真冬の怪異

死者からの誘い

時折風の吹きすさぶ音が聞こえる以外静寂が支配する雪原。

上に向けば冬の澄みわたる夜空一面を覆うように輝く星々。

チェアに座りホットウィスキーのグラスを両手で包み込むように持った男性が、ウイスキーを一口飲んだあと画面の向こう側にいる人たちに向けて語る。

「此処に来て、此の素晴らしい夜空を一緒に楽しみませんか？」

男性がそう語ったあと画面が左に振られる。

親子で夜空を見学に来たのかホットチョコレート飲料が入ったマグカップをそれぞれ両手で包み込むように持つ、４人組の家族が夜空を眺め歓声を上げている所が映された。

次に画面は男性の右側を映す。

少し離れた所に雪原の上で抱き合った男女が寝転び、火酒の瓶の中身を交互に舐めながら夜空を見上げている。

パソコンやスマホで此の光景を見た幾人かの人たちが行ってみるかと腰を上げた時、画面に警告のテロップが映し出された。

警告の下に警告した理由の文字が並ぶ。

此の動画は正常な状態で発信された物ではありません。

画像を良く見てください。

ウイスキーが入ったグラスや火酒の瓶の中身が、飲まれているのに凍り付いているのか全く動いてません。

それに極寒の地で暖房器具が無ければ数分で凍死するような場所の筈なのに、画面に映る人たちの傍に火の気が全く無いのもおかしいです。

「チッ！」

突然画面の向こう側で大きな舌打ちの音が響いた。

続いてホットウイスキーを飲んでいた男の声が聞こえて来る。

「寒くて暗いこんな場所に１人で居たくないから、仲間を増やそうとしてたのに邪魔しやがって、覚えてろ！」

罵声が響いたあと唐突に動画が途切れた。