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覇黒の剣聖と至天の聖女  作者: satori
第一章 王都への旅立ちと賢者
7/15

1-1

銀の髪と白いコートの裾を翻した少年が、この街の象徴にして最大の建造物バベルの中に入っていく。


時刻は昼を過ぎ、貴族のご令嬢やご婦人方がアフタヌーンティーを楽しんでいる時間。

バベルの中の冒険者ギルドのメンバー達は街の外で、迷宮で仕事の最中。


併設する酒場に座っている者達はその日を休みにしている冒険者達。


そろそろ仕事を終えた冒険者達が帰って来そうな時間になるかなと、受付嬢たちの数も戻りだす時間でもある。


白いコートの少年アルムは、先程少々遅目の昼食を終え冒険者ギルドに大事な用事があった。

それでもアリスと離れるのは名残惜しいが、一旦別れ一人でバベルに訪れた。


名残惜しいなど、今朝の彼に言えばきっとこう言うだろう………僕はアリスと共にいたいとは思っていません………彼女が幸せになってくれる事が最優先ですと。


アルムは客観的に見て酷い変節のしようだと思うが、そう思っていたのは心の底で拒絶される事を恐れて、心の何処かで逃げ場を作っていたからであり、それが無いと完全に思えた現在は開き直ってしまっている。


アルムはちょろかった。

彼は、そう………それはまるで娯楽小説に出てくる主人公に惚れる主要女性登場人物の様だ、と自嘲した。


ちなみに昼が遅れた理由だが、それは部屋に入ってきた勇者候補。

それを一言の言葉さえ発させる事なくアルムが殴り飛ばし気絶させ、それの後処理が色々と手間取ったからだ。

アルムが勇者候補の彼を殴り飛ばした理由だが、彼の頭の中では簡潔で明瞭で単純明快。

幸せそうな雰囲気を発しているアリスを見て、勇者候補が顔を赤くしたのがムカついたから、生きているのだから良いじゃないか、有難く思えと思っている。


これは勇者候補を介抱していたクララに、はっきりと断言して彼女を呆れさせた。

さらにそれを聞いたアリスは、頬を染め嬉しそうにていたが、それを見たクララはこれからの未来を想像し憂鬱になった。


勇者候補が気絶した理由を教会の職員と共にでっち上げ、外に漏れぬ様に揉み消すのは一苦労だった。

とは言え、仮にも勇者候補が何の抵抗も出来ずに気絶させられたなどとは、誰も思わないだろうし信じないだろうが一応念の為だ。


なお、アルムの生きているのだから良いじゃないかというのは、実際のところ誇張ではなく当てる寸前まで当たったら死ぬ様な打ち方をしていた・

以前アルムが、回復を妨害する良い破壊法はないだろうかと考えている時に開発したもので、骨の粉砕による器官破損と振動による内蔵の破壊、両方を組み合わせ粉砕した骨と内臓を内部で混ぜるというものだ。


アルムはそれを素手で使える様になり、次に剣越し、剣や足から伝え地面越しにも使える様にまでしている。


つまり現状勇者候補が生きているのは、ここで殺すと処理と揉み消しが大変だから止めておくかと思い直したからだ。


アルムはここで冒険者として登録して以来、弟の様に扱ってもらっている受付嬢のブースへ向かった。

家を出て迷宮に潜り始めしばらくしてから分かった事だが、ここの受付嬢達は皆冒険者としてのランクで言えばCランク、冒険者の中でもベテランと称される実力は皆有している。

