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クロガネの武装制覇   作者: 金川 晋矢
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五話 ギルドでの喧噪

 西側大陸 港町 ガルグイユ


 港町ガルグイユ。それは、西側の大陸の数少ない港町の一つである。

 その中でも最大の規模を持つ町で、塔牙が東側大陸の玄関口と言うならば、こちらは西側大陸の玄関口と言えるだろう。

 ここ最近では海や航路の環境が整ってきたこともあって船の需要が増えている為、造船業が盛んだ。

 さらに、こちらも塔牙同様交易所としても有名であり、今日も市場には多くの冒険者や商人でにぎわっている。


 「うっひょー!! これが西側の大陸の町かぁ!! 建物の見た目やその間を行きかう人々の服装その種類やまさに多彩!! 流石はガルグイユ!! 西側の玄関口と言われるだけはあるな!!」


 五十日に渡る船旅を終えて初めて西側大陸の土に足を付け、感極まったムクロははた目から見ても判るほどにはしゃいでいた。

 この大陸で自分の念願が叶うともなれば、こうなるのも無理はないだろう。

 懐から取り出した手帳に今しがた目に入ったもの全てを記録する気なのか、驚異的なスピードで万年筆を動かして記していくムクロに、『箱庭』を持った七奈が声を掛ける。


 「ムクロ様、まずは『ギルド』の登録に向かわれては?」


 「おっと、そうだった。どの道しばらくはこっちの大陸にいるんだし、こいつに纏めるのは後にするか」


 ムクロは我に返って手帳を閉じると、七奈から『箱庭』を受け取ってから足早にギルドへと足を進める。

 資金面はエビル・クラーケンの撃退に貢献したと言う事で船長からはそこそこの謝礼を貰っている。

 しかも、これから西の大陸で旅をすると伝えたら通貨の交換まで手数料無しでしてくれた。 

 旅の出だしとしてはこの上なく順風満帆だ。あとは、ギルドで冒険者登録を行うだけ。


 これでようやくスタート地点に立てる時が―――――――――――



 ——————————————


 ガルグイユ内 冒険者ギルド



 「だーかーらっ!! なんで俺だけ冒険者にさせて貰えねぇんだよ!? これ、あんたらの所の紹介状だろうが!?」


 俺は懐から取り出した、ギルドの公認発行物の証拠である紋が押された、とある人物直筆の紹介状を見せながら受付の男に怒鳴り立ててしまった。

 この紹介状を持ってしても、俺を冒険者とやらにさせる気は無いらしい。


 「とは言われましても……そちらのお嬢さんだけならともかく、仮にそれが使えたとしても貴方の様な『無能力者』では冒険者になるのは非常に厳しいかと……」


 俺に詰め寄られて尚、困り顔でそう返答する受付員。

 成程、俺の固有妖術『圧縮収納』はこっちの大陸じゃあ、あって無い様なものと扱われる訳か。

 この世界には魔力を使って引き起こす技、俗に言う『魔法』が俺の知る限り大きく分けて三つ存在する。


 第一に『固有魔法』。

 正確に言えば、こいつはこの世に在る物全てが生まれ持った瞬間から持つ特殊な術式・・だ。

 ありとあらゆるものに宿ると言われている魔力だが、こいつ自体はただのエネルギーの塊に過ぎず、それ単体では特にこれと言って効果が無い。

 そこで生物は皆、体内に蓄積した魔力を魂に刻み込まれたこの術式に魔力を通して『魔法』を放つって訳だ。人によっては複数の魔法を扱える場合もあるらしい。

 勿論、俺みたいに『固有魔法』を持たずに・・・・生まれてくる例外も稀にいるが。


 第二に『魔術』。

 こいつは『魔法』を発動させるための術式を人力で描き出し、それに魔力と専用の詠唱を通して発動させる物だ。  

 原理的には『固有魔法』と大差は無いが、こいつは術式と詠唱さえ覚えればどこの誰でも同じ内容の『魔術』を使う事が出来る。東の国で発達した『結界』もこのカテゴリーに入る。

