1話 ~なんかメたいぞこれ!~
……ん?あれ…
僕は今、地平線?かは分からないけど見た感じ、彼方へと続く様な真っ白の空間にポツリと佇んでいた。
はて、どうしたもんかね~。やたらと体が軽く感じるし、頭が冴えてる。
『あら、起きましたか?』
「なっ…!」
そして僕は言葉を失う事になる。
思わず声がした方を向くと、the・女神とも言える存在感を醸し出した美人が居たからだ。
光り輝く黄金の髪にマッチする人形の様な顔、ボリューム感の有るお胸にふっくらとした臀部、それらに適合し過ぎる程に魅力的な腰、くびれ、むっちりとした太腿から下に行く程細くなる足…
何だこれは!?これはなんだ!?
(マジかよ…可愛いかよ…)
『あら、ありがとうね。ふふふ』
凛とした逞しい声、それから鈴のように透き通る声、それ等が混ざりあって奏でられる神の囀りの様な声。
美しい、四魂は素直にそう感じた。
「声に出てた!?」
『ふふふ、違うわ。私、心の声が聞こえるから』
「えっ!マジで!?ど、どうやって!?」
僕は堪らず聞いた。
小さい頃からの癖か、事が有ると何でも知ろうとする。まぁ、それが災いして何時も酷い目にあったんだけどね。
周りや両親からの虐めや虐待、兄妹に因るスルー等は僕の黒歴史、って言うか漆黒歴史の序の口に過ぎないのだ。
彼は現世にて地獄を見た。其れこそ身体中を切り刻まれたし、骨は粉々に粉砕された。
心の奥底、根底に眠る黒き心黒き心は、目の前に居る美人にすら悟られない程小さな存在であった。
ただそれは、紛れもなく存在、混在する。決して悟られぬ様、闇以外の凡べてを犠牲として影を作る。その中に闇は潜んでいる。
『私はヘレン。女神よ』
彼の闇に気付く事無く、目の前の美人は呟いた。
「は?」
『………も、もう!そんな怪しまないでくれるかしら…事実よ…?』
「あ…え?」
咄嗟の事に、反応が遅れる。
『ふふふ、正確にはこの世界の主神だけど』
得意気にそう発する彼女。どうやら嘘をついてるわけでもなさそうだ。
欺瞞の中で生きてきた僕にとって、物事の真偽等は手に取る様に分かる。
「しゅ、主神!?ゼウス様!?」
『ゼウス?あぁ、あの髭親父ですか』
「髭親父て…あなた一体何者?」
彼女曰く、全ての神の頂点に君臨する者が彼女らしい。と言うのも、ゼウスの事を髭親父呼ばわりしている時点でそれなりに肝も据わっているし、女神としての器は完璧な筈、である。実際の女神に対する基本的情報を知らない故、断定に過ぎないけど。
因みに最高神と呼ばれる者は、邪の念が無く、澄んだ心をしている綺麗な存在からしか成れないらしい。世の中の人は少なからず邪の念、則ち『悪』というものを持っているので、そもそもの神に成れる人は本当に、本当に一握りも居ないんだとか。
この際に「邪神は存在するの?」という問をしたが、どうやら存在するらしい。何らかの手法で神を堕天させる、つまり洗脳、堕落、調教等で成せる事実ではあると。ただ神を堕天させる能力を持つ存在が発生するのは極めて稀なケースであり、仮に能力を持ったとしても神に近付く事すらままならないんだとか。
他にも魔族から覚醒した魔人、そしてそれが更に覚醒した魔神等、割と多いようである。
聖なる力を司る神、それが『悪』を持たないだけであって、『悪』を持つ神は実在してしまっている、とのこと。
「そんな全ての神々を超越した存在が…僕程度の虫けらを相手取っていいんですか…?」との質問に対し、『貴方は虫けらでは有りません。人、です』と程度の知れたマジレスをされた事はきっと忘れない。どうやら本気で自分の事を虫だと思っていると思われていたようだ。
因みに今回ヘレンは、僕を転生させる為に来たのだとか。
ふむ、転生ね。
って…「えぇぇえぇええええええええぇぇえええええ!?」
今世紀最大の絶叫である。
『それじゃ、転生の準備を初めましょうか』
事も無げにそう呟いた彼女に、軽く目眩を感じる。
「ちょ、まっ!待ってください!え!?転生!?ん!?あれ!?夢だよね!?だってそもそも僕なんで生きてーー」
