5/86
足跡
旅館の暖かい部屋の中から窓の外を眺めている。
会社の同僚数人とスキーに来たのだが天候が悪化してスキー場が閉鎖されたため、今は此処で待機中。
同僚は皆、旅館の露天風呂が混浴だと聞き浸かりに行った。
スキー場のある山の上は猛吹雪が続いているが、麓にある旅館の周りはときたま小降りになり、雪に覆われた景色が顔を覗かせる。
一面の銀世界を見ていると、新雪の上を素足で歩いてみたいという思いが頭をよぎる。
子供の頃なら躊躇することなく外に飛び出して行っただろうけど、社会人になった今はそんな恥ずかしい事は出来ない。
そんなたわいない事を思いながら窓越しに見える雪景色を眺めている僕の前を、透明な人間のようなものが横切って行く、新雪の上に足跡を残しながら。