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触手
年越しそばを食べるため、旅館のロビーの脇にあるお食事処に足を運ぶ。
温泉に浸かる事だけが目的の日帰り客用のお食事処だが、年末年始は日帰り客の来館はお断りしているとの事。
それでも村にあるただ一軒の蕎麦屋なだけあって、宿泊客だけでなく村の人たちや休息中の従業員などで店の中は満員だった。
店の中を見渡して掘り炬燵に1人座っている女性を見つけ声を掛ける。
「相席宜しいでしょうか?」
窓の外の降り積もる雪景色を眺めていた女性が顔を私の方へ向け、返事を返してきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言ってから靴を脱いで座敷に上がり掘り炬燵の中に足を入れる。
「あ、痛!」
女性の足を踏んでしまったようだ。
「ごめんなさい!」
詫びの言葉を口にしてから、女性の足の位置を確認するため掘り炬燵の布団を心持ち捲ると、掘り炬燵の中は触手で満ちていた。




