物語の中のような世界
「「「待てー!!!」」」
「「「止まれー!!!」」」
多数の警察官が数人の男女のグループを追いかけていた。
数人の男女のグループの行く手を阻むようにブリザードが吹き荒れている。
しかし数人の男女のグループは、ブリザードの中に嬉々とした顔で駆け込んで行く。
ブリザードの向こう側に、温かそうなファンタジーの読み物の中で語られるような景色が広がっているのを見たからだろう。
私はその後を追おうとする警察官たちの前に立ち塞がり、行く手を阻みながら警察官たちに声をかける。
「駄目だ! あの世界に行くと戻って来れなくなるぞ!」
「「「どけー!!!」」」
私に行く手を阻まれ怒号を上げる警察官たちの中から、指揮官らしい年配の男が他の警察官たちを掻き分けて前に出て来ると私に話しかけて来た。
「あの男女は、連続強盗殺人事件の犯人グループなのです。
やっと、やっと、此処まで追い詰める事が出来ました。
お願いですから退いてください」
私はその年配の警察官の目を見ながら返事を返す。
「極寒の地でブリザードの向こう側に温かそうな大地が広がっているのを見たと言う話を、貴方も聞いた事があると思います。
でも、見たと言う話を聞いた事があっても行って来たと言う話を聞いた事は無い筈だ。
あちら側の世界に行ったらこちら側には戻って来れないんです。
私は此の極寒の地で長い間ハンターをして来た、だから、あの物語の中に出てくるような世界を数十回以上見た事がある。
今見えている景色は物語の中のような世界で極楽浄土に見える。
確かに極楽浄土のような世界に行けるかもしれないが、大部分は違うんだ!
人と獣の間の子のような生物が闊歩して人を奴隷にしている世界や、恐竜のような巨大な生物が人を食っている世界も見たことがある。
極楽浄土のように見えても極楽なのはあそこだけで、あそこの後ろ側には白骨が散らばる荒野が広がっている世界だったり、痩せ衰え身体中にケロイドがある男女が共喰いしている世界だったりするんだ。
ですから私たちに出来るのは、あの男女があちらの世界で痛い目に会うよう祈る事だけなんです」
私の話しを聞いた警察官たちは悔しさで歪む顔を下に向け、目に涙を滲ませながら嗚咽を漏らす。
と、段々と薄れていくブリザードの向こう側の景色に目を向けた私の目に、物語りのような世界に駆け込んだ男女の姿が映る。
「ほら、見て!」
薄れゆく世界の景色の中で、醜悪な顔をした小人のような生物の群れに追いかけ回され狩られていく男女の姿が見えていた。