 自分の『固有魔法』だけでは足りないと判断したどこぞの冒険者が編み出したのが発端らしい。

 基本的には一つの魔術陣に付き一種類の魔法しか編み出せないが、非常に複雑な物を描き出せれば一つの魔法陣で数種類の魔法を使うことも出来るらしい。

 じゃあ他人の固有魔法も描き出せれば使えるのでは? と誰もが思うが、どういう訳か現状それが出来る術師はいないそうだ。

 『クロガネ』が今まで作ってきた武具も、魔物の素材とこいつを併用している物が殆どだ。それくらい汎用性が高いと言える。

 これと言った欠点は無いが、強いて挙げるのなら覚える内容が多いのと学ぶのに莫大な資金が掛かる事か。

 俺はおやっさんや『クロガネの武装制覇』から知識を得たから良いが、普通の人間がまっとうな教育機関で学ぼうとするには相当な額の学費がいると聞く。


 第三に『妖術』。

 ある人物の話では、この西側ではごく最近認知されるようになったばかりの異形の力だそうだ。

 その正体は魔力を独自の力に変えてしまう東側の大陸にしかいないとされる特殊な魔物、通称『妖怪』によって変化した魔力こと『妖気』を用いて発動させる力である。

 妖気も元々は魔力なのでエネルギーであることに変わりはないのだが、こちらは術式を使わなくてもある程度の制御が可能で、相手に直接ぶつけて吹き飛ばしたり、遠くの物を手繰り寄せることも出来る。

 七奈の場合は袖口から垂らしている鉄鋼糸にそれを纏わせて、自在に操っていたりするな。

 本来ならば妖怪にしか使えない力の筈なのだが、二つだけ例外が存在する。

 一つは妖怪と人間の間にできた子供、そしてもう一つは、俺の様な『無能力者』が大量の妖気を四六時中浴び続けることで、力に目覚めた場合だ。


 俺の様な僅かながらも妖気が使える存在はまだ世に広まっていないから、もしもの時の為に、ってアイツから紹介状貰ったのに、何の効果もねぇじゃないか……

 呆れながらも、指を鳴らして『箱庭』の中から『二十一式物理転換帯』を呼び出す。

 空中に浮かんだ紋章から、いくつもの器具が付いた革製のベルトが手元目掛けて降って来きた。


「それは……収納系の固有魔法……? いや、しかし『神託台アナライザー』には何の反応も無かったはずじゃあ……」


 受付の男は俺が空中からベルトを出した事実を受け入れきれないのか、カウンターの脇に置いてある水晶玉に台座と足を付けたような器具と俺を交互に見て困惑していた。

 どうやら、こっちの大陸ではこの『神託台アナライザー』と呼ばれる道具を使って、『固有魔法』やスキルの有無を見るらしい。

 こう言う所は流石文化が進んでいる大陸なだけのことはある、と素直に思った。あっちじゃあ専属の巫女が相当の体力を消費して一人分のお告げしか聞けないのに、こっちじゃあ台座に手を置くだけだもんな。


 「これでもダメか?」


 「いえ、確かに魔術式の類は見られませんし、何らかの固有魔法はお持ちの様ですが……『神託台アナライザー』に表示されない上に魔力も低く、加えてスキル・・・も無いとなると……うーむ」


 二十一式を再び『箱庭』に戻しながら訊ねるが、十五回近く聞いたその単語を聞いた途端、俺の中の何かがプッツンと切れるのが自分でも分かった。


 「あー、もうっ!! だ、か、ら、何であんたらはさっきから固有魔法だのスキルだのと!! それしか言えねえのかこの大根役者ぁ!!」


 「そっ……それは……」


 急に俺が怒鳴ったことに思わず怯む受付の男、だが俺の追撃の手は止むことなく、七奈に手出しは無用と片手で制しながら続ける。


 「そもそも船旅の途中で聞いた話だが、あんたら冒険者って奴ははちいとばかし『固有魔法』やスキルで人を見過ぎじゃねぇか? んなもんが無くたって人間は剣は振れるし魔術なら使えるだろ? そりゃあ人間向き不向きがあるのは仕方ねぇが、『お前にはできない』と他人が頭ごなしに決める権利がどこにある? ただ、スキルも固有魔法も無ぇ『無能力者』ってだけで職に就くことさえ叶わないってか? ただそれだけの理由で・・・・・・・・・・? なんだよそりゃ、俺には全く理解できないね。……あぁ、あれか。あんたらはそんなもの・・・・・が無きゃビビって剣も魔法も使えないと? なーら仕方な―――――」


