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覇黒の剣聖と至天の聖女  作者: satori
第一部序章 終わりと再開
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0-4


太陽が顔出す前にアルムの目が覚めた。


寝起きの気分は最悪。


ちなみに、死より戻った時は死んだというよりも、記憶が戻ったという感じだったので寝起きとカウントはしていない。


アルムの気分が悪いのは、昨日のクララの言葉のせいだ。


アリスが聖女候補になっているなんて悪い冗談だとしか思えない。

何故よりにもよって聖女候補なのだという感情が実のところ最も強い。


この世界で生きる者には必ず持っている者が幾つかある。

一つは魔力を生成する姿なき器官、魔泉ソース

そして神々が人々に与える加護。それらは人々に“職業ベルオーネ”と呼ばれ人々に与えられた力だ。


その“職業ベルオーネの中で最も人々に知れ渡っていて、他の“職業ベルオーネ”よりも強い加護を受け、神々の寵愛を受けた者、理外の存在と言われる物が八つある。


勇者、獣王、英雄、龍皇、賢者、聖女、魔導師、霊帝。


その八つの“職業ベルオーネ”は“八傑天”と呼ばれる。


“八傑天”の中には特定の種族にしか与えられぬ物と関係なく与えられる物がある。

特定の種族にしか与えられぬ物は五つ。

勇者、聖女は人族。獣王は獣人。霊帝はエルフ。龍皇は龍人。


英雄、賢者、魔導師の三つは二つ以上の種族に与えられた事が分かっていて、この三つも人族は与えられた事がある。


数ある“職業ベルオーネ”の中の特別な意味を持つ“八傑天”。

その内、全種族中最多の五つが与えられた事と、唯一光と聖属性を持つ事から何を勘違いしたのか人族には、人族こそが神に愛された種族であるり、人族至上主義の教義を持つ“マリア教”という宗教が生まれ、現在それが人族の中で最大の宗教である。


そして聖女候補という事が、問題であり悪い冗談と思いたいのも、この“マリア教”という宗教のせいだ。

自分たちが多種族の優位点と考えている光と聖属性。

それらを持っていないと与えられる事のない“職業ベルオーネ”と言うのが、勇者と聖女なのだ。


勇者の方は一つの世代に数人の勇者がいるという事はあった。

“マリア教”が最大の栄華を誇っていた時代は、百八勇者時代と呼ばれており、それだけ勇者がいたと言う事だ。


一方聖女はどうだろうか?

聖女は空位である事が多く、数世代に渡り存在しない事でさえ珍しくない。


それにより一体どの様な事が聖女にされてきたのか?

それは“マリア教”を国教としていない国であっても聖女が生まれれば、国教としている国に圧力をかけさせ本部へと移送する。

拒否をした国には勇者を派遣した戦争もされた事さえあった。

同格である“八傑天”持ちがいれば多少は戦いになるのだが、いなければそれはとてもではないが戦争という呼び方は出来ず、単なる虐殺となる。

何故そうなる事も分かっていたにも拘わらず戦ったのか?

