第一章・魔界と魔力 2
二
アメリカ。ニューヨーク。
「これは何?」
FBI捜査官であるレイチェルは、出勤早々、不可解な映像を見せられることになった。
レイチェルは二十八歳の白人女性である。すらりとした均整の取れた身体つきをしており、身長は百六十三センチを僅かに超えている。背中のあたりまで伸ばした髪の毛は少しくすんだ金色をしており、淡いブルーをした綺麗な二重の瞳は、知的で優しそうでありながら、意志の強そうな光をたたえていた。
レイチェルは監視カメラに収められた映像を確認すると、眉を顰めて、自分のデスクの側に立っている、背の高い筋肉質の男、同僚のマイケルの顔を見やった。マイケルは三十二歳の白人男性である。どちらかというと四角く角張った顔立ちをしており、短く切り揃えられた髪の毛はレイチェルとは対照的に黒だった。マイケルはレイチェルの問いに、俺にもよくわからんというふうに軽く肩をすくめてみせた。レイチェルはその形の良い、弓形の金色の眉を潜めるようにしながら、もう一度監視カメラの映像を確認してみた。
そこに収められている映像は、信じられないものだった。巨大な蜥蜴形の生物と、その生物に跨がった中世ヨーロッパ時代の甲冑のようなものを身に付けたコスプレ男。そしてその男は掌から発射したエネルギー弾のようなもので、警察車両を破壊している。その後、信じられないことに、そのコスプレ男と謎の巨大な生物は煙のようにその場から忽然と姿を消していた。
「これってもしかして映画の宣伝か何か?」
レイチェルは顔をあげて、マイケルの顔を見ると、冗談めかして訊ねてみた。どう考えても、さっきの映像が本当にあったことだとは、とてもレイチェルには信じられなかった。
「そう思うのも無理はないが、これは昨日の夜、現実に起こった事件なんだ」
レイチェルの発言に、同僚のマイケルは険しい顔つきをして答えた。
「現実に、この警察車両に乗っていた警官、レオナルドの遺体が、車のなかから見つかっている……」
「それ、本気で言ってるの?」
レイチェルは目を見張って言った。
「残念ながらほんとうだ。焼けこげた車両のなかから、男性の遺体が見つかっていて、歯形を検証したところ、間違いなく、昨日の夜、この警察車両に乗っていたレオナルドのものだということがわかっている」
レイチェルはさっき確認したばかりの映像を巻き戻して最初から見てみた。甲冑のようなものを身に纏った男から発せられる明るい光の玉。それが車に着弾したとたん、まるで警察車両はロケット弾でも命中したかのように、激しく爆発している。
「……一体、これはどういうことなの?」
レイチェルは映像に映っている現象が理解できずに、デスクの上で肩肘をつくと額を押さえた。
「……それについて調べるのが、今回俺たちの任務だ」
マイケルは言った。そう言ったマイケルの顔を、レイチェルは問うようにじっと見つめた。




