気配
雪が深々と降る夜、国家機密に関する物を作っている工場の監視ルームで警備員である俺たち3人は、工場内外に設置されているカメラから送られてくる映像をチェックしていた。
映像のチェックという単調な作業中に居眠りしないように椅子に座ってチェックを行う同僚2人と、彼らの後ろで立ったままチェックを行う俺。
従業員の姿が無い工場内や人里から結構離れた場所にある工場の周りは静まり返り、昼間の喧騒が嘘のように感じる。
深々と降る雪がその静寂に輪をかけていた。
モニターの中で動いているのは、工場内を2人一組で巡回している数組の武装警備員の姿だけ。
そのとき同僚の1人がモニターの1つを指差しながら声を上げた。
「オ、オイ、こ、これを見ろ!
姿は見えないが、何かが門に近寄って来ているぞ」
俺ともう1人の同僚が声を上げた同僚が指差すモニターに目を向ける。
確かに深々と降り積もる雪の上に人間の足跡にしては妙にデッカイ跡があって、足跡の主の姿はカメラに映っていないのにそのデッカイ足跡だけが点々と工場の正門前に近寄って来ていた。
俺は足跡を写すカメラのスイッチを操作して、微光増幅式暗視映像を赤外線映像に切り替える。
だが赤外線映像にしても足跡の主の姿はモニターに映し出され無い。
工場の正門前に近寄って来た足跡は門の前で止まった。
俺たちには見えないが、足跡の主は正門前で周りを見渡しているように思える。
そして足跡の主は足跡を写しているカメラに気が付きそのカメラのレンズを覗き込んだ。
姿は見えない、見えないが、カメラのレンズ越しに足跡の主が俺たちの事を認識し見ているように感じる。
足跡の主はカメラを覗いていたが暫くしてカメラから視線を外したらしい、らしいって言うのはレンズ越しに見られている気配が無くなったからだ。
見られている感じが無くなってホッとした途端、門の脇に設置されている呼び鈴が押された。
ピンポーン!
姿は見えない見えないが、呼び鈴を押しているのは門の前の足跡の主に違いない。
俺たちは呼び鈴に答えるべきかどうか顔を見合わせた。
だけど俺もだが全員が首を小刻みに横に振っている。
また呼び鈴が鳴った。
ピンポーン!
通常だと呼び鈴が鳴らされた時はカメラで姿を確認したあとインターホン越しに来訪の用件を聞き、用件によっては監視ルームに隣接する警備員控え室から武装警備員を出迎えに行かせるのだが、今回は呼び鈴を無視する事にする。
ピンポーン!
また呼び鈴が鳴る。
俺たちは顔を見合わせながら首を小刻みに横に振り続けた。
3度呼び鈴が鳴ったあと門の前から足跡の主の気配が消える。
気配の主がいなくなったと思い肩の力が抜けた正にその時、俺たちの後ろに今までカメラ越しに漂っていた気配が現れた。
俺たちは息を詰め身体を竦ませ、警報を鳴らす事も腰に吊るしている拳銃を抜くことも出来ずに、気配がする何も見えない空間を凝視する。
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身を竦ませている俺たちに向けて、何も見えない空間から唐突に声が発せられた。
「スイマセン、ミチヲオシエテクダサイ」




