つかの間の休息 2
「また遠征か~。新婚だろうが関係ないのはあんまりだよなぁ?」
早々にサファイア王との謁見を済ませ、私室に戻る途中でジンがつぶやいた。
フォースと共に王と謁見した彼はいささか不満げだ。
新婚のフォースを気遣ってではなく、意味のない遠征に不信感が募る一方なのだ。
ジンのつぶやきにフォースは何も答えず歩き続けた。
そんなフォースが少し心配になり半歩歩みを早め、フォースの顔を覗き込むジン。
覗き込んだフォースの表情は不満げで且つ不機嫌。
「なんだ。けっこう怒ってんじゃん。そらそうだよな~新妻に構いたくて仕方ないのに仕事仕事でさらには遠征っていやがらせかよって…フォース?」
それを見て安心したのか手を頭の後ろで組みながらさらにつぶやくジンだったが、急に隣にいたはずのフォースの姿がみえなくなったので立ち止まり振り返る。
「それが言えたら問題ないんだがな。」
ため息まじりに暗くつぶやくフォース。
「しまった地雷踏んだ!」と確信したジンはのんきに組んでいた手を解き何かしらフォローしようとフォースに歩み寄るが、
「俺の気持ちを代弁してくれてありがとよ、ジン。」
「ええ!?俺に対してお怒りでっ!?」
思ってもみない怒りを含んだ笑みを向けられ歩みを止め固まった。
そのまま何も言えずにいると、フォースの背後に助け舟となる人物の姿が見えた。
「おっ!デイジー!あぁレアァ!!」
王妃との会談を終えたレアとデイジーのふたりだ。
逃げるように二人のもとへ駆け出すジンにフォースは軽くため息をつくと自らも二人のもとへと踵を返した。
「なに?またフォースを怒らせたのジン?」
「別に怒ってない。」
デイジーの問いかけにジンが答える前にフォースが反論する。
フォースの言葉に困惑の視線を向けるジン。腕はたつが少し単純である彼だが不快感が起こるわけではない。
加え幼少のころからの側近。怒ることなどないのだ。
「少し茶化しただけだ。ジン、馬の用意をしてくれるか?遠乗りに行こう。」
「お?おぉいいな!気分転換ってやつだな!」
「あら、いい案ねフォース!それなら厨房から何か拝借してこようかしら。もちろんレアも行くでしょ?」
「え!……あ、うん。そ、そうね。」
遠乗りの提案をしたフォースに意気揚揚と答えるジンとデイジーだったか、レアは一瞬戸惑いを見せたがすぐに頷いた。
その様子に不思議そうにきょとんとする3人。
「なんだ…もっと喜ぶかと思ったんだけどな。毎朝窓の外見てため息ついてるからてっきり外出たいのかと思ってたぞ。」
「あれは!そういう意味じゃない…ことも、ないけど…。」
フォースに自分の思いがばれていて少し恥ずかしいレアの語尾は徐々に小さくなっていった。
その様子にフォースは少し口角をあげて微笑んだ。
「あらあらお熱いですこと。」
「馬の準備準備~っと。」
そんなふたりの様子をみてデイジーとジンは茶化し交じりの言葉を残してその場を後にした。
□■□■□■□
ジンとデイジーが姿を消した後、フォースに連れられて城門近くまでやってきたレア。
大きな城門を見上げて眺めていると、ジンとデイジーがが馬を引いてやってきた。
デイジーが引いている馬には小さなバスケットが乗っている。おそらく厨房で拝借してきた食べ物が入っているのだろう。フォースに馬を渡したジンが中を覗こうとするのを叩いて諌めるデイジーにレアは笑みをこぼした。
「よっ…と。」
隣で小さく掛け声をかけて馬に軽々と乗るフォース。
レアは馬を連れてきていなかったので、流れ的に彼の馬に乗ることになるだろう。
外に出られるのだ。百歩譲って相乗りはいいことにするが、レアにはまだ問題があった。
「ほら。来いよ。」
案の定差し出されたフォースの手。
だがレアはその手をすぐには取らなかった。何かを言いかけたがすぐに口をつぐんでうつむくレア。
フォースは単に相乗りを嫌がっているのだと思い、小さくため息をつく。
デイジーの荷物をこちらに移すか…とデイジーに声をかけようとすると、レアが意を決した瞳で見上げてきた。
「お……………落とさないで、よ。」
「は?」
「昔…落馬して、それ以来、馬には乗ってないの。」
レアはそう言うと恥ずかしそうにフォースから目を逸らした。
そう、レアは馬に乗れないのだ。だがしかし、城から外出できるこのチャンスを逃したくはなかったのだ。
