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炬燵


「ねえ、先輩!」


「何だ?」


「道、間違えて無い?」


「ウン、僕もそう思います」


「あの二股か?」


「多分ね」

「そうだと思います」


俺はサークルの後輩の友紀と忠宣の2人と共にスキー場に向かっている筈だったのだが、先程の二股で間違った方へ進んでしまったようだ。


「GPSが付いていたら間違わなかったのに」


「そう言うなよ。


バイト先の社長に頼み込んで、配送車を只で貸して貰えたんだから」


二股の所では此方の道の方が広かったから此方が本道だと思ったのだが、進めば進むほど悪路になっていく。


「この道行き止まりじゃないよね?」


「分からん」


「あ! 先輩、あそこに家がありますよ」


忠宣が前方を指差す。


家の前に車を止め中を窺う。


「何かスゲー襤褸屋だけど人住んでいるのか?」


「其処に車が止まっているから廃屋では無いんじゃないの」


友紀が家の脇の空き地を顎で示した。


屋根にスキーを載せた乗用車が1台空き地に止まっている。


「車があるっていう事は人がいるって事だから、道を教えてもらいましょうよ」


「そうだな」


俺は車を乗用車の脇に移動させた。


「ごめんください」


「何方かいらっしゃいませんか?」


玄関の引き戸を開け、忠宣と交互に中に声を掛けるが物音ひとつしない。


「出掛けているのかな?」


玄関脇に電気のスイッチを見つけパチンパチンと上下させる。


「点かねえな、やっぱり廃屋か?」


「点くわけ無いじゃん」


「どういう事だよ?」


「電球が入っていません」


2人の指摘で顔を上に向ける。


「オイ! 友紀」


忠宣の声で上に向けていた顔を戻すと、友紀が家の奥に入って行くのが見えた。


「ごめんくださ~い。


何方かいらっしゃいませんか~?」


声を掛けながら奥に進む友紀が俺たちの方にパッと顔を向け嬉しそうに話す。


「この部屋に炬燵があるよ」


そう言うと友紀は部屋の中に入って行く。


俺たちも友紀に続いて部屋の中に足を踏み入れた。


「炬燵は点いたよ」


「電気が来ているって事は廃屋では無いのか?」


「でもおかしく無いですか?」


押し入れの襖を開け中を覗いた忠宣が疑問を口にした。


「どうした?」


「押し入れの中空っぽです」


「温かーーい」


押し入れの中を覗き込んでいる俺たちの耳に友紀の声が響く。


「おかしいですよね。


それに乗用車の持ち主がいません」


「2人とも炬燵に入りなよ、温かいよ」


「そうだな、日が暮れて来たから詮索は後にして此処で一泊させてもらおう」


「そうですね。


じゃあ車に積んである毛布と食い物取って来ますか?」


「ああ、そうしよう。


オイ! 友紀、お前も手伝え」


「ヤダ! 炬燵から出たくない」


「チッ、仕方ねえな。


じゃあ旅館に電話しといてくれ。


忠宣行くぞ」


「はい」


車から毛布や食い物を抱えて戻ってくると友紀がいない。


「あれ? どこ行った」


「トイレじゃないですか?」


炬燵の脇に毛布を放り出し炬燵に足を入れた忠宣が返事を返してくる。


「そうかもな、俺も小便してくるわ」


廊下の奥にあるトイレの戸を叩き中に声を掛ける。


「友紀、いるか?」


返事が無いので戸を少しだけ開け中を覗くが友紀の姿は無い。


襖を開けながら忠宣に声を掛ける。


「友紀、トイレにいなかったぞ」


あれ? 返事が返って来ない。


部屋の中に忠宣の姿は無かった、2人共何処に行ったんだ?


取り敢えず炬燵に足を入れる。


フゥー温かい。


炬燵の上の煎餅に手を伸ばそうとした時、突然炬燵の中に引きずり込まれた。


そして俺は2人が何処に行ったのか知る。


「助けてーー炬燵に喰われるーー!」


山奥の廃屋に炬燵が置かれている。


炬燵は次の獲物が来るのを静かに待ち続けていた。




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