 「—————聞き捨てならないわね」


 俺も俺でいつの間にかエスカレートしていたのか、気が付けばギルド登録詰所の真ん中で叫んでいた。

 しかも、周囲にいる人間が全員こちらを不服そうに見ている。どうやらあまりいい印象は持たれなかったらしい。

 そんな中から、一人の少女が俺に向かってきた。


 俺の前に立ったのは、綺麗に透き通った空色の髪を右サイドに纏めた気の強そうな美少女だ。

 七奈や俺よりも背が小さく、ややあどけなさを残した小さな顔とは対照的に、吸い込まれるような深いアメジスト色の大きな瞳には明らかに俺に向けての敵意が宿っていた。

 その身に纏った銀色の鎧は、一部の装甲を外すことで露出度を高めた上に動きやすくした軽量型だ。


 「自分に才能が無いからって棚に上げて人様を馬鹿にしていい訳? 大体、スキルも固有魔法も持ってないなんて正真正銘の無能力者じゃない」


 「おういいぞ!! 言ってやれエリナ!!」


 どうやら、目の前の少女はエリナと言う名前らしい。

 当然よ、とプレートアーマーに守られた平らな・・・胸を張ると、エリナはその体の小ささを感じさせないほどの気迫を持って詰め寄り、まくし立てて来る。


 「見ない衣装だけど、あんた未開の土地の部族の人? だったら教育が成って無くても仕方ないわね。この冒険者ギルドってのは、実力が全ての場所なの。固有魔法は疎か、スキルすら持ってないような人間の実力なんて、誰がどう聞いてもたかが知れてるじゃない」


 「んだとっ……っ!!」


 「出た!! エリナさんの相手の弱みを徹底的に突いていくスタイル!!」


 「流石俺たちのメイン————————————」


 「—————誰が壁じゃワレエエエエエ!!」


 しかし、野次馬の『壁』と言う単語を聞いた途端、何故かそっち方向に向けて駆け寄り、猛烈なビンタを浴びせていた。

 スパアアアアアンッ!! と痛烈な音が部屋の中に鳴り響く。聞いてるこっちまで思わず頬をに手を当ててしまう程の威力だ。

 しかし、何故『壁』であんな反応を……あぁ、そう言う事か。

 売り言葉に買い言葉なのは分かってるが、攻められるポイントが見つかったとなると、自然とニタァ……と口角が上がるのが自分でも分かる。


 「あぁ、悪い悪い。まさか『板』が喋るたぁこっちも思ってなかったからなぁ。驚いて何言ったか全然聞いてなかったぜ」


 「何よあんたまで!! まさかこのアタシに喧嘩を売る気?」


 「ハッ、売るどころか出血大サービスで只にしといてやってもいいんだぜ?」 


 「コイツ……ッ、あんまり調子に乗ってるとブッ飛ばすわよこの無能力者!!」


 「上等だ!! やれるもんならやって見ろやこのど貧乳がぁ!! 俺の武器で思い知らせて―――――ゴフォッ!?」


 突如、右わき腹に鈍痛が襲い掛かった。斬られた、と言うよりは何かを強く打ちつけられた感覚だ。あまりの痛みに思わずその場に蹲り、刹那の間をおいて、棚に置かれていた植木鉢が真っ二つに切断される。

 その瞬間、俺は背筋が凍り付くのを感じた。

 明確な殺気の筈なのに殺気として感じられないソレは、非常に身に覚えのある感覚だ。

 そう、これはその昔、ちょっと度の過ぎる悪戯をして怒られたときに感じたやつと同じ物だ。婆ちゃんや―――――七奈に。


 「あら、あらあらあら……」


 俺は鈍痛が奔るわき腹を抑えながら、エリナは突然真横の植木鉢が真っ二つになったのを見てギョッとしながら、ギギギ……と首の骨が擦れる音が聞こえてきそうな程ゆっくりと、見てはいけない物を見ざるを得ないと言った具合でその方向を見る。

