2話 弟襲来
あれから何事もなく平和に過ごしていた。
頻繁にラーナが遊びくるから不仲説だとかいじめなどの噂は立たないだろう。
「アオリ様」
「あら、どうしたの?ルナ」
「旦那様がお呼びです」
「わかったわ」
とうとう来たか。
もうあれから2年経った、いつ来てもおかしくはない。足音を立てないように急ぎながらお父様の部屋へ向かう。
「失礼します」
習った通りきちんと礼をして目の前にいる人物を見た。
「急に呼び出してすまないね」
「いえ...」
「それで話なんだけど。入っておいで」
「?」
ギィィと扉の開く音がなり、書斎の奥を見ると可愛らしい男の子が立っていた。
(別に推しではなかったけどコイツクッソ可愛いな。ショタ恐るべし)
「は、はじめまして」
「アオリ?」
「あっいえ、少し驚いてしまって。はじめまして。貴方名前は?」
「ヴァン...でち...ですっ...!」
(噛んだ。可愛い)
「私はアオリよ、それでお父様彼は...?」
「あぁ、ヴァン君はアオリの弟になるんだよ。その、色々複雑だと思うが仲良くしてやってくれないか」
「えぇ、もちろんですわお父様。よろしくねヴァン」
私がそう言って撫でるとヴァンは顔を赤らめて下を向き、お父様は焦った様子でこう言った。
「いや、まだ子供だし姉と弟になるんだからその...」
お父様は私とヴァンに恋愛感情を持たれるのを嫌がっているようだ。娘を持つ父親はみんなこうなのか。
お父様の事は放っておくにしてもヴァンをどうしようか。こんな可愛い子がヤンデレだなんて考えたくもない。
「はぁ...」
ため息をつくとそれに反応したのかヴァンが
「えと、アオリ...姉様は僕と一緒、嫌?」
(あーもう可愛すぎるよー!!!)
「ううん、嫌じゃないわ。これからも姉様と仲良くしてくれる?」
「っ!うん!!」
横で肩を落としている父を冷たい目で見ながら今後の事を考える。
彼がヤンデレになるのを阻止するのはほぼ不可能だろう。だって彼がヤンデレになるきっかけは去年起こってるはず。
それにしても今微量だが魔力を感じだ。
お父様が気付かないはずがない。自分たちでどうにかしろという事かしら。
「あの、姉様!僕、姉様にお部屋の案内...して欲しいです...!」
「そうね、では行きましょうか」
「はい!」
私たちはお父様の部屋を後にして一緒に歩きはじめた。大雑把に案内して、後は入ってはいけない部屋などの説明もし、ヴァンの部屋へ連れて行った。
たしかここでイベントがあるのよね。
拒否したいけどこのイベントだけはクリアしないとヴァンルートに入った途端死亡確定だから...。
大人しく部屋へ入るとガチャっと鍵を閉める音が聞こえた。
(はじまったか)
「ヴァン?どうしたの?」
「姉様、は僕の事嫌...い?」
「そんな事ないわ。お父様の書斎でも言ったでしょ?私は貴方と仲良くしたいの」
「ほん、と?」
「えぇ、ほんとよ」
そろそろ来るはず。
「でも、僕の事好き、言ってくれる人...と姉様反応が、違うよ」
(なにっ!?この魔力!でも...さすがヒロインね、特別なだけあるわ)
「そう?人によって愛情表現は異なるものよ」
「...で」
「ん?」
「なんで効かないの!」
大きな声に体が跳ねる。
ふぅっと息を吐いてゲーム通りのセリフを思い出して復唱する。完璧に覚えてる訳じゃないから多分間違ってるだろうけど。
「貴方は自分の魔力を過信しすぎね。確かに貴方の魔力は素晴らしいわ。今まではその力で生きてきたのでしょう、でも今は違う。そんな力に頼らなくても皆見捨てたりなんてしないわ」
そう言ってヴァンを抱きしめた。
(あぁ...嫌だなー...でもこのイベントは絶対クリアしないと死んじゃうからな......でも痛いのやだな)
このイベントはこの後ヴァンにハサミで刺されて倒れ、お父様がなんとかしてくれるはすだ。
その後はヴァンから謝りに来てくれる。じゃないと困る。
「うる、さい!」
(やっぱりこうなるんだね...)
今からくる痛みを覚悟して目をつむる。
「うるさいうるさいうるさい!!!!」
「ぐっ...」
鈍い痛みが身体中に走る。
刺されたのはお腹のはずなんだけど痛すぎでどこを刺されたのかすらわからない。
「ヴァ...ン......」
薄れる意識の中でドアが開いたのがわかる。
「アオリ様!!ヴァン様何を!!」
ルナの声が部屋に響く。おそらく周りにいる召使い皆に聞こえているだろう。
(もう...ダメだ......お父様、後は頼んだ...)
私は心の中でお父様に丸投げし、意識を手放した。