『煩いです。さ、準備しましょう』
正しく一蹴、であった。
どうやら僕の転生は決定事項であるらしい。理由は不明。そもそも僕は、もう地球人として生活したくない…何で好き好んで絶望を受けなきゃいけないのだ。仮にそれが強制なら仕方の無いことだし、『せめて幸せな家庭に…』と割り切れる。がしかし、こうも簡単に押し付けられてしまうのは…
もうどうしようもないらしい。だから潔く、だ。
「準備…ですか?」
これ以外に取れる手段は無いと見た。
『はい、準備です』
そういうと、彼女は右手を上に掲げた。
するとあら不思議、虚無の天上から薄緑に透けた長方形の石版がゆっくりと降下して来た。
「これは何ですか?アイフォンか何か…?」
『そーねぇ、名前はないわ。ただ、あなたが向こうの世界に行った時の能力?その他諸々、ざっくり言うと設定ね』
「はぁ、よ、ヨロシクお願いします…と、その前に…あの、僕の行く世界っていうのは…」
「…向こうの世界の説明が未ね…軽く説明するわね。えぇとーー」
彼女曰く、僕が転生する予定の世界には『魔法』と称される概念が有るらしい。無から炎や水を生み出し、風や土をも作り出す生命の叡智…だとか何だとか。ただ正確には『無から』ではなく、『魔素』と呼ばれる目に見えない物に働き掛けて状態を変質させるらしく、その応用は多岐に渡るのだとか。
「成程ねぇ…ぇええ何それめっちゃ難しいんですけどぉぉお!?でも地球じゃなくてホッとしてる!!!うわぁ!なんか面倒臭そうだけど地球と比較したらマシなのか!?もっとちゃんとした比較対象欲しいなぁ!?」
『ざっと説明はこんな感じかしら…えぇと、設定の続きね』
僕のオーバーリアクションを軽くスルーし、設定の続きを促す。
兄妹によるスルーのトラウマを幻視して涙目の僕は、彼女に促されるまま渋々と石版に触れる。
すると、そこから立体の文字が浮かんできた。
ーーー無名ーーー
種族:ヒューマ
レベル:無し
能力
体:10
力:10
守:10
速:10
知:10
運:1
魔:0
スキル:無し
ーーーーーーーーー
『運:1…貴方、今迄よく死ななかったわね…この運で高校生迄…高いんだか低いんだか…』
……?なにこれ。
ってか運低っ!1って何!?後0二つ付けて100にしろやぁ!このやろぉぉお!!!
……はぁ。まぁいいや。どうせ僕なんて…
もう自覚してる。僕は神ですら驚嘆する運の持ち主。下がり気味のテンションを持ち前の精神力で強引に切り替える。
「…それで?これをどうすればいいの?」
『これから数字をいじっていきます。どこでもいいので触れてください。』
「えと、はい」
そういって名前に触れた。すると、
ーーー設定中ーーー
とでた。なにこれハイテク~…
『名前に希望はありますか?』
「特にはありませんけど…まるでゲームですね…」
『ゲームとは又違うけど…これから貴方が生まれ変わる世界、それは紛れもなく貴方の生きた地球と同じ様な存在よ?転生だからある程度の優遇はしないとね。貴方は前世で世界に絶望したんでしょ?なら来世は幸せにならないとね…名前、それじゃあエルニア、で…』
「…エルニア?何それ?」
『幸せを呼ぶ者、そう言う意味合いを持つ神の言語よ。神様って、好き好んで子供作らないのよね~。ゼウスみたいな例外はいるけど、基本的には興味無いのよ。基本的には、ね。私は例外よ…子供欲し…息子ってどんな感じなんだろ?やんちゃで腕白なのかな?娘は?お茶目で可愛いのかな?お化粧とか一人で覚えちゃうの…?やっぱり1人で何でも出来ちゃうのね…あぁ、悲しいは私は!子供に必要とされて無い…哀れね…憐憫だわ…うぅう…ってよく考えてたの。今、凄く良い感じだわ。何かこう、護ってあげたいの!貴方を!分かる!?理解出来てるかな!?あなたなら分かるはず!その類稀なる理解力とずば抜けた推察力を最大限に活かして、要素を最適な解へと導くのよ!貴方なら出来る筈!さぁ!』
「…え?…?あ、あぁはい。そうですね!めっちゃ分かりますそれ!……あ、あははは」
何この人!?え!?なに!?怖っ!女神こわっ!
