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たとえ好きな子が“怪力”でも、死ぬ寸前まで抱きしめ合いたいと思うくらい好きです


 佐々木貴前ささききさきは薄味な男だ。


 主張はしないし、基本的に誰に何を頼まれても受け入れてしまう。

 そんな性格に加え、高校二年生にして身長が150cmと小柄なところも、周りに舐められる要因の一つだろう。


「なぁ佐々木! 職員室に道徳の授業の感想文出してきてくれよ!」


「そ、その提案が高校にもなって道徳の授業をやってる学校サイドへの皮肉になってるんじゃ……」


「皮肉とか挽肉とか贅肉とか愚肉とかどうでもいいからさ! 頼むよ、な?」


「……わ、わかったよ」


 クラスメイトに言いように使われる、名前に“き”と“さ”しかない佐々木。

 意外にも文字でびっしり埋まったプリントを持って廊下を歩くその背中はやはり小さい。


 ――しかし。


 そんな佐々木は自分の体躯に見合わないほどに大きな感情を、とある女子生徒に抱いていた。



「あ……」



 目に映るポニーテールが特徴の背が高い女の子。


 加野野乃花かのののか

 同じクラスで正真正銘、佐々木の好きな人である。


(かかかか加野さんだぁ! 今日も相変わらず美しいというか、可愛いというか……僕にはない強かさがあるよなぁ……)


 佐々木の輝く目が、加野に向けられる。


 確かに加野は美人と言われる部類に入る女の子だった。 

 色々と大きいながらも、スラっとしていてスタイル抜群。

 男子にも人気で、圧倒的な存在感も相まって話題の女の子と言える。


(やっぱり好きだなぁ……もし僕が加野さんと付き合えでもしたら……それはそれは、夢見心地なんかじゃ説明できないくらいに幸せで……)


 佐々木の恋心は、小さな体を突き破る寸前だった。

 我を忘れ、加野に見惚れる。


 すると当然、加野も佐々木がいくら薄味な男とは言え、視線に気づいた。

 そして――



「ッ⁉⁉⁉」



 驚き、手に持っていたおしるこの中身がぶちまけられる。

 その中身は幸か不幸か、薄味男にかかり……。


「うわぁあっ!」


 制服にべしゃりとつくおしるこ。


 コロンコロン、と潰れた缶が床に転がった。










「本当にごめん。佐々木の制服汚しちゃって……」


「き、気にしないで! 加野さんも汚れ落とすの手伝ってくれたんだしさ!」


 しょんぼりする加野に必死に声をかける佐々木。


 しかし、佐々木は胸の内では喜んでいた。

 だって加野と二人で帰れているのだから。

 制服が汚れたくらい、安い対価だった。


「佐々木くん……」


 加野が頬をやわらげ、佐々木を見る。

 しかし、佐々木と目が合うとハッと我に返り、慌てて視線をそらした。


(……やっぱり僕、加野さんに嫌われてるのかな)


 そう思うのは、これが初めてではない。


 実は佐々木は、加野に避けられている気がしていた。

 目が合ってもすぐにそらされ、話しかけても加野の返答はミットに収める気がない暴球。


 ただ、加野の性格は不愛想ではない。

 むしろ表情の明るい、活発な女の子なのだ。


 これらの理由から、佐々木はこの恋心を一年燻らせていた。


「か、加野さんはおしるこ好きなの?」


「え?」


「僕の服にかかったのもおしるこだし……ほら、いつもよく飲んでるでしょ? おしるこ」


「っ!!!!」


 加野が驚いたように目を見開く。

 反応が意外で不思議に思う佐々木だったが、ある一つの考えが脳裏によぎった。


(はっ! こ、これじゃ僕が加野さんをいつも見てるって言ってるようなものじゃん! そんなの好きって言ってるようなものだし、将来二人で喫茶店やパン屋……もしくは洋食屋を開こうと言うことがプロポーズになるとか、月が綺麗ですねが告白になるみたいな“アレ”と同じなんじゃ……!)


 慌てる佐々木。

 しかし、そこからの反応もまた、佐々木の予想外だった。




「……うん。好き、なんだ」




 頬を緩ませ、紅潮させながら言う加野。

 その顔がトリガーとなり、佐々木の脳に一筋の雷が落ちる。





「か、加野さんッ!!!!!!!!!!!!」





 ノンストッパブル佐々木。

 佐々木は加野をまっすぐ見て、言い放った。










「僕は加野さんが好き、大好き、愛してます!!!!!!!!!!」










「え……えぇっ⁉」


 好きの三段活用を咄嗟に披露してしまうほど、佐々木はテンパっていた。

 

 ――しかし。



(えぇえええええ⁉ さ、佐々木に告白されちゃった⁉ 私、好きの三段活用を一気に言われるくらい、佐々木に好きになってもらっちゃった⁉)



 テンパっているのは加野も同じだった。

 

 名前に“か”と“の”しかない加野、実は佐々木が好きだった。

 すぐに交尾したいくらい、佐々木を愛していた。

 好きで好きでたまらなかった。


「僕と付き合ってください! お願いします!」


「佐々木くん……」


 ――しかし、加野の反応は芳しくなかった。

 それを感じ取った佐々木は、弱気にも落ち込んだ表情を見せる。

 

 だが、もはや引き下がれなかった。

 今の佐々木には6.9LV8ツインターボエンジンが搭載されているくらい、勢いに満ち溢れていたのだ。


「お願いします! 僕、心の底すら見えないほどに加野さんが好きなんです! 絶対に幸せにします!」


「で、でも……」


「絶対に後悔させません! こんな僕ですけど、加野さんを必ず笑顔にして見せます!!!」


「私は……」


「お願いします! 加野さんを世界一幸せだって胸張って言えるくらい幸せにしてみせます! だから――僕と付き合ってください!」


「ッ!!!!!!!」


 加野の心に響く佐々木の告白。

 あれだけ拒絶していた心は、佐々木の猛プッシュによって――






 ――ブチッ。






 切れる加野の鞄のヒモ。

 加野が強く握った拍子に千切れた。


「…………え?」


 唖然とする佐々木に、加野は告白と同じ熱量で告げた。




「私も佐々木が好き! でも――めちゃくちゃ力が強いの! 私っ!!!!」




 普通、めちゃくちゃ力が強いと言われてもピンと来ないだろう。

 しかし、