雪原
昨日から会社の同僚たちとスキーに来ている。
それなりに滑れる同僚たちと違いスキー初心者の私は、旅館に着いた時には疲労困憊していて夕食も摂らずに寝てしまう。
その所為か朝、日が昇る前に目が覚めた私は奥の部屋で眠っている皆を起こさないように、手前の部屋で掘り炬燵の上に散乱している昨晩夕食のあと行われたらしい飲み会の肴を口にしながら、1人静かに本を読んでいる。
掘り炬燵の中に突然冷たい風が吹き込んで来た。
そして私の足が何者かに掴まれ炬燵の中に引きずり込まれそうになる。
読んでいた本を放り出し炬燵の縁にしがみついて大声で助けを求める。
「助けてくれーー!」
私の叫び声で奥の部屋から寝惚け眼の同僚たちが飛び出て来た。
「「「「「どうしたんだ!!!!!」」」」」
「炬燵の中に引きずり込まれるーー! 助けてーー!」
私の必死な叫びに同僚たちは半信半疑な面持ちながらも、私の腕や服を掴み炬燵の外に引っ張り出してくれた。
声を出すことも出来ず震えている私の代わりに、炬燵の中を覗いた同僚が皆に説明する。
「炬燵の底に雪原が広がり、雪原にいる奴等が手を伸ばしてこいつの足を引っ張っていた」
「「「「本当かよ????」」」」
「疑うのか?
でも、そうだよな。
お前らがこいつを炬燵の外に引っ張り出したら雪原が消え、見慣れた炬燵の底に戻ったからな。
俺自身、見えた光景に半信半疑なんだわ」