フォースはレアの発言に少し驚いたものの、どこか納得した様子でレアの手を取り、自分の前へと乗せた。
力持ちのフォースにはレアを持ち上げるなど、片手で朝飯前である。
「その馬も、お前と同じじゃじゃ馬だったんじゃねぇのか?」
「なんですって!?」
「あー…冗談だ。この馬は「サファイア」いちの駿馬だ。目、瞑ってる間に着くから大丈夫だよ。」
馬をゆっくり進ませながらフォースは言った。
そう聞いたものの、まだ恐いので(少し不本意に)フォースにしがみ付いた。
その様子からフォースはレアが本気で恐がっていると察し、前に乗っているレアの腰に片手を回した。
「フォース。この手は何。」
「落ちてもいいのか?」
「嫌。」
「じゃぁ大人しくしてろ。」
城門が音を立てて開きだす。
門の向こうには堀の上にかけられた橋があり、その先に城下の町が広がっている。
「町をゆっくり見るのはまた今度。」とレアの後ろでフォースが囁くと馬がゆっくりと動き出した。
城門をくぐり橋を渡るうちに徐々にスピードを上げて、後は町を駆け抜ける。
町を抜けきる頃にはジンも、デイジーも、徐々に離されていった。
スピードが上がる度、レアはフォースに強くしがみ付いた。
「レア!顔上げろ!風が気持ちいぞ!!」
フォースがそう言うと、レアは恐る恐る顔を上げた。
フォースの言う通り、風はとても気持ちよかった。緑の匂いがした。
城に吹く風はいつも潮の香りがしていたが、内陸へ向かっているので、緑の香りが漂ってきているのだ。
遠くには城と、城下の町が見える。
「……。国王がああでも町は廃れない…。いい町の証拠だ」
小声で呟いたフォース。髪をなびかせて優しいまなざしで町を思う彼に少し鼓動が高鳴ったのを打ち消すようにレアは頭を振った。
そしてまた走り出し、森の中へと馬を進めていく。
すると、森の中に湖が現われた。城下の町とはちがう澄んだ空気。
落ち着いた雰囲気の場所だった。
ジンとデイジーはまだ到着していない。
フォースは寝転んでんーっと伸びをしている。
「こういう落ち着いた場所は嫌いか?」
「…ううん。「フローライト」は内陸だから、思い出して…安心する。」
「そうか。また連れてきてやるよ。……って言ってもしばらくは無理だけどな。」
フォースのその言葉にまた戦が始まる。のだと直観的に察したレアは少し暗い表情を落とす。
今度はどの国が大地へ還るのか。
「私も行く。」
「言うと思った。もとよりそのつもりだ。」
レアの返事が分かっていたのかフォースは淡々と答える。
レアは自分の気持ちを見透かされて嫌な気もしたが、自分の申し出が拒否されなかったことを思えば憤りを感じることはなかった。
仰向けに寝転んでいるフォースの隣にレアもゆっくり腰を下ろした。
「膝枕でもいかが?とか言ってみたらどうだ?じゃじゃ馬。」
隣に座ったレアを見上げてからかい交じりに言うフォース。
そんなフォースに初め声を上げ反論するそぶりを見せたレアだったが、なんとかその怒りを抑え込む。
そして無理やり作ったであろう満面の笑みをフォースに向けた。
「えーいいですわよ膝枕!私はあなたの妻ですものねぇ~。」
怒りを抑えるためか少し裏返った声でそういうと、ポンポンとドレス軽く払う。
そしてそこに両手を「さぁどうぞ」の形でかざして、また作った笑顔をフォースに向ける。
その笑顔の裏に隠れた怒りのオーラが見えるようで、自分からけしかけたことを後悔したフォースだった。
「(そこに行ったら食いちぎられそうだな、オイ…でもま、)せっかくだしな。」
とつぶやいて(正確には言い聞かせて)上体を起こすと片腕を支えにレアの方へと上体を動かす。
必然的に二人の顔が近づいたその状態でフォースは動きを止めた。
急に至近距離で動きを止められ思わずドキリとするレア。
しばらく口をパクパクさせた後、ようやく言葉を紡いだ。
「な、なに!?どうしたの…!」
そう言ったところでフォースの人差し指がレアの口に触れた。そしてやけに真剣な表情を浮かべるフォース。
茶化しているのではない。これは危機が迫っていることを無言で示しているのだとレアはようやく気付いた。
メロリン要素をちょい足しました。
次回ようやくメインキャストのもう一人が登場です。