アルムがいつも世話になっている受付嬢シャウラと言うのだが、彼女は天才や化物と言われるBランク相当の実力を有している。


「んん、アルム君こんにちは~

どうしたの?ほぼ毎日迷宮に潜ってた君が二日も迷宮に来ないだなんて~

職員達が来ない理由を賭けの対象にしてたんだぞ~」


にこやかに笑いながら手を振るシャウラ。

彼女は非常に高い隠形技術と侵入技術、短剣術それらに基づいた暗殺技術を持つギルドの裏仕事も一手に引き受ける女傑だ。

受付をしている時の彼女からは、そんなものは一切感じさせない。

アルムも彼女の実力に気付く事が出来たのも、人外や到達者、戦術級兵器などと言われるAランク相当の力を付けた時にようやくだ。

それに気づく前なら、同等かそれよりも総合的な実力が下であったにも拘らず、アルムに殺意を悟らせぬまま殺す事が出来たと言う事だ。


「今日はランクについてお話をしに来ました」


「相変わらず硬いなぁ~お姉さんにはもっと砕けた話し方でいいんだよ~」


彼女の歳が幾つであるかは、ギルド内で謎解されているが、勤務歴は受付嬢の中で………職員の中でも最長級でさらにその実力をつけるまでの経歴も謎となっている。

その為、見た目はおっとりとした体のメリハリも非常に大きな人気の受付嬢なのだが、年齢はもしかすると見た目の数倍はゆうにあるのではと言われている。

ただ、エルフや龍人、魔族に妖精など人族とは比べ物にならないほど長く生き、容姿も変化しない者達がいる中で彼女が年を取らないなど疑問に思っている人物は非常に少ない。

人族だって魔力量が多ければ老化の速度は抑えられるので、若い外見を保てるという事は魔力量が多い事の証明でもあり、誇るべき事だからだ。


「プライベートならいざ知らず、お願いに来ているのでそういう訳には」


シャウラは肩をすくめて首を振った。

首と同時に何処とは言わないが非常に揺れている部分がある。


「宿でお世話してる子供にだってその口調で接している君が、プライベートになったからと言って砕けた口調になるとは思えないなぁ~」


椅子から腰を浮かせ、腕を組んでアルムに迫る。その際に何処とは言わないが、視線を誘導する物が押し上げられる。

ちなみに彼女の服装は、受付嬢の制服である。第二ボタンまで開けた襟付きのシャツにピッタリとしたベスト、下はパンツとスカートを選べるが彼女はパンツ。

折れそうな腰から健康的に膨らんだ臀部にかけての曲線が強調され、数日間迷宮に潜っていた男性冒険者の動きを止める程の破壊力を持つ。


「言われてもいればそうですね。

もう習慣の様なものなので気にしないでくださいとしか」


アルムは平然と返す。

このギルド内で彼は、大陸中央の山脈にある仙境で修行を重ねた仙人かと、ベテラン男性冒険者達から戦慄混じりに言われている。

余談だが、恋人がいる男性やパーティー内の想いを寄せられている男性が、彼女のそれを見ると頭が下りそこにその女性たちに蹴り上げられるというのは、一週間に一度程度の頻度で見る事が出来る。


「まっ、いつものやり取りをしたって事で、ランクの話だったね、ようやくCランク昇格を受けてくれる気になったの?」


椅子に腰を下ろすと先程の雰囲気は消え事務的な物になる。


「はい、ですが、上げて欲しいのはCではありません」


「Cじゃない?

どういう事かな~?」


アルムの言葉を聞いたシャウラは不思議そうな表情を浮かべる。

彼の実力を知っている彼女は、その言葉の意味は理解している。

さらにランクを上げて欲しいという事だろう。


不思議に思ったのは、六年以上頑なにDより上に上げなかったランクを何故と言う事だ。


「構わないけどCランク以上の活動を証明出来るものってある?

