「でもそれが出来たのは光輝君。 あなたに出逢えたからです。」
安見さんからお礼を言われる。 その返しに僕は少し困惑した。
「僕は何もしてないよ。 安見さんと行きたいと思ったから来た。 それだけだよ。」
僕は安見さんに目線を向ける。 いつの間にか安見さんは僕のすぐ目の前にいた。
「それでも嬉しいのですよ。」
安見さんはまっすぐこちらを見ている。
「好きな人と、こうしてロマンチックな場所に来れることが、なにより嬉しいのです。」
「安見さん・・・」
「光輝君。」
安見さんは一度目を閉じて、そして今までに見たことがないようなとびきりの笑顔で。
「大好きです。」
その一言を僕に聞かせてくれた。 その笑顔と言葉に「ドクン」と心臓の鼓動が高まったけれど、それでも言葉を返さないといけないので、まだ心臓はドキドキしている。 だけれども伝えたい言葉。
「僕も、大好きだよ。 安見さん。」
そうハッキリと声に出す。
そして僕らは目を閉じ、
人目も気にせず、
誰にも憚れることなく、
ただただ純粋な気持ちで、
唇を重ねた。




