貴方の子よ
取引先の大企業の会長が所有する別荘に招待された。
招待されパーティーが行われた夜、別荘が雪崩に巻き込まれる。
会長が所有する別荘の左右にも多数の別荘があったにも関わらず、狙ったかのように会長の別荘だけが雪崩に巻き込まれた。
別荘には招待客と別荘の使用人などを含む100人近い人たちが宿泊していたのに、犠牲者は1人だけで済む。
犠牲者の男は、パーティーの最中ベランダで山を見上げながらホットウィスキーを飲んでいた私に語りかけて来た会長の孫娘婿、次期社長とも噂されていた男は私と同じようにホットウィスキーを口にし目に涙を浮かべながら語った。
「私は15〜6年程昔、妻と結婚する前の事ですが、此の山で結婚を約束していた女性を亡くしました。
彼女を含む大学時代の友人等5〜6人でスキーに来て楽しんでいたとき吹雪に巻き込まれましてね、彼女だけが行方不明になってしまったのです。
一緒にスキーに来ていた友人等や救助隊の人たちと必死に探したのですが、彼女は見つかりませんでした…………」
「楽しいパーティーなのにこんな話しをしてしまってすみません。
山を見ていたら誰かに聞いて貰いたくなってしまいまして……」
別荘での犠牲者は孫娘婿のこの男1人だけだったが不思議な事に、男が見つけ出された場所からは3体の遺体が掘り出される。
男と首に絞殺跡がある女性の遺体に、4ヶ月程の胎児の遺体だ。
不思議なのは遺体が3体あった事だけで無く、雪崩に巻き込まれた別荘にいた全ての人がこんな話し声を耳にしている事。
『ああ……会いたかったは、見て、見て、貴方の子よ。
ほら、お父さんに抱いてもらいなさい』




