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鬘
「ワァ、眺めが凄く好いよ」
「あ、ホントだぁ」
「ほら、お茶を入れたから炬燵に入りなさい」
「「ハーイ」」
お母さんに声をかけられて私たち姉妹も掘り炬燵に足を入れ座る。
ん? 炬燵に入れた足が何かを踏んづけた。
炬燵布団を捲り中を覗き込んで踏んづけた物を見る。
『髪? 違うな……あ! 鬘だ』
手を伸ばし指で摘んで拾い上げる。
「これ炬燵の中に落ちていたけど、前の人が忘れて行ったのかな?」
「それなに?」
「鬘」
「フロントに持って行ってあげなさい」
「ウン、そうすキャ!」
突然身を捩るようにして鬘が動き出したので私は鬘を放り出す。
放り出された鬘はその下面に虫の脚のような物を多数生やしてカサカサカサカサという音をたてながら、遅れて部屋に入って来たお父さんが開けた入り口の戸の隙間から外に走り出て行った。




