昇進出来ない理由
『そっちじゃ無い、こっちだよ、こっち』
何処からともなく男性の声が聞こえて来た。
私に狩りのノウハウを教えてくれた爺ちゃんに初めて単独ハンティングの許可を受け、雪原で狩りを行っていたら猛吹雪にあってしまいホワイトアウトで一寸先も真っ白、このままじゃ道に迷い遭難死するか凍死するかの瀬戸際で聞こえて来た声。
導かれるままに歩くこと数時間、私は村外れに建つ猟師小屋に辿り着けた。
よろめきながら小屋に入って来た私を見て、吹雪が止んだら私を探しに行こうと準備していた爺ちゃんや村のハンターの人たちが歓声を上げる。
爺ちゃんはフラフラ状態の私の肩を抱き小屋の外に連れ出すと、吹雪いていて視界の効かない雪原の彼方に向けてお辞儀をし、「地縛霊様、孫をお導きくださり感謝致します」と言い、私にも同じように感謝の言葉を述べるように促した。
小屋に戻り暖を取る私に爺ちゃんが、昔雪原で亡くなった男の事を話してくれる。
昔、数百年以上の昔、親しくなった女性とクリスマスにデートして共に過ごそうと約束していた男が、クリスマスの当日女性と待ち合わせの場所に行った時、男はその女性とその女の友人等に嘲笑いと共に迎えられ親しくなった理由を教えられた。
女は友人等と賭けをして、男がクリスマスまでに女の企みに気が付かずノコノコと待ち合わせの場所に来たら女の勝ちとして、此れから行われるクリスマスパーティーで前から懇ろになりたいと思っていた男性を紹介して貰えるのだと聞かされる。
男は女とその友人たちの嘲笑いを背に受けながらその場を後にし、失意に当てもなく彷徨った挙句、此の雪原に迷い込みそのまま亡くなったらしい。
そして男は地縛霊となる。
地縛霊は雪原に迷い込んだ沢山の人を導き助け出していた。
数百年の間人を助けていれば、土地神に昇進しても良いと思うが未だに昇進出来ないでいる。
『ギャハハハハ！ ザマーミロ！』
地縛霊に助けられてから十数年経った今、私はハンター等村の男衆と共に吹雪の中、雪原にオーロラを見に来て道に迷ったらしい女性数人のグループを探していた。
捜索を行っている私たちの耳に先程の声が響いたのだ。
雪原で遭難したのが男性だけだったり家族連れだったりの場合は、地縛霊は助けの手を差し伸べる。
だが女性だけのグループの場合はさっきの笑い声で分かるように、村の者も滅多に近寄らないヤバい場所に導かれるのだ。
遭難した女性たちは明日か明後日に遺体となって発見されるだろう。
此れが地縛霊が土地神に昇進出来ない理由なのだった。
