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約束
雪が舞う夜、町の郊外にある兵営の前の街路灯の下に若い女性が傘も差さずに佇んでいた。
彼女は全兵士が前線に出動した真っ暗な兵営の中を覗き込み、溜め息を1つつくと町の中に戻って行く。
翌日の夜も若い女性は兵営の前の街路灯の下に佇んでいる。
彼女は約束したのだ愛しい恋人と此処で会おうと。
前線が崩壊し多数の将兵が逃げ戻って来る。
逃げ戻って来た兵士は憲兵に捕まり、町の外にある防衛陣地に再配置された。
防衛陣地の方を眺めていた彼女の目に、愛しい恋人の姿が映る。
恋人は彼女の姿を見つけて駆け寄り抱きしめキスをした。
「待っていてくれたんだね」
うん、その言葉に彼女は頷きを返す。
2人は互いの手を握り瓦礫の散乱する町の中に歩みだした。
2人の姿は雪降る夜の闇の中に溶け込むように消えて行く。
町は兵営の兵士が全員前線に出動した夜、敵の猛爆撃をうけ住民全員が犠牲になっていたのだった。