 そこには、笑顔で月夜羽々斬つくよのはばぎりを抜刀していた七奈がいた。しかし、目は一切笑っておらず、尻尾も偽装時の一本から七本に戻っている。

 今のは月夜羽々斬の刀身に七奈の妖気を乗せて放った居合い切りだ。

 打刀の間合いなどたかが知れてると油断すると、今の妖気を用いた居合い時の衝撃、名付けて『妖撃波』をその身に浴びることになる。 

 本来なら服どころか鎧ごと切り裂けるほどの威力の筈だが、そこは彼女が加減してくれたのだろう。

 しかも斜め上に切り上げていたこともあって、植木鉢以外の周囲への被害は一切無い。

 相変わらずすげぇ技量だぜ………全く。


 「あ、貴方、一体何を……?」


 「申し訳ございませんわ。少々貴方様のお言葉が気に障ったものですから、つい。……ですがムクロ様」


 怒りを感じさせないほど、優美な動作で鞘に月夜羽々斬を納めると、こちらに詰め寄っては俺の首根っこを掴んで持ち上げる七奈。

 彼女は妖怪故に怪力なので、片手で俺を掴み上げるのは朝飯前だ。

 そして、否応無しに至近距離から当てられるその殺気に、体が思わず震え上がる。


 「ヒェッ……!!」


 「ムクロ様もムクロ様で乗せられすぎですわ。ついでに言えばスキルや固有魔法関連はともかく、乙女の胸をあろうことか板などとは言語道断。女子おなごに体の特徴で責めるなとあれほど教えたでしょう? 嘲笑うなど論外にして愚の骨頂。子々孫々、末代に至るまで蔑視される罪悪とお考え下さいませ」


 俺はその言葉にただコクコクと頷くしかなかった。

 この有無を言わせぬ威圧感。流石は族長の孫娘だ、やっぱり七奈には頭が上がらねぇ。

 と言うか、エリナの奴よーく見たら涙目になってるじゃねぇか。まぁ、慣れている俺ですらこの様なんだ。無理も無い。

 だがそれもすぐに収まり、


 「あの……さり気にアタシ、すごく子ども扱いされてない……?」


 「まぁ、そうとも言えますが。貴方方も、あまりムクロ様とわたくしの故郷を馬鹿にするようでしたら……その時はお覚悟を決めて頂くことになりますので」


 俺の首根っこを掴んだまま、エリナと周囲に向けて笑顔を送る七奈。

 だが、その笑顔からは鈍感な人間でも勘づくほど、鋭い殺気が滲み出ている。

 自分の故郷を『教育のなっていない未開の部族』呼ばわりは俺以上に気に入らなかったのだろう。何度も言うが、彼女はその族長の孫娘だ。

 正しく一触即発の空気に、建物内が静かになる。


 「何だ何だ? 少し私が席を外している間に、随分と賑やかになっているではないか」


 しかし、その空気は突然発せられた声によって一瞬で雲散霧消した。

 野次馬が、受付員が、エリナが、そして七奈までもがその声のする方向を向く。 


 そこに立っていたのは、七奈とはまた違う意匠の黒色をした、ドレスの様な装束を身に纏った長身の女だった。

 どこか自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、まるで全てを見抜いているかのような切れ長の瞳は、思わず吸い込まれそうな錯覚に陥る程深いターコイズグリーン。

 厚底の革製ブーツを履き、纏っている黒い装束は剣を連想させる刺々しさを持ちつつも縁が金色で彩られ、肩から胸元を露出、強調させた非常に露出度の高い格好ではあるが、彼女から滲み出る威厳と品性から来る物なのか不思議と下品には見えず、まるでどこかの国の姫のようにも見える。