それは移送後の扱いに尽きる。


寿命の短い人族の生で死ぬまでに数十人………百を超える数の子供を生ませたといえば、どんな扱いをされていたのか分かるだろう。


アルムはそんな事を思っていると、突然何かのピースが自分の中ではまった様な気がした。

魔王・・イグナモノスと戦う為に完成させておきたかった物、自分の為だけに、自分の手で作り上げていた剣技の最終点。


前世で読んだ書籍にあった机上の空論………それが今なら出来る様な気がする。


魔王を倒す為に完成をさせ様としていた物、完成させる事が出来なかった物、さらにはそれをなし得た為、完成させる気力も湧いてこなかった物。

それを魔王を倒すためではなく、勇者を………国を排除する為に完成させ様とは流石に皮肉が過ぎる。


アルムはおかしいなと笑いながら起き上がった。


アイテムポーチから愛用の双剣だけを取り出し、白いコートも着る事もなく気配を完全に殺して宿をから出た。

薄っすらと明るくなり始めて空の下で屋根の上を走り、城壁を飛び越えアルムが向かった先はイグナモノスと戦った戦場。

この技を試す事にこれ以上の場所はない。


鞘より剣を静かに抜き放ち構える。


準備運動などは必要ない。


どんな瞬間でさえ最高の動きが出来る様に体を作っている。


思考をせずとも全身の筋肉を一斉に駆動出来る様に動きを染み込ませたアルムであるが、今は目を閉じ自らの体に全神経を集中させていく。


苦悶の表情が浮かび、額から汗が流れる。


だが、アルムは満足そうだ。何故ならそれは成功している証であるからだ。


アルムが構えを取ってから完全に停止する事、約十分。


そしていつもの様にすべての無駄を排した動きで剣を振り抜いた。


その結果はアルムの満足の行くものであった。



・・・*・・・*・・・*・・・



試し撃ちを終え、出る時と同じ様に城壁を飛び越え街の中へ入ったアルムは、ふと重心に違和感を覚えた。

着地の感触が僅かにおかしい。先ほど完成の目処がたった剣技の反動はあるが、それを踏まえた上で動いているのでそれが原因ではない。

と言う事は、外的な要因だろう。


まさかと思い鞘から剣を抜く。

目を細め天にかざして見ると予想通り刃先の部分が僅かに欠けていた。

アルムはやはりかと剣を鞘へ戻す。


時間はまだまだある。


剣でも振っていればその程度の時間はすぐに過ぎるだろうが、行き着く所まで行き着いてしまったアルムの身体操作能力は、筋繊維の一本からそれらを構成する細胞の一つまで自らの意志で操作が出来る。

鍛えるというだけならば、体を作る為の食料を取り込み剣の一振り全身を酷使し体を鍛える事も可能で、技の鍛錬も戦闘脳とかしたアルムのそれは、考えた物が完全な形で出力される。

時間をかけて剣を振り、鍛錬をするという行為は、完全に肉体を制御した時から無意味なものになっていた。


アルムは一度頷くとこの剣を作り修理している鍛冶屋のところへ行く事にした。


その鍛冶屋は家から出る時に紹介された店。


その店は鍛冶の事しか頭にないドワーフが、店主をやっている店で経営の事なんて二の次三の次。

大切な事は武器を作る事でそれ以外の事に興味はない。立地もバベルからかなり遠く利用している冒険者も殆どいない。

と言うか、一度入った客の大半は武器を購入し、遠いながらも足を運ぶのだが位置を知っているものが少なく、その数がそのまま客数になっている始末。


いい武器というのは、冒険者の命に直結するので利用している者たちも繁盛してもらっては困るのか、本当に近しい者以外に教えている様子はなく、かく言うアルムだって騒がしくなるのは嫌なので誰にも話していない。


ただ、アルムは親しい冒険者などいるのかと問われれば、苦い表情を浮かべるだろうからその答えは察せるだろう。

広まる速度と冒険者がこの街から去っていく、死んで数を減らす速度の釣り合いが取れている為、客数は常に一定を保たれているという不思議な店だ。


朝食に朝早くから出ている屋台で、冒険者や労働者向けの食べごたえのある物を購入しつつ、店のある場所へ移動した。


それは街の中に溶けこむ様な外見で看板なども一切掲げられていない。

店の呼び方もあの鍛冶屋やこれの鍛冶屋、裏通りの鍛冶屋など分かる者には分かるが、知らない者は分からないという感じだ。

外見で唯一他と違う点は、大きな煙突があるという点くらいなのだが、それも探そうとすれば見つからない訳ではないので目立つ様なものではない。


アルムはそんな目立たない建物から伸びる煙突に視線を向ける。

煙突の排出口からは黒煙が立ち上っている。


どうやら店主はすでに起きていて炉に火を入れた様だ。


「アセロさん、アルムです。お時間よろしいですか?」


アルムは奥の作業場へ声が届く様な音量で店主の名を呼びながら店に入る。

店内は一応営業許可を取る為、最低限の商品の陳列がされている。

だが、それは本当に最低限の見本の様な雰囲気であり、幾つかのテーブルの上に鞘に収められた様々な大きさの武器が置かれている。


他の武器屋などで見る壁に飾っているという事もなく、よく見せると言う意図を感じさせない無造作に置かれていると言う印象が強い。


だが、それらの剣を持ち鞘から抜けば、高級店でカラスケースの中に飾られているのが相応しい程の武器であると、戦いに生きる者なら本能的に理解する事だろう。


「おう、どうしたアルム調整か?

