赤い雪
「ホントだ! あま〜い」
「お母さん、この雪甘いよ」
「あなたたち! 汚いから雪を食べるのを止めなさい!」
「でもーこの雪本当に甘いから、お母さんもちょっと食べてみてよ」
「ちょっとだけね、あら本当だ、甘いわ」
「クスクス、あの母子雪食べてるよ、甘いってアイスじゃあるまいし、え、ホントに甘い」
スキー場でスキーを楽しんでいた人たちが次々と、雪を「甘い」と言いながら食べだした母子に感化され雪を口に運び歓声を上げた。
数十分後。
最初に雪を口にした子供が突然背筋を伸ばし棒立ちになると、目、口、鼻、耳など全身の穴から血が吹き出し、背筋を伸ばしたまま雪の上に倒れ込む。
それを見た母親が子供の下に行こうとしたが、彼女も子供と同じように背筋を伸ばし棒立ちになると全身の穴という穴から血が吹き出し絶命。
雪を口にしたスキー客やスキー場の係員全員が、母子と同じく次々と背筋を伸ばして棒立ちとなり、血を全身から吹き出して周りの雪を赤く染め倒れて行く。
スキー場がある山の麓からスキー場を見上げた人たちの目には、赤い雪が降ったかのようにスキー場が赤く染まって行くのが見えた。
数日前、スキー場の風上にある某化学工場。
視察に訪れた親会社の社長が工場長に尋ねる。
「なんか甘い臭いがしないか?」
社長の言葉で状況を察した工場長が叫び、社長を地べたに引きずり倒した。
「皆んなー! 身体を低くしろー!」
「何だ? どうしたんだ?」
「そこのバルブを閉めろ!」
工場長は近くにいた工員にバルブを閉めるよう指示を出してから社長の問いに答える。
「原料が漏れていました」
「人に害はあるのか?」
「猛毒です、ただ空気より軽いので、直ぐ空に昇り拡散されますから実害は無い筈です」
「そうか、それなら関係省庁に報告しなくても良いな。
報告なんてしたら工場の稼働が止められるかも知れんからな」
社長は思いもしない。
上空に立ち昇った猛毒のガスは上空の雲の水滴に付着して、数日後雪と共に地上に落ちて来て多数の人を殺すとは想定外の事だった。




