第2話
なにげない日常風景な話にしてみました。
千歳と上司のおばかなやりとりをお楽しみください。
朝、倦怠感と頭痛で頭がぼーっとする中、千歳はベッドから降りた。
今日はバイトもなく仕事もない。
かといって家にいるのも退屈だ。
近くに散歩にでも出かけようかと千歳は家を出た。
色とりどりのランドセルを背負った集団が交差点を通り過ぎるのを待つ間、千歳は欠伸をしていた。
春の日差しは柔らかく、眠気を誘ってくる。
気が付けば集団はとうに通り過ぎ、信号は点滅していた。
駆け足で横断歩道を渡って千歳はまた欠伸をした。
「眠そうだねぇ千歳君。」
やたらと陽気な声に振り向くとあの上司が立っていた。
「Good morning!!」
千歳の顔から生気が少しずつ失せていった。
近くの公園で千歳は上司とベンチに腰掛けた。ただし50cm程間を開けて。
上司が非常にはつらつとした表情をしているのと対照的に千歳はうんざりとしている。
よほどこの上司を好いていない様だ。
しばらく沈黙が続き、その間上司は散歩にきていた犬に手をふり、千歳はため息をついていた。
千歳はいつも通り黒い服を着て上司は対照的に紫と白の縦縞のシャツに赤いネクタイ、ピンク地に薄黄色の大きな水玉模様のズボンに白のジャケットというものすごい格好で千歳がうんざりするのも理解できる。
多分誰でもこんな人とは知り合いだと思われたくないだろう。
長い沈黙ののち千歳の方から話をふった。
「何か用ですか?」
上司は千歳の方を振り返ってニカッと笑い
「別に!!用はないし暇だったから♪」
と言い放ち、また興味を犬に戻した。
千歳はため息をつくとベンチを立った。
「どうしたんだーい千歳くぅーん。」
「帰ります。家で寝ます。付いてこないでくださいね。」
千歳は淡々と言うとそそくさと歩き始め、上司を置いてけぼりにした。
せっかくの休みにとんだ邪魔が入った!!
内心イライラしながら家に帰った千歳を待っていたのは上司。
死神機能で千歳より先に千歳の家に着いたらしい。
力が抜けたのか千歳の肩からバイオリンケースが落ちた。
「お茶はまだかい、千歳くぅーん。」
殴りそうになるのを必死で抑え千歳はキッチンでお茶を淹れた。
「粗茶ですが。」
上司の前に出された湯のみにはしっかりと親指が入っていた。
上司は苦笑いしながら出されたお茶に口をつけた。
途端に口から火を噴いた。千歳の手には真っ赤な液体の入った小瓶が握られていてそこにはしっかりとタバスコと明記してあった。つまり上司はタバスコが大量に入ったお茶を飲んでしまったのである。
本来なら「火を噴く」は漫画的表現であり比喩であるため今この場で炎は見えないはずなのだが、この上司の場合はかなり特殊な様で千歳の目には上司が口から炎を出しているのがしっかり見えていた。
「それも死神の機能なんですか?」
千歳が半ば呆れてそう聞くと上司はニヤッと笑った。
「私だけの特殊能力さ!!」
「どこに使い道があるんですか?その無駄な能力。」
無機質に放たれたその言葉は確実に悪意が込められていた。
ただお茶を飲んで(もちろん淹れなおしたものだが)延々と居座る上司にイライラしてきたのか、千歳は次の嫌がらせを考え出していた。
タバスコ入りのお茶なんて物では生ぬるい様で本人は至って平気そうだ。
次はもっとどぎついのをかまさなくてはならない、と千歳は無表情のまま頭をひねった。
千歳はふと思い出した。
そういえば上司としか聞かされていないため上司の名前を知らなかった。
「名前なんでしたっけ?」
「当ててごら~ん。」
ニヤニヤしながら上司は名前当てゲームを開始した。
「山田太郎。」
千歳はまず何かを記入する際の例によく出てくる名前を出してみた。
当たるとは思っていないのだが。
「それはいとこの名前かな。すごいな何でわかったの!?」
千歳は肩の力が思いっきり抜けるのを感じた。
まさか、まさかまさかまさか!!
本当にいるとは思ってもみなかった。しかもいとこというかなり近い存在に。
もしかしたらかなりありふれた名前なのかもしれない。
千歳はオーソドックスな名前を考え出した。
「鈴木次郎?」
「当たり!!」
当たりか・・・・・。
「うそぴょん♪」
ずっこけそうになるのを必死で止め千歳は体勢を立て直した。
そもそもに何故名前当てなどという不毛な事をしているのか。
千歳は何故か微妙に腹が立った。
「ああもう!!あんたの名前なんてジャンピエールどっとこむでいいよ!!」
逆ギレみたいに千歳は叫んだ。
上司は青ざめて椅子ごと床に倒れた。
「せ.......正解.......。」
「絶対嘘だ!!」