だが、お前さんの武器の調整は先日やったばかりだろう?」


奥から出てきたは、アルムと同じ程の背丈の髪や髭を無造作に伸ばしたドワーフの男性。

背丈は同じ程だが、肩幅は倍以上の差がある。服の下から盛り上がる筋肉は熟練の戦士すら霞む迫力を持っている。


「すみません、その通りです。

刃先が多少欠けてしまいまして」


頭を下げながら腰の剣を鞘から抜き、テーブルに並べておく。

装飾の類が一切無いのがこの店で売られている武器の特徴である。

アルムの双剣は形から重心まで同一に作られている。

それだけで彼の腕が一流である事が伺える。


それは逆にアルムが両利きであり、体の重さも完全に左右対称になる様に鍛えられていると言う事でもある。


「あん?お前さん………何を斬った?そしてどうやって………」


アセロが剣に目を落とし状態を診ていくと、彼の額からは汗が滲み目は驚きで見開かれていく。

今まで目の前に立つ少年は、信じられない様な事をし続けてきたが………これは、それまでの事と桁が違う。

そんな彼を見ているアルムも、見ただけでそれが分かりあたり彼も流石だなと素直に思う。


「アセロさん。それ以上の詮索は契約違反ですよ。

………ですが、アセロさんが診た事それに一切の間違えはないと言っておきます。

現状でその剣技は僕にしか出来ませんので、聞いたとしても無意味です」


アルムの言葉を聞いたアセロは黙って目を瞑る。


「分かったお前にしか出来ないのなら聞く必要はないな。

だが、もし出来る素養のある者を見つけたら広めろよ。

技術は広める為にあるんだからな」


「分かっています。

流派の秘伝などと違いますからね」


アルムの返答に満足そうに頷くとアセロは、視線を剣に戻した。


「こいつは今すぐ直した方がいいのか?」


「そうですね。

この後、ちょっと用があるのでそれを思うと直していただけると嬉しいです」


「分かった。

今すぐ直すからこいつを作業部屋の台の上まで運んでおいてくれ」


「了解です」


アルムが頷くとアセロは地下の資材庫へ向かっていき、彼も言われた通りに剣を運んだ。

アセロが剣の修理をしている間暇が出来たのでアルムは店の周囲に出ている屋台で再び食事を買い食べる。


アルムは一見すると同年代の少年より小柄で力も重さもない様に見え、彼が戦えると知った者は速度で翻弄する様なタイプだと考える。


しかし、それは大きな間違いである。


アルムの肉体は正気を疑われる様な鍛錬により、人族を逸脱した密度と柔軟性を持った物へと変貌していて、体重も見た目から予想されるそれの数万倍はある。

これは外から栄養を取れるだけ取り、自らの体を制御しきり圧縮した為にそうなった。

その為、彼のもつ剣もそれに準じた質量を持っており、アセロも一本を抱える事が精一杯と言う程である。

それでも凄い事なのだろうが………


アルムは、見た目通りの速度で翻弄するという速度を持った上で、一般的な大剣などとも比較にならぬ程の質量の剣を、短剣使いの剣よりも速く振るうと言う理不尽な存在となっている。


そんな肉体を維持する為に必要な大量の食料を摂取しながら剣の修理が終わりまで待った。

アルムが店の奥にある一室で包装紙の山を作っているとアセロが作業部屋から出てきた。

足音からは彼の疲労をありありと感じさせる。


そしてアルムの部屋に入ってきたアセロは、全身から拭っても溢れてくる汗を流していた。


「終わったぞ」


のっそりと歩く彼からは疲労を感じるが、声からは疲労を感じさせない。

アルムは驚嘆する程の精神力の高さだと思った。


「ありがとうございます。お疲れ様です」


「ああ、気にすんな、これはわしの至らなさのせいなのだからな。

それと同じ事をされたとしても耐えられる程度には強化しておいた………ははっ、いつかお前さんが完成させると思って腕を磨いておいたかいがあるぜ」


アセロは重量軽減効果のついたアイテムポーチから双剣を取り出す。


見た目は全く同じ。


座ったまま両手にそれを持ち狭い空間をうまく使って何度も振る。


感触に満足して深く頷く。


手に感じる感触も全く同じ。


「重ね重ねありがとうございます」


鞘に戻してから再び礼を言う。


「まっ、こいつがかけちまったのはお前さんが失敗したからだろ?」


「分かりますか?」


「どれだけ剣を見てきたと思ってやがる。

どんな使い方をされてどんな事が原因で壊れたかなんて見れば分かる」


そんな事を当たり前の様に言うあたり彼の実力の高さが伺える。

少し談笑をしてアルムはアセロの鍛冶屋を後にする。


アルムは約束の時間になるまで自分の部屋で時間を過ごした。

その時を定時ごとに鳴る鐘で知ったアルムは、白いコートを着ると、腰に剣を下げた。


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