 「お、お嬢!? 戻ってたんですか!?」


 「あ、ノワ!!」


 「なんだ、また君か。今度は何をしでかしてくれたのかな?」


 「そこの無能力者が随分と勝手なこと言ってくれた上に、喧嘩まで売ってきたのよ」


 「ほう、無能力者か。こんな所に来るとは物好きも……む?」


 ノワと呼ばれた長身の女性はやや青みが掛かった長い黒髪を揺らしながら、ようやく七奈から解放された俺の顔をまじまじと見る。いや、正確にはその額に付いた黒い鉢金を。

 ジッと見つめること数秒、すると突然彼女はポンと手を打ち、破顔一笑した。


 「ハハハッ!! その黒い鉢金。もしかして、君はクロガネの跡取りかな?」


 「アンタ、俺を知っているのか?」


 「当然だとも。『人も魔物も幽霊も対等に扱う鍛冶屋』はこの世界でクロガネくらいだろうからな。さらに言えば、父上や母上から先代『クロガネ』について良く聞かされている上に、私も使わせて貰っている」


 そこで、彼女は腰に下げた鞘から二振りの短剣を取り出した。

 まるで牙の様な刺突用の、それも毒々しさ全開のどす黒さを持つ刀身には赤い線が幾つも走っている。 

 その柄には、取り外し可能な小さな骨製の筒が一つ装着されていた。

 この構造、この作り、どこかで……あ!!


 「あーっ!! そいつは俺が二年前に四十三式の構造を参考にしつつ西の国から仕入れた猛毒竜の牙と毒腺をふんだんに利用して作った奴じゃないか!! アイツに頼まれて作った奴だが、まさかこんな所で再会するとはなぁ……」


 「そうか、やはりこの剣は君が鍛えた物か。この麻痺毒腺は獲物の捕獲に随分と役立てさせてもらっているよ」


 「そうだろうそうだろう!! その短剣には四十三式魔力解放剣と同様の構造を持たせてあるがなんて言ったて扱うのがエーテルじゃなくて毒や薬物だから持ち主に毒が付着しないように専用の柄と瓶の開発には苦労させられたがしかしそこは同じく毒をもつ生物である巨大毒蛇の皮と骨をふんだんに使って条件をクリアしつつ小型、軽量化まで成功した上に特製の保存結界により毒腺はまだ生きたままだから養分と魔力を与えてやれば毒の生成もしてくれて実質使用制限は無し!! ただしくれぐれも扱いには細心の注意を――――――――」


