人魚の肉
トイレ休息で立ち寄った道の駅で、販売員らしい年寄りが客の親子連れに何か注意していた。
私は耳をそばだてて年寄りの話しを聞く。
「いいかいよく聞きな、彼処に見える山、彼処の山には冬場の今の時期は絶対に立ち入っちゃ駄目だよ」
「何故ですか?」
親子連れの父親らしい男が理由を尋ねた。
「冬場にあの山に入ると、あの子に連れ去られ行方不明になるからだよ。
地元の者は皆それを知っているから、万が一立ち入って行方不明になった人が出ても、春になるまで捜索隊は出さないよ」
「あの子とは?」
「あの子はあの子でよく分からない、ただ、偶々山の裾野で山に入った者たちを見ていた集落の者の話しでは、山に入って行った者たちに小柄な女なのか子供なのか分からないが、話し掛けてるのを見ているからだよ」
「その目撃された人たちは?」
「そのまま行方不明になった」
私はそこまで聞いてから彼らに背を向けバスに戻る。
バスに戻った私に乗客の1人が質問して来た。
「道の駅で聞いたんだけど、此れから向かう山には冬場は絶対に立ち入るな行方不明になるぞって言われたんだけど、大丈夫なんだろうね?」
「あの山はちょっとした風で吹雪になるので、案内人がいないのに山に入ると迷い遭難するんです。
でも、私というガイドがいますから大丈夫です。
それとも、まっさらな新雪の上にファーストトラックを描くのを諦めますか?」
「それは否だ」
「では座ってください、1時間程で山に着きますから」
私はバスに乗っているスキー客たちを山に案内するガイド兼バスの運転手。
バスに乗っている40人程の乗客は、まっさらな新雪の上にファーストトラックを描きたいと世界中から集まって来た人たち。
道の駅から見える山の反対側の裾野にバスを止め、乗客たちを山の上まで導く。
もう少しで山の頂上に着くっていうときに突然、私たちを包むようにして吹雪が発生し周り中が真っ白になる。
吹雪が収まると周りの景色が一変していた。
吹雪が発生する前までは一面銀世界だったのに、今自分たちがいる山は雪に覆われてはいるけど、周りに見える山々の幾つかは緑の木々に覆われている。
それだけでなく、山の頂上付近には槍や弓に剣を手にした、猫や犬など二本足で立つ人のような者たちが多数いた。
乗客の1人が呟く。
「此処は? 彼らは?」
だから私はそれに答える。
「此処はアンタたちの世界とは違う異世界、彼らは獣人」
呟いた男が私に向けて怒鳴った。
「お前は何者なんだ!?」
「道の駅で聞いたでしょ、山に入った者はあの子に連れ去られると、私はそのあの子」
「私たちはどうなるんだ?」
「アンタたちは彼らに狩られ食われるのさ」
「そ、そんな、助けてくれ」
助けを求める彼らを一瞥してから説明を続ける。
「あっちを見て、高い山々が連なっているのが見えるでしょ、あの山の向こう側には獣人族と対立している人族の国がある。
だから死にたく無いのなら、あの山々の向こう側まで逃げれば良いのよ」
私の説明が終わるのを待っていた獣人たちが雄叫びを上げながら駆け下りて来た。
スキー客たちは慌てふためき、こけつまろびつしながら斜面を滑り下りて行く。
スキー客たちは念願通り、まっさらな雪の上にファーストトラックを描きながら逃げる。
その後を獣人たちが駆けて行く。
スキー客を追う獣人たちを見送り年配の獣人が近寄って来て、私に報酬を差し出す。
「ほら何時もの薬だ」
「ありがとう」
此の薬は人魚の肉から作られた不老不死の妙薬。
此れを手に入れる為に私は、向こうの世界の人間を此方の世界に連れて来る。
行方不明になるという噂が広まり山に入って来る人が減った今は、闇サイトでまっさらな新雪の上にファーストトラックを描けるぞという言葉を餌に、犠牲者を募集しているのだ。