『エルニア、今…何か悪いこと考えたでしょ?』
「な、ななななにを!?そ、そそそんなこと~」
やべぇよ!何この人!やべぇえええよぉぉお!
『もういいわ…さて、続いて種族ね』
「種族?」
『そう、種族。この世界には様々な種族が居るのよ。例えばそうね、ヒューマとかエルフは貴方も知っているんじゃないかしら?地球でもその名前に既視感はある筈よ。魔族、獣族込みの亜人系、ドワーフや小人族、竜族とかかしら。他にも色々居るけど…ここら辺がオーソドックスね。』
「へ、へぇ~」
とりあえず色々押してみる。
果てに、映し出された種族全てが少しだけ青くなる。
セレクト画面のように上から下へスライドすると種族がコロコロ入れ替わる仕組みらしい。軽くタップすると、その種族の解説らしき物が文字として浮かび上がった。読めば読む程奥深く、気が付くと種族の解説欄を網羅していた。ふっ…これでも速読術は持っているのだ!わははは!
『あら、全種?』
ヘレンは僕の高笑いに耳を傾ける事すらしなかった様で。エルニア悲しい…まぁもうこれは仕方ない。話を変えましょう。
「で、全種って?」
『ここに映し出されてる種族全ての血を含んだってことよ。なかなか面白い事考えるじゃない!』
え、マジすか……で、でも悪くないなこれ!ただ問題が…
「けど、そんな傍若無人な…可能なんですか…?こんな難しい条件…名前は愚か、選択した種族まで適合する血筋なんて…それって天文学的数字じゃ…」
『恐らくエルニアの推察は間違っていないわ。確かにこんな無茶苦茶、本来なら有り得ないわ、けれども安心しなさい。居るならそれでオッケー、居ないなら作ればいいのよ』
「つ、作る!?んな無茶な!?」
『私は神よ、それも数多く存在する神の中の主神にして最高神、不可能なんて無いもの。世界の歴史や文化は愚か、家々の血筋など言語道断、柔よ柔、朝飯前』
もう何も言わない事にした。
続いてレベル。さて、どうしたものか。
『レベルは成る可く弄らない方がいいわよ。』
「それは…何故ですか?」
『転生、すなわち魂はそのまま、肉体を取り替えるといった表現が正しいわね。幼い幼児、選択した種族を照らし合わせて見ると貴方は母体から生まれるのよ?つまり胎盤から。両親が生んだ子供のステータスを見ない理由ないじゃない。ましてやその子のレベルが異常値だったら…』
「可笑しさに気付く…ですか。確かにそれは不味いかも…それって隠せないんですか?」
『一時的なら隠せるわ。けれど、その先はあなたがどうにかするしかない。しかし、あなたの体は幼児になる。その体では恐らく魔法を制御できないわ。この世に姓を賜ったなら本来レベル1からスタートするのが常識、そこを弄る事は貴方の行く世界全ての意思、常識を改変するのと同義よ?だから世界に蔓延る常識等の改変は私自身の疑懼だわ。ある程度閉鎖的な、つまりネットワークの狭いジャンルなら生まれ変わる貴方のステータスを弄る様に改変可能、だけど常識を変えるっていうのは…可能ではあるけどその影響が想像出来ないわ。それに…なんだか面倒だもの』
