新たな戦い 2
ちょっと短めです。
騒ぎを聞きつけ駆けつけたサファイア兵によって取り押さえられたトパース王妃は、それでもフォースを睨み続けた。
その眼差しには怒りと嘆き、悲しみといった感情が込められている。
「おのれ…青の王子め!!わらわから国も王も奪った上にローイエまでも奪うのか!!」
嗚咽交じりにフォースを罵るトパーズ王妃。
その姿に元王族としての誇らしさは微塵もない。
ちなみに青の王子とはフォースの呼び名の一つで、青色を基調としている「サファイア」の王子という意味だ。
「お言葉ですが王妃殿。貴女方トパーズ王家はこの国に生きる民のことを顧みず、暮らしていただろう。国を統べるものとして何もしていなかった。」
「黙れっ!さも民のためだと言うておるが、そこにそなたの意思はあるまいっ!すべてサファイア王の言いなりになっているだけではないか!」
トパース王妃をなだめようとしていたフォースの表情が強ばった。
「王としての力をもった完全無欠の王子?笑わせるわ!!落ちぶれた父にも逆らえぬただの坊やが、王になどなれるものかっ!!!」
狂気をおびた彼女の言葉に、フォースは絶句した。
それはまさに、その通りだったからだ。
「言わせておけばっ…!!」
見かねたジンが剣に手をかけたが、その手はフォースによって無言で制止された。
フォースは少し俯き髪に隠れてその表情をジンが読み取ることは出来なかった。
「…彼女をつれてけ。」
「けど!」
「好きなだけ、言わせておけばいい。…頼んだぞ。」
フォースはそう指示だけ出すと、トパーズ王妃を再びみることなく続き間へと姿を消した。
それを何も言えずに見送った後、ジンは指示通りトパーズ王妃を兵に連行させた。
その姿を見届けた後、となりに居たデイジーと目が合ったのだが、お互い何も言えず深く息をついた。
二人にはトパーズ王妃の言葉がフォースにとって図星であることが分かるからだ。
そして、分かっていても何もいえないもどかしい気持ちを抱えてままだった。
そんな二人の間を通りぬけ、フォースが姿を消した続き間へ急ぐ人影ーレアがいた。
先ほどまで戦っていたセロリアは指輪に帰り、今はレアに戻っていた。
しかし彼女を視界に捉えるや否や、慌ててデイジーがその手を掴んだ。
「待ってレア。今はダメよ…そっとしておいてあげて。」
「一人にしてやればきっと、大丈夫だから、な?」
レアをなだめ、言い聞かそうとするジンとデイジー。
情けない顔をして自分を留める二人の顔を交互に見た後、レアは怒りの表情を浮かべた。
「だめよ!そんなの…だめっ!!」
パシンッ!パシンッ!
自分の腕を掴んでいたデイジーの手を振りほどき、そしてそのまま二人の頬を叩きつけた。
思いもよらない出来事に叩かれた頬に手を当て、パチクリとするジンとデイジーにレアは続けて怒鳴りつける。
「そっと…一人にしておけば、大丈夫…?そんなはずあるわけない!放っておいたらフォースはずっとあのままよ!?二人はそれでいいの!?」
レアの言葉に二人は答えられずに居た。
「…今までもずっと、こうしてたのね…?だからフォースは国王の言いなりのままなのよっ!まさか、彼の本当の気持ちが分からないわけじゃないでしょう?長い間一緒にいるのに、どうして言ってあげないの?一緒に、立ち向かおうって――。」
レアはここまで言い切ると、憤り一杯といった風に口を真一文字に結んだ。
それでも何も言えずにいるジンとデイジーにさらに吐き捨てた。
「心で思っていても、伝わらないこともあるわ!言わなきゃ何も始まりはしない!!」
呆然と立ち尽くす二人の間をすり抜け、レアは続き間へと歩みを進めた。