手のひらで踊る
幼い頃に両親を相次いで亡くした俺を育ててくれた曾祖父の爺が死んだ。
交通事故に巻き込まれ、病院のベッドの上で身体中にチューブやコードをつけられていながら風呂に入りたい、入りたいと駄々をこねまくった挙げ句に亡くなる。
「女と風呂とほんの少しの酒さえあれば満足だ」が、口癖だった爺。
女好きだったのは葬式に来た人たちの顔ぶれを見れば分かる。
近所のお婆ちゃん小母さんお姉さんたちだけにとどまらず、テレビや雑誌でよく見かける日本の芸能人や外国の映画俳優などに、世界の国々の王室関係者の代理として出席した各国大使の顔ぶれを見れば。
その女性にモテる爺の血を俺は1滴も継ぐ事が出来なかった。
十代半ばの頃20代後半の綺麗なお姉さんと仲良くなり、そのお姉さんに童貞を卒業させて貰える。
だけど後で知った事だけど、爺の女の1人だっただけでなく、卒業させてやってくれと爺に頼まれて俺と仲良くなったらしい。
卒業させては貰ったとはいえ爺の手のひらで踊らされた恨みから、爺が俺の枕元に立ち「風呂に入りたいのだ」と言う訴えを無視し続ける。
そうしたら爺の野郎実力行使に出やがった。
「あぁー、風呂はやっぱり好いなぁー」
身体を洗っていたら突然聞こえた爺の声で振り返り湯船を見る。
そうしたらのんびりと湯船に浸かる爺の姿が目に入った。
「ウワァ、ジジイ! 迷い出て来やがったか?」
「ヨウ、元気だったか? お前が風呂に入れてくれないからこっちから入りに来たのだわ」
それから1時間程のんびりとお湯に浸かってから爺は、「また来るからな」の言葉を残して帰って行ったというか消えた。
冗談じゃ無い度々来られてたまるかと思い、入婿なのに女好きだった所為で曾祖母に家から叩き出され入る墓が無く仏壇の脇に置いてあった爺の骨壺を、風呂桶のような形の墓を造ってそこに入れてやる。
それが効果覿面だったのか爺が風呂に入りに来る事は無かった……、つい先程までは。
洗い場で背中を洗おうとしたとき後ろから声をかけられる。
「背中を洗ってやるからタオルを寄越せ」
え? と思い振り返ったら爺がいた。
「何しに来たぁー!」
「ん? 風呂に入れるようにして貰えた礼を言いに来たのだよ、ありがとう」
「分かったからサッサとあの世に帰ってくれ!」
「あとな、お前ももう30過ぎなのに儂の曾孫かと疑問に思う程モテない、そんなお前に御利益があるようにと思って女神様たちを連れて来たのだ」
湯船の方を見やりながら言う。
湯船の中には気持ち良さそうにお湯に浸かる、金髪碧眼の外人さんを含む3人の美女がいた。
「皆んな、愛や恋をつかさどる女神様たちだからありがたく祈っとけ」
爺と女神様たちを何度も交互に見ながら、俺は爺の手のひらで踊らされ続ける運命なのだと、悟らされるのであった。




