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魔族

その黒い、甲冑のようなものを身に纏った、顔の青白い男……魔族である、デザイアは、突然自分の前に出現した異世界の女の姿に軽く首を傾げた。一体この女はどこから現れたのだとデザイアは思った。それに、この女の容姿にはどことなく見覚えがあるとデザイアは思った……一体どこで見たのだったか……デザイアは目を細めるようにして女を見つめた。それに、この人間の女は、魔族であるこの俺の姿を目にしても、恐れるどころか、余裕の表情すら浮かべて腕組して立っている……一体何者なんだ?この女は?デザイアは訝しんだ。


「貴様は誰だ?どこから現れた?」

 デザイアは、若い、二十歳くらいと思われる、長い黒髪の女の顔を見据えると、魔界の言葉で詰問した。すると、女は……玲奈は、

「そんなことどうだっていいじゃない」

 と、腕組みしたまま不適な笑みを浮かべて答えた。


 最初、デザイアは、目の前の女は魔界の言葉を解するのかと思ったのだが、どうやらそうではないということにすぐに気が付いた。女は魔力を使って、言語を相互理解できるようにしているのだ……この女は魔力が使えるのか?しかも、かなり高度な魔術に属する意識調整の技が使えるというのか……デザイアは驚いて目を見開いた。


「女……多少、魔力が操れるようだが、いい気になるなよ。これから貴様を灰にしてやる」

 デザイアは動揺を隠して強がるように言った。


「やれるものならね」

 玲奈は笑みを深めて言った。


「……ならば」

 デザイアはそう言うと、目の前の黒髪の女に向かって掌を翳した。すると、その次の瞬間、デザイアの掌から明るい、千度以上の高温の火柱が玲奈に向かって発せられた。しかし、その高温の火柱は玲奈の周りにできた透明な壁によって粉砕された。


「……ば……ばかな……」

 デザイアはその信じられ現象に言葉を失った。魔族である俺が人間の女に魔力で劣るわけがないとデザイアは信じられなかった。一体どうなっているというのだ。


「じゃあ、次はわたしの番よ」

 玲奈は腕組みしたまま薄く微笑んで言った。そして玲奈がそう言った瞬間、明るいグリーン色の閃光が走った。デザイアは防御の魔力を発動する間すらなかった。灼熱のグリーン色の光が彼の跨っている獣と彼の身体を焼いた。瞬く間にデザイアの跨っていた獣は黒い灰となり、デザイアは鎧を身に着けていたおかげで辛うじて焼死を免れたものの、彼の身に着けていた、魔力によって強化された鎧は、玲奈の発した魔力によって一瞬で気化してしまっていた。


 ……なんという恐ろしい魔力の使い手なのだ、と、デザイアは全身に激しい火傷を負い、瀕死の状態で地面に仰向けに崩れ落ちながら思った。……この魔族である俺が、人間の女の魔力に負けてしまうなんて……しかも、この力はまるで……魔王クラスのものではないか……デザイアは思った。


「あっけないわね。魔族だからもうちょっとやるかと思ったけど」

 玲奈は歩いていって、足元に横たわっている魔族……デザイアを見下ろしながら言った。


「あなたが人間に協力するっていうのなら、助けてあげてもいいわよ」

 玲奈はデザイアの焼けただれた顔を見下ろしながら冷やかな声で言った。


「わたしなら、あなたの傷を一瞬で治してあげられるわ」


 玲奈の言葉に、デザイアはバカバカしいというように口元を歪めて笑った。

「虫らの人間に、魔族である我々が媚びを売るわけがないだろう。……少々力が使えるからといっていい気になるな。今に、この俺の何十倍もの魔力の使い手がこの世界を滅ぼしにやってくる……。そのとき、思い知るが良い。虫けらめ」


「……そう。よくわかったわ」

 玲奈はデザイアの言葉に無表情にそう答えると、


「じゃあ、最後にひとつだけ教えて。どうして今日、あなたはここに現れたの?標的はどこでも良かったはず。それなのに、なぜこの場所を選んだの?たまたま?それとも何か理由があるの?」


 デザイアは玲奈の問いに答えまいと思った。デザイアは自分よりも上位階級の魔族からこの人間世界を支配するにあたって、脅威となるであろう存在二名を排除するように言われてこの地にやってきたのだった。まだ力の弱い今のうちに抹殺せよとデザイアは厳命を受けていた。だが、デザイアはそのことをわざわざ女に教えてやるつもりはなかった。デザイアは最後の力を振り絞って、自分の思考が読まれてしまわないように魔力で自分の思考に鍵をかけた。


「……無駄よ」

 玲奈はデザイアの魔力の動きを感じ取ると、口元の隅をつり上げて微笑した。そして魔力でデザイアの思考の鍵を強引に取り除くと、デザイアの思考を読み取った。


「……なるほど。そういうことだったのね」

 玲奈は呟くような声で言った。デザイアの思考から浮かび上がってきた映像は樹と和也の顔だった。


 玲奈は横たわっているデザイアの顔に掌を翳した。


「必要な情報は頂いたわ。さようなら。せめて苦しまないようにあの世へ送ってあげる。……恨むなら、あなたをここへ遣わした上位魔族を恨むのね」

 そう言ったあと、玲奈の掌から明るいグリーン色の閃光が走り、魔族……デザイアの身体は一瞬にして消滅した。


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