「朝飯前じゃ!?」
『あれは嘘よ…』
「はっきりしねぇな!?」
『し、仕方ないじゃない…見栄を張りたいでしょ…?子供の前なら尚更…』
ふいっとそっぽを向くヘレン。意外と可愛い。そんなことよりーー
「子供!?」
こっちの方が重要である。
『?だって私名付け親でしょ?』
至極当然と言いたげに質問に質問で返すヘレン。どうやら彼女の中で僕は息子で決定らしい。
「な、名付け親が本当の肉親だとは限らないでしょ…」
はっきりしない言葉の往々、正しく謎である。
結局血筋の改変は可能であるが、流石に常識は面倒だと。…何か面倒な制約が有るとか無いとか。まぁそこら辺は神様の事情ってことで納得した。
渋々と言った様子で了承する。
『続いてスキルね。これは文字のままね。』
「えと、これは動かしても?」
『えぇ。スキルは基本的に先天的な物と後天的な物があるわ。先天的、つまり生まれ持った才能、これは両親のスキルや自分の種族に影響された物ね。後天的、つまり生まれ落ちた後に身に付けて行くもの。後天的なスキルは基本的に無制限、ただし先天的なスキルは種族間に於ける常識的な話があるから制約がある。つまりこの石版で自由に改変しても大丈夫なスキルは後天的な物だけね。ここでは先天的なスキル以外なら幾らでも付与可能よ。ただし常識に収まる範疇で、ね』
「それって親が見て驚いたりは…?」
『まぁ貴方の采配にも寄るけど…親が優秀ならそれなりに詰め込んでも問題無いと思うわ。けれど親がそうでない場合、つまり平凡であった場合は…まぁ問題有りよね』
「僕に異常スペックを齎す両親なら…あ、そもそも実在はしていましたか?」
『軽く調べたけど、一応該当する血筋はあったわ。名前に関しては私が強制力を働かせて″エルニア″に固定させた。ただ両親は平凡その物、ね。有り触れた村の有り触れた村人の夫婦、そんな所かしら。だから…貴方の身に起こりうる他種族の覚醒、それは恐らく″先祖返り″と呼ばれる現象ね。子孫の繁栄と共にその先天的スキルが色褪せていく、が、とある代にてその能力が再び顕現する様子、傾向。だからそうね、ある程度常識に収まる範疇の後天的スキルにした方が良いと判断するわ。つまり少なく、ね…』
「むー…んー…」
悩み悩んだ末、結局は選ばなければ…んー…
『本当にどんな物でも、だから…ゆっくり選んでね』
どんなものでも…因みに僕は在りと凡ゆる本を読み漁った経験がある。その中にはもちろんラノベ等も含まれている理由で。つまり異能系には人1倍敏感なのだ!むふ!
