避難所
涼しい場所を求めて標高1500メートルの山の上に家を建てた。
夏は涼しいが冬は寒くなりすぎると聞き、断熱材をふんだんに使い夏は涼しく冬は暖かい家の筈だったのに……。
今夏なのに、寒すぎる……って言うか恐い。
家の中を白っぽいモヤモヤした何かが横切って行く。
知り合いの高名なお坊さまに見てもらったら、うちの家、霊の通り道に建てられてました。
今更建て直しなんて出来ないからお坊さまのお寺の除霊の御札を大量購入して、扉や窓だけで無く壁や天井など家のあらゆる所に貼りつける。
お蔭で御札を貼り付けた後は、白っぽいモヤモヤとした物を家の中で見ることは無くなった。
冬になり家の中で温温している。
テレビの天気情報では、高度1500メートル付近にマイナス100℃の寒波が到来しているらしいが、断熱材をふんだんに使った我が家はそんな寒さが嘘のように暖かい。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴った。
こんな寒い晩に訪ねて来るのは誰だ?
扉の前を映す監視カメラの映像を映し出しているモニターを覗く。
アレ? 誰もいない。
ピンポーン!
また鳴った、扉の前に人の姿が無いのに何故?
人の姿は無いけど、白っぽいモヤモヤした物が映ってる。
ヒィ! れ、霊なのか?
と、ベランダのシャッターが外からドンドンドンと叩かれた。
あり得ない、防犯のため家中の扉や窓の周りには2〜3台ずつ監視カメラを設置してあるだけで無く、ベランダは内側からのみ開けられる扉がついた鉄格子で区切られ、外からベランダに入る事は出来ないのに。
ピンポーン! ピンポーン! ドンドンドンドン! ピンポーン! ドンドンドンドン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!
ヒイィィィィーーーー!
怖いよー! 助けてくれー!
南無阿弥陀仏! 南妙法蓮華経!
私は知っている限りのお経を唱え続けた。
翌朝一番に知り合いのお坊さまに電話を掛けて事情を話し来てもらう。
私はお坊さまが来るまで家の中でお経を唱え続ける。
ピンポーン!
お坊さまが来られた。
扉を開けると、扉の前やベランダのシャッターの前には凍りついた白っぽいモヤモヤした物が幾つも立っている。
それを見ながらお坊さま曰く。
「昨晩のあまりの寒さに霊たちも耐えきれず、家の中に避難させてもらおうとして呼び鈴を鳴らしたりシャッターを叩いたりしたのだと思いますよ」




