世界と夢とはじまり(1)
ぼちぼちやってます
ジョー・菊池・文太郎は天を翔るような気持ちでいた。
今の今まで、彼はこの世界を離れ、遠く遥か未来を通り、世界の終わりを見届けていた。生まれた瞬間に、勇者としての宿命に縛られ、友情と愛情の板挟みにあい、心が砕けちっても魂はずっと変わらず光り輝く流星のようにきらきらと遥か遠くでこの世の全ての存在を愛しながら、そして死んだのだ。僕が死んだ後も、人類と魔族は手取り足取り仲良くやっていけるだろうか。それのみが心配だ。信頼に値する幼馴染でもあり、リサーブベール王国の第一王女として幾多もの冒険をこなし、今では人間側の代表者でもある凛華・ブレードソードはきっと、自ら命を投げ捨てた僕の意を汲んで、魔族と決して仲たがいしないだろう。ちょっと頭が固い処が玉にきずだが、基本的には聖人君主と崇められるにたるほど誠実と慈悲の恩恵を受けた女の子だった。でも僕にべたぼれだから、後を追って死んだりすることが気がかりだったりする。もし、そうなら嬉しいが…。…。
パタン。
本当は寝台で寝そべり本を読んでいた彼の名前は希姫理妖(のぞみひめ、りよう)と呼ぶのだが、自分の名前すら忘れてしまうくらい舞い上がっていた。本を読んだ後の、この地面に足がつかない非現実感は理妖の脳髄を未だ揺さぶっていて、思考は境界線をあっちからこっちへと行ったり来たりしていた。
気がつけば、腰が少し痛くなっている。身を起して寝台に腰をかけ、少しの間ぼーっとして頭の中を整理する。頭を左右にふると、空想も一緒に吹き飛んでいくような心地の悪さを感じた。同時に思考能力も奪われているような錯覚を覚えた。
(さて…。)
彼は自らの手にある禁書、第一種レベル4扱いの『グリュンベルの悪魔』をちらりと一瞥した。
そして、跳躍した!
生まれる前より神の一族により身体能力の強化をされたこの身は通常の人間の身体能力を大きく超える。ひと跳びで山を越え、軽く腕を降るだけで、雲を掻き消すことができた。
はずだが、あいにく現実には理妖にはそんな力は宿っていない。派手な音を立てて転倒し不格好な格好で床に口づけをする羽目になった。
「いたた…。そうだったな…。この場で本気を出すと、部屋が壊れかねない。無意識のうちに、自らその力をセーブしちまったぜ。」
(とりあえず、リアにでも会いに行こう…)
立ち上がって扉をあけ、現実の世界の中に踏み入れた。
ぼちぼちやりました