須今さんが見ている
「それで預かって、今やっているということですか。」
昼休みに差し掛かり、僕は須今さんと一緒に前に見つけた大樹の下で前と同じようにお昼ご飯を楽しんだ後に、円藤さんが再度僕の机の前に来て、今度は最初から脱いだ状態で渡しにきた。 ちゃんとハーフパンツも履いていた。
「そうそう。 ここなら裁縫室も近いし少し糸を拝借しようと思ってね。」
ここの大樹の近くには調理室があることから須今さんが見つけたスポット。 調理室が近いと言うことは裁縫室も近くにある。 家庭科部で使われている教室があるので、そのまま糸も拝借出来るということだ。
「普段は買い置きをしておくんだけど、そのストックも無くなりそうだったのを忘れててね。 こうして少しだけ貰ったって訳。」
「勝手に持っていっても良いものなのでしょうか?」
「放課後に言えば大丈夫だし、先輩たちも「自由に使っていい」って言ってくれてたから、今回はご好意に甘えようかなって。」
また休みの時に買いに行かないとなぁ。
「お優しいのですね。」
「まあ、頼まれたからにはねぇ。 やらないとなって思ってるんだけど・・・ なんでそんなにむくれてるの?」
僕も須今さんもお弁当は食べ終えて、今は所謂ゆっくりしている時間だ。 それなのにスカートを縫っているのを横目に見える須今さんは、ご機嫌ナナメな感じなのだ。
「別になんでもないですよ? 平然と他人のスカートを持って一緒に行動して、その上でこういう場ですぐに直す姿勢は素晴らしいと思いますよ?」
何故だろう、微妙に褒めてるのか分からないような事を言い始めた須今さん。 その間こっち側に顔を向けてくれない。
「でもなにも隣に女子がいるときにやることはないと思うんですけれど、その辺りはどうお考えで?」
返す言葉が一切見当たらない。 須今さんの言葉が突き刺さるようだ。
「大体こんなところまで持ってきて、いくら裁縫室が近くにあるとはいえ、直した後すぐに返せないじゃないですか。 その間困ってしまうのは円藤さんなのではないですか?」
これに関しては僕自身も全く危惧していなかった。 スカートを僕に預けていると言うことは今円藤さんはハーフパンツ状態でいることになる。 学生としてはあまり誉められた格好ではない。
「そ、それは分かったよ。 次があるかは分からないけれど気を付ける。 でもそれで須今さんが怒る理由があまり見当たらないんだけど・・・・・・」
そう、これは完全に僕自身の不注意やら突発的な行動から来ているものなので、反省はしなければならない。 だがそれだけなのに須今さんが異様に言ってくることに少々疑問を持った。
「それに関しては・・・・・・私にも良く分からないんです。 他の女子のみなさんとお話している分にはあまり気にはならないのに、円藤さんのスカートを直してるという事実があることに、何故かモヤモヤするのです。」
「そっか、須今さん自身が分からないなら僕が分かるわけないよね。 あ、もしかして相手が円藤さんだからかな? ほら彼女、かなり身勝手にだけどクラスのマドンナになっちゃたし。」
「名誉を取られたくらいではこんな風にはなりません。 第一あんなのは投票とも言えないでしょう?」
「それは確かにね。」
他愛ない話をしながらも須今さんの方を見るが未だに機嫌は直っていない。 彼女の何を怒らせてしまったのだろうか? 乙女心いうものは分からない。
「よし、なんとか出来た。」
手に持っているスカートの裂けていた部分を修復出来たので、改めてどこか他に悪いところがないか確認をする。
全体を見て、特に無いようなのでホッとする。
「スカートをそんなにジロジロと見るものではありませんよ?」
その様子を見ていたのか、須今さんがまた突っ込んでくる。 なんというか、普段は寝ている姿の方が多い須今さんだが、こうして怒る姿を見るのは初めてだ。 あまり怒っているという表情には見えないが、ヒシヒシと怒りは伝わってくる。
「須今さん。 まだ怒ってるの?」
「別に怒っている訳ではありません。 ただ館さんが、あまりにも物事を考えてないなと思っているだけです。」
それじゃあ良くわからないんだけど。 まだ機嫌は直ってくれなさそうだ。
「えっと、須今さん。 機嫌を直していただけると、僕としても有難いんですけれど・・・・・・」
正直今の須今さんとはやりにくい節が出てきている。 なんとか彼女の機嫌を元に戻さなければと思うのだが。
「では1つだけ。 まずは正座してください。」
「う、うん。 分かった。」
そう言われてすぐに正座の体勢にはいる。 ここからお説教タイムになってしまうのだろうか?
「これから私が行うことを何一つ嫌な顔をせずに、見ていてください。」
「え?」
そう言うと須今さんは頭を僕の正座している太ももに乗せてきた。 膝枕と言うものになっている状態だ。 顔は僕と同じ方向を向いている。
「す、すすす、須今さん!?」
あまりにも唐突な事をされて、僕はパニックになっている。 そんなことを知ってか知らずか、須今さんはそのまま眠りについてしまった。
「え、ええっとぉ・・・」
完全に動けなくなってしまった僕はもうどうすることも出来なかった。 そんな状態で須今さんは寝返りをうつ。 その眠ってる表情やたるや、どこか吸い込まれそうなくらいに美しい寝顔だった。 いつもは突っ伏しているので良く見えなかったが、こうして見ると良く眠れているのが良く分かる。
須今さんの事はまだまだ知らないことが多い。 でも、この寝顔を見ていると、これも彼女の一面なんだと改めて思う。 大樹の下で春の暖かさを感じながら、須今さんが起きるまで、この暖かさを堪能したのだった。
もちろん須今さんが起きたときには、昼休みが終わるギリギリだったし、スカートもちゃんと円藤さんに返したけどね。
この気持ちは嫉妬からなのか、乙女心からなのか。