「えと、とにかく沢山欲しいです!」
『具体例がないのね…はぁ…あ!そうだわ!♪これなんてどう?《魔眼》って言うんだけど…』
「《魔眼》、ですか?」
ヘレンの言った単語を反芻する。
『そ、見たもの全てを記憶し、またそれを昇華させ使役できる。そんな能力かしら?』
「なんってチート能力だぁぁぁああああ!それ欲しい!それ!」
『《魔眼》は本来魔族の王家クラスが会得出来る特性能力…それが選択可能、則ち貴方の先祖に王家クラスの魔族がいた事の証明になる、という事ね。よかったわ。適性がなかったら断念せざるを得ないスキルだもの…』
ヘレンの解説に思いを馳せる。来世こそは…きっと…幸せになれるかもしれない、と。
何となく聞いてみた。
「種族選択の時に聞かなかったんですけど…悪魔は嫌われてる感じですか?」
ズバリ、これである。強さを代償に、周囲からの評判を生かすか殺すか。
『ま、そうね…嫌われていない、と言えば嘘になるかしら。特徴的な巻き角、蝙蝠の様な禍々しい翼、決めては尻尾ね。過去に起こったとされる《魔世界大戦》の引き金は、『禍々しい鬼』であったと古書に記されて有った筈だから。その際の人間側の記した鬼とされる存在のメモと、現代に生きる魔族の特徴が一致するのよね。この世界では種族を基本的には外見のみで判断するから…まぁ…』
ああ、なるほど。
つまり差別がある、と。ったく、とんだ身分格差だな…
続いてステータスに於ける基本的な数値。
これはもう聞くまでもなかった。ヘレンの助言により、ある程度の伸び代を残して底上げした。このラインは最低限のラインであり、此処に達する事は約束された事になる。つまり、ここで設定した数値は初期値、即ち産まれて直後に有する基本値。
まぁ…問題無い…と願いたい…
結局、僕はおかしい奴になった。はぁ…どうなるかな~。
ーーーエルニアーーー
種族:ヒューマ、エルフ、魔族、亜人、ドワーフ、小人族、竜族
レベル:1
能力
体:400
力:500
守:600
速:600
知:500
運:300
魔:700
スキル:魔眼
加護:最高神の抱擁
ーーーーーーーーー
こんな感じになった。因みにステータスはレベルに比例して上がるらしい。
因みにこの《最高神の抱擁》という加護だが、正しくチートであった。常時《魔力回復促進》と《体力回復促進》の自動発動の他、《経験値増加:最高級》が付いてるとか付いてないとか。
(効率よく利用すれば、或は…)
エルニアの闇は、エルニア本体に悟られる事無く策を練り始める。幸せになる為の道筋を思考する。エルニアは表面上情緒が謎であるただの愉快者だが、その深層心理は常闇が覆い尽くしている。覗こうにもその深淵は底を覗かすことすら許さず、何人たりともエルニアの本心に近付けさせようとはしない。
《憐憫之自立思考》
エルニアとヘレンは気付かない。否、気付けない。
エルニアの深層心理に根を張った自立思考は、エルニアを幸せに導く為に《魔眼》から自己派生した演算機である。故に叡智を司り、凡ゆる者の目を欺く事になる。エルニアの成長と共に自己進化し、最適な形へと姿を変えて行くのだ。
ただし、まだ小さな種である。が、やがて大きな花を…
『さて、簡単な準備は済んだわ。そろそろ出発かしら?』
「そうですね」
『さてと、いい加減他人行儀はやめてくれないかしら?』
突き放す様な言葉に、エルニアは驚愕する。
まさか、又…?又捨てられるのかな…?ゆっくりと項垂れる。
「…え?」
ただ、何となく。本当に何となく顔を上げた。四魂の両親は、目を合わせないと頬を力一杯殴ってきた。教育の名の元、暴力の限りを尽くしてきた。だからトラウマと共に魂に刻まれている。『強者には逆らえない』。だからゆっくりと顔を上げた。そこに有ったのはーー
『あなたは私の息子、そうでしょ?』
柔らかく、そして優しく微笑んだヘレンだった。
「あ、え?えと」
『もう!タメ口でもいいから!もっと親しく接して!家族でしょ?』
あぁ…違うんだ…
エルニアは理解する。
この人はどこまで優しい…
愛を知らぬ故、愛を求めた存在。そんな彼エルニアは愛というものを初めて感じる。日本の時の親とは違う、本物の愛。美しく、そして儚い。けれど柔らかく、暖かい。そんな気持ちで包まれた。
「いってくる、母さん」
だからエルニアは、そう力強く言った。
『!…行ってらっしゃいエルニア』
悠久の時を生きる最高神であるヘレンは、時の概念に囚われない。故に、エルニアとの談笑は些細な時間であった。にも関わらず、今この数瞬がとてつもなく幸福で、そして別れが悲しくも思えた。
……もう会えないのかな。もう終わりなのかな…?
そんな悲哀を拭う様に、ヘレンはエルニアを優しく抱擁した。まるで加護の様に。
数秒後、エルニアは母の笑顔に見送られながら意識を暗闇へと手放した。