固有種の虫
私の目の前には遙か彼方まで続く大雪原が広がっていた。
昔、大祖国防衛戦争と言われている戦争の最中、この雪原で侵略者の軍勢が行方不明となりそれが戦争の趨勢を決める。
極寒の季節、侵略者の軍勢は極地を迂回して我が国の首都の後ろ側に回り込み、無防備な背後から奇襲を行うという作戦を計画し実行した。
その総勢20万人の軍勢が我が国の首都を攻撃するのを今や遅しと待っていた、首都の前面で我が国の軍勢を引き付けていた囮部隊が、奇襲部隊がいる事を知らない我が国の防衛軍の反撃を受け壊滅。
そのまま侵略者の軍隊は押しまくられ、あれよあれよという間に我が国の軍隊に国境を突破される。
有力な周辺数カ国の仲介で戦争は停戦を経て終決するが、終決するまでに国境の向こう側で我が国の軍隊による報復の虐殺等が行われたこともあり、行方不明になった軍勢の本格的捜索が行われたのは戦争が終結してから10年以上経ってから。
その捜索も簡単に行かず、捜索していた捜索隊の幾つかの隊の隊員数百人まで行方不明になる。
戦車や装甲車に大砲などの武器は、冬は大雪原になる大平原で発見された。
しかし20万人以上いた将兵の消息は依然行方不明のままである。
と、公式記録に載っているのだが、実は、20万人以上の将兵や捜索隊の数百人の隊員がどうなったのかは、大雪原に隣接する大森林に住む私たちは知っていた。
彼等は一言で言うと、死んだ、食われたのだ。
この大雪原にはこの大雪原にしか生息していない固有種の虫がいる。
普通の虫と違い、固有種の虫は夏は夏眠して冬に動き出して繁殖等を行う。
で、この虫、肉食なのだ。
軍勢の将兵も捜索隊の隊員も全てこの虫に食われたのだ。
何故私たちは無事なのかと言うと、この虫、大雪原という縄張りに入って来た獲物には容赦しないが、逆に大雪原という縄張りから一切出て来ないから縄張りに入らない限り食われない。
何でその事を政府や捜索隊に話さないのかと言うと、私たち大森林に住む者たちは虫のお零れを頂いているからだ。
虫は人の肉だけで無く、髪の毛も爪も骨も血も全て平らげる。
しかし哀れな犠牲者が纏っていた服や持物はその場に残る訳だ。
それを私たち大森林に住む者たちは春、虫たちが夏眠を始めてから大雪原というか大平原に行き、放置されている犠牲者の着ていた服や持物を持ち帰る。
それら持ち帰った物を大山脈の向こう側から来る他国の行商人に売って暮らす生活を、この国が建国される遙か昔から行っているからなのだ。




