雪桜
春、桜の木々で俺たちが訪れている丘陵地帯はピンク色に染まる。
高校生の頃から連んでいて大学卒業後もなんやかんやと集まっている俺たちは、桜の大木の下で此処に来る途中にスーパーで買ってきた料理をパク付きながら頭上の花々に見入る。
桜の花々と料理を堪能した俺たちは帰路についた。
帰り道に立ち寄ったコンビニで俺たちは変な噂話を聞く。
あの丘陵地帯には出るって噂があるんだとか、何が出るんだって? 決まってるだろ幽霊だよ。
それで夏にまた俺たちは葉桜になって緑に包まれている丘陵地帯に行く。
でも一晩中寝ずに幽霊が出るのを待ったけど幽霊なんて出なかった。
ガセネタを掴まされたらしい。
そんで冬、アレだけ見事な桜の木々があるならライトアップすれば雪桜も楽しめるだろうと、雪が積もる丘陵地帯に来て途中のスーパーで買って来た食材で色々作っている。
大鍋でオデンや鍋物を煮込み蒸し器で餡饅肉饅を蒸す。
来たときはまだ明るかったけど料理が出来上がった今は暗くなっている。
ライトのスイッチが入れられ桜の木々がライトアップされた。
そのとき仲間の1人が「そのガキ、誰が連れて来たんだ?」と言う。
そいつが顔を向けている所を見ると、ボロボロの衣服を纏って痩せ細って青白い顔のガキがいた。
否、ガキだけじゃない。
ガキと同じくボロボロの衣服を纏い痩せ細り青白い顔で口元から涎を流す多数の老若男女が、俺たちを取り囲んでいた。
ガキもそうだがそいつら全員、足が無い。
俺たちは作った料理もライトも何もかも打ち捨てて、こけつまろびつしながら車に飛び乗りその場から逃げ出した。
丘陵地帯から数キロ離れたところにあったガソリンスタンドに逃げ込みそこにいた従業員に幽霊の事を話す。
従業員は俺たちの話しを聞いてから呆れた顔で教えてくれた。
「あんたら今の季節にあそこに行ったのか? 今の季節あそこには出るんだよ幽霊がな。
昔、戦乱が続いていた頃の冬、あの桜林に他国から逃げて来た難民の群れが辿りついたんだが、周辺の村でも食料が不足する冬場だったんで食い物を分けてやる事が出来ずにいたら皆んな餓死したんだよ。
だからあの丘陵地帯には地元の者は冬場には絶対に近寄らないのさ」




