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赤い長靴


僕はバイトを終え雪が舞う暗い夜道を歩いている。


この街の大学に通う為に地方の町から出て来て借りたアパートに帰る途中。


借りたアパートの大家さんに教えられた事だけど、この道には幽霊が出ると聞く。


冬の間この道は唯でさえ、除雪した雪の壁で歩道を歩く人の姿が車道を走る車から見え辛い。


だから横断歩道を渡ろうとする人は、雪の壁の間から頭を覗かせ左右を見渡してから渡っていた。


それなのにそんな歩行者を無視するように、スピードを落とさず横断歩道の存在さえ無視して走る車が多数存在する。


そんな車が事故を起こすのだ。


事故を起こした車の運転手は皆、口を揃えて赤い長靴を履いた女の子が車の前に飛び出て来たと話した。


しかし事故を目撃した人たちは誰も女の子を見ておらず、目撃した人たちの全員が、突然車が急ハンドルを切り単独事故を起こしたと証言。


道路沿いに昔から住んでいる人の話だが、30年程昔、信号のある横断歩道で歩行者側が青のとき横断していた幼い女の子が、猛スピードで雪道を走って来た暴走車に撥ねられ亡くなった、その女の子が赤い長靴を履いていたらしい。


その事故を誘発する赤い長靴を履いた女の子の幽霊と同じ女の子なのか定かでは無いけど、夜この道を歩いていると後ろから小さな赤い長靴が、サク、サク、サクと音を立てて付いて来るとも聞く。


と言っても付いて来るだけで何をするわけでも無く、暫くすると聞こえなくなるらしいけど。


『サク、サク、サク、サク…………』


ほら、こういう音を立てて付いて来るって、え! 


振り向いて後ろを見る。


雪の上に僕の足跡が付いているけど、その足跡は降り続く雪で直ぐ消えて行く。


その僕の足跡が消えた雪の上に小さな足跡が付いていた。


僕が立ち止まったのに合わせるように、小さな足跡を付けた赤い長靴も2メートル程後ろで立っている。


今の状況で当然と言って良いのか分からないけど、赤い長靴を履いている筈の子供の姿は見当たら無い。


僕はその赤い長靴を目にしたとき怖いって思うより先に、僕が小学生のとき死んだ妹が脳裏に浮かんだ。


細い路地をスピードを落とさず通り抜けようとした車に撥ねられ死んだ、幼い妹。


妹を思い浮かべながら僕は赤い長靴に向けて話し掛けた。


「そこにいるのかな? そこで、ちょっとだけ待っていてくれるかい」


僕は数分前にその前を通り過ぎたコンビニに向けて走る。


コンビニで妹が好きだった缶入りの甘酒とあんまんを購入。


それから赤い長靴の前に急いで駆け戻った。


購入して来た甘酒とあんまんが入ったビニール袋を、赤い長靴を履いていると思われる見えない女の子に「これ食べて暖まって」と声を掛けながら差し出す。


「お兄ちゃん、ありがとう」


女の子の声が聞こえたと思ったら、僕の前に赤い長靴を履いた可愛い顔の幼い女の子が立っていた。


幼い女の子は甘酒とあんまんが入ったビニール袋を受け取り、僕に手を振ると歩いて来た方に駈けて行く。


その後ろ姿は直ぐに雪が舞う夜の闇に溶け込むように消えた。


僕は次に帰省した時に、妹が眠る墓に甘酒とあんまんを持って行こうと思いながら帰路に付いた。








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