化かされ
運転手に道を教えてもらいバスを降りる。
うう、寒み。
見渡す限り雪で真っ白だ。
行くか、早く行かないと日が暮れる。
教えられた農道を遠くに見える部落目指して歩む。
俺は歩きながら此処にいる訳を思い起こしていた。
高校に入学してからチョット羽目を外しすぎ、2学期の終わりごろには留年が決定。
3学期を真面目に過ごしても必要な出席日数に届かない。
それに激怒した親父が担任と交渉して、2学期の終わりで留年が決定しているのなら3学期中は学校に行かせずに、親父の従兄弟が宮司をしている神社に放り込んで俺の心根を叩き直すという事が決められる。
で、正月三箇日が過ぎたばかりの今、田んぼに囲まれた農道を歩いている訳だ。
寒くて身体をすくませて歩く俺の目に、雪に覆われている田んぼを何かが横切って行くのが映った。
何だ?
目を凝らしてよく見る。
犬? 違うな、あ、狐だ。
俺は雪を手に取り雪玉を作り狐に向けて投げる。
ヨシャ!
雪玉が狐の頭に命中。
二個目の雪玉を投げる前に狐は逃げちまった。
逃げていく狐を見ていたら、後ろから頭を叩かれ怒鳴られる。
「コラ! 何をしているの!
お狐様に雪玉を投げるなんて、罰当たりな事をするな!」
叩かれたところを押さえながら振り向く。
二十歳前後の女が俺を睨んでいた。
「うん? 見かけない奴だな。
余所者か? 何処に行くんだ?」
俺が文句を言う前に女が畳み掛けて質問してくるので、勢いに押されて答える。
「この先の神社に用があるんだよ」
「神社? 狐神社の事か?」
「そう言えばそんな名称だったな」
「それなら此方の道よ」
そう言いながら山の方へ続く道を指差す。
指差された山の方を見てげんなりしながらも礼を言う。
「あ、どうも」
「この道を真っ直ぐに歩けば神社に行きつくから。
それから!
狐神社はその名の通りお狐様を祭っている神社なの、だからお狐様は大事にしなさい。
分かった?」
「はあ、分かりました。
そんじゃ」
御座なりな返事を返し山の方へ向けて歩き始める。
山の方へ歩きだしたら雪がチラホラと落ちて来た。
強く降りだす前に神社に辿り着かなくては。
山の上に向かう坂道を登り始めたら周りの風景が変わり、一面見通しの良い田んぼだったのが、枝に大量の雪を乗せた木々が生い茂り壁のように視界を遮る。
坂道を登り続けていたら、生い茂る木々の奥の方からコーン!!と獣の鳴き声がした。
鳴き声が周りに響いた途端、木々の上に乗っていた雪が落ちて来る。
「ウオ! 危ねえ」
危うく雪の下敷きになるところだった。
生い茂る木々の壁の所為で気が付かなかったが、いつの間にか日が暮れている。
数十メートル毎にある街路灯のお陰で道に迷う事は無いだろうけど。
でも、まだ先かよ? 腹減ったなぁー。
歩き続けていたら降り注ぐ雪に消されかかった足跡に気がつき、俺はその足跡を辿りながら神社に向けて歩き続けた。
獣の鳴き声が響いたとき神社の鳥居と参道にも大量の雪が落ち、鳥居と参道を雪の下に埋めてしまう。
表の鳥居と参道だけで無く、神社の裏にある駐車場も雪に埋まった。
雪が舞う夜、少年が一周前の自分の足跡を辿りながら神社の周りをグルグルと歩き続けている。
木々の奥から笑みを浮かべた狐が眺めているとも知らずに。