能力だけなら文句なしって言えるんだけど、実績無しじゃ書類に認可が貰えないんだけど」


「勿論、あります」


アルムがそう言うと腰のアイテムポーチへ腕を入れる。

取り出されたのは魔王種イグナモノスの魔石………特五級の物。


「へぇ」


シャウラのアルムを見る目が鋭くなる。

ギルド職員としてこの魔石の持つ意味を理解出来ない者はない。


「奥へいらっしゃい。

貴方の持ってきた物にはそれだけの価値がある」


「分かりました」


シャウラは席を立つとその横のブースに座っている受付嬢に声をかけた。


「貴方、ギルド長にこの事を伝えて」


「はっ、はい」


そう言われた受付嬢は席を立ち小走りで奥へ戻っていく。

アルムはシャウラが視線での促しにしたがってついていく。


案内された場所は人外と呼ばれるBランク以上のパーティーが使用を許される小さい会議室。

小さな部屋であるが、使用する者達が高位の冒険者である為、備品はどれもシンプルながら高級感を放っている。


「お茶を淹れるから好きな場所に座っててちょうだい」


「はい」


シャウラが部屋の隅においてある給湯セットでお茶を淹れる。


お茶が入れ終わりアルムの前にカップが置かれた少し後に会議室の扉が開いた。

入ってきたのは小さな女の子。


彼女がこのギルドのトップであるフェリシー・ジラルディエール。

妖精族で年齢はシャウラよりもさらに数倍と言われている。

Aランク魔術師で実力は王国の中でも上位と表される物。

アルムの父は彼女よりも強くなろうと必死であった。


「アルム!よくやったぞ!」


フェリシーは部屋に入りアルムを見つけた瞬間、彼を指さしそう褒める。

妖精族と言う種族は、彼女程の歳であってもまだ子供に分類される歳なのだそうだ。

その為、どれだけ知識を持っていたとしてもその精神はまだ幼い。

戦闘時は魔術的な暗示を使い精神年齢を高して、冷静な思考を出来る様にするそうだが、精神に関わる魔術は反動が大きい為、それを使うのは非常時だけだ。


「お褒めに預かり光栄ですフェリシー様」


アルムは多少芝居がかった動作で礼をする。


「うむ、大儀であった!」


フェリシーはその礼に気分が良くし、両手を腰に当てて胸を張って応える。


「さ、フェリシー様こちらにお座りください」


「うん、ありがとうシャウラ!」


シャウラは給湯セットの近くの棚に入れられているお菓子を取り出してフェリシーの前に置き、飲み物も彼女用に果実ジュースを出している。

ちなみに果実ジュースの方は、アルムとフェリシーがやり取りをしている間に取ってきた物だ。

それを気配で読み取っているアルムは、そんな事の為にその実力を使うのはちょっと………と思った。


アルムの前ではお姉さんの様に振舞っているシャウラであるが、フェリシーの世話をする姿はお母さんにしか見えない。


彼女がここで働いている理由や経歴が謎な理由も、暗殺者だった彼女がフェリシーの所に送り込まれたが、フェリシーの可愛さにやられてとどまったからでは無いかとアルムは思っている。

そしてそれが当たらずといえども遠からずだという事は勿論知らない。


「あの………話、いいですか?」


話を始めずに何やらシャウラがフェリシーにお菓子を食べさせ始めたのでアルムが遮った。


言われた二人は驚いた様な表情を浮かべている。

そしれそれはアルムも同様だった。


「そうね、ごめんなさいね。アルム君。

何やら急ぎたい理由もある様だし、話に移りましょうか」


「ごめんね、アルム」


二人から向けられる視線には、何やら微笑ましい物を見る様なそんな雰囲気が感じ取れる。

先程まで微笑ましがられる対象だったというのに物凄い変わり様だ。


「いや………いえ、お願いします」


アルムは何か言おうとするがそれは中断した。

言われてみれば実際にその通りで、その事を否定したくないという感情が湧き上がった。

言葉には出していないが、アルムは急ぎたいという事を肯定した。


「じゃあ、話を始めるね。

まずその魔石を何処で手に入れたのか」


「まぁ、予想はできているんだけど。

一昨日の夜、街から南に約百二十キロほど離れた地点での地面の硝子化と周囲の木の炭化。

強力な魔力の残滓が確認されていて、魔物の魔石化現象の残滓が残っていたにも拘わらず、その魔物が放った魔力以外に検出されなかった。

考えられるのは、無属性、無系統外属性の魔術を使う者が討伐した可能性だけど、今現在この街にその様な人物はいない。

無属性、無系統外属性の魔術だって霧散していく速度が早いだけで、完全に検出されない訳ではないから除外、あと考えられる事は魔力の持たないものが討伐したか?

普通はありえない結論なのだけど、私たちの目の前にこの街で誰よりも強い魔力を持たない人物がいる」


そこまで言うとシャウラは読み上げていた書類をアルムに見せた。

現場の写真や検測された魔力の波形をグラフ化させた物が書かれている。

アルムも昔その読み方をざっと習った事があり、残った魔力は全て同一の存在が残した物と読み取れる。


「ええ、そうです。話が早くて本当に助かります。

この魔石は魔王種、イグナモノスから手に入れました」


アルムの発言に二人は納得の表情を浮かべる。


「やっぱり魔王種か」


「アルム君がそういうのならそうなのでしょうね」


その魔石が本当に魔王種の物であるかは、調べてみないと分からないのだがシャウラの言葉の通り、二人はアルムを信用している。


「じゃあ、次、と言うかこっちが本命」


シャウラは先程よりも真剣な表情でアルムを見た。


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