 「ムクロ様、また癖が出てますよ」


 「おやおや、先代も自分の作品の話になると饒舌になると聞いていたが、どうやらこの少年にも受け継がれているようだな」


 呆れ声の七奈とノワのその言葉にハッとし、我に返って謝罪をする。

 いかんいかん、どうも自分の品を見ると一から十まで解説したくなるんだよな……次からはもっと短く纏めなければ。

 その一方、完全に蚊帳の外だったエリナは、わなわなと拳を震わせながら呟く。


 「あのさぁ……アタシの立場はどうなる訳……?」


 「そう拗ねるな、エリナ。大方、また君の方から喧嘩を吹っかけたんだろう?」


 「そいつは違ぇぜ、お嬢!! こいつ、無能力者の分際で俺たち全員を『スキルも無きゃ剣も振れない臆病者』って抜かしやがったんだ!!」


 「エリナは俺達の怒りを代弁してくれただけだ。彼女は悪くない」


 その後も矢継ぎ早に野次馬達がノワに事情を説明する。

 まぁ、一つも間違っちゃいないな。無鉄砲過ぎた俺の発言はどうやらこの施設にいた冒険者全員を敵に回していたらしい。

 そんなにスキルや固有魔法が大事かねぇ……俺には分かりかねる。


 「ふむ……君達の言い分は分かった。クロガネの少年も弁解は?」


 「無いな。どうやら東と西じゃスキルや固有魔法に対する価値観が違うらしい。そいつについての軽薄な発言は謝る。だが……」


 俺が東の大陸から来たことを知って、何人かが意外そうな顔をする。

 周囲を見ると、四分の一くらいは『分かれば良し』と言った具合に頷いているが、エリナを含めた残りの四分の三は今一つ煮え切らないと言った具合だった。 

 加えて、俺は今からその燻ぶりに燃料を注ぐことになる。


 「生憎と譲れない物は俺にもあるんでね。確かに俺はほぼ無能力者だ。だけど、俺は冒険者になりたい。これだけはどうしても譲れねぇな」


 「うわ、こいつまだ分かってねぇ!! だから無能力者は冒険者になれないんだっつうの!!」


 「けど、あの子さっき何もない場所からベルトを出してなかった?」


 「どうせ収納魔術だろ? あれなら無能力者でも剣の一本くらいは仕舞えるからな」


 否定派のざわつきが強まる中、ノワは片手を上げてそれを制し、俺に一つ質問を投げかける。


 「そこまでして冒険者になりたい理由は?」


 「夢を、叶えるためだ」


 俺は懐から『クロガネの武装制覇』を取り出し、周囲に見せた。


 「コイツは先々代のクロガネから伝わる武器の設計図だ。だが、中には先代であるおやっさんが再現出来なかった物が幾つもある。そいつらも、もしかしたら西の素材があれば作れるかもしれないし、今ある物を更に良く出来るかもしれない……俺は見たいんだ。武器こいつらが持つ、可能性を」


 再び訪れる静寂。周囲の人間は唖然とするやら、困惑するやらばかりだ。

 どうやら、相当変に思われているらしい。よーく聞けば『じゃあ、おとなしく鍛冶屋をしていればいいのに』と呟いている奴もいる。

 だがな、俺はあの武器には自分で見て、手に入れた素材だけを使いたい。

 得体の知れない性質の物を使いたくないってのもあるが、その方が達成感も違うだろ?

 そんな中、ノワだけは思慮深げに数回ほど頷くと、


 「……確かに、まだ連絡船が普及したばかりの今では交易で手に入れられる品にも限界があるし、理には適っているな。しかし、さりとて無能・・では冒険者になれないのもまた事実……ふむ、こうしよう。クロガネの少年にはそこのAAダブルエーランク冒険者であるエリナと決闘を行って貰う。その成果次第では、君を冒険者に出来なくもない」


 彼女のその発言に、再び周囲が大いに沸く。


 「お、お嬢!? 本当に良いんですかい!?」


 「ノワ!? ちょっとそれ本気で言ってるの!?」


 「丁度燻ぶっているエリナは存分に憂さを晴らせ、あわよくば少年は冒険者となれる。これ程都合のいい選択肢は他には無いだろう? 少年も、それで異存は無いな?」


 「あぁ!! 喜んで受けて立つぜ!!」


 何はともあれ、ノワは俺にチャンスをくれた。こいつは人生一世一代の賭けって奴だな。

 エリナもエリナで公に俺を叩きのめせる言い分が出来たからなのか、一度フッと笑うと非常にサディストな笑みを浮かべて俺の前に立ちはだかる。


 「……まぁ、良いわ。その武器とやら、精々楽しみにしてるわよ。無能力者」


 「その期待、誠心誠意全力を持って応えてやるぜ。ビビんなよ?」


 「両者異議は無いようだな。それではこの決闘、このガルグイユの臨時・・ギルドマスターであるルノワール・ドライグハートが取り仕切る!! お互い準備も必要だろう。決闘は一時間後にこのギルド前の広場で行う事にする。以上、解散!!」


 ノワ……ルノワールがパチンッ、と手を叩いて周囲に解散を促すと、野次馬たちが散り散りになってこの場を去り、ギルドは再び通常営業に戻る。ノワってのはあだ名だったようだ。

 しかし、彼女がギルドマスターか……随分と若く見えるが、こういうのはもっとこう、引退した歴戦の戦士みたいなごっついおっさんがやる物だとばかり思っていた。

 そこで、俺の隣で何とか抜刀だけは控えてくれた七奈が一言俺に尋ねる。


 「……ムクロ様、勝算の方は?」


 「んなもんねぇよ。だが、証明はするつもりだぜ。人間はスキルや固有魔法あんなものが無くたって戦えるって事を」


 とは言え、俺が弱すぎるのもそれはそれで問題だが。 

 さーて、一時間も時間はあるんだし、多少は作戦でも練っておくか。  


 「アイツやみんなに見せてやるぜ。俺の、俺たちの夢と浪漫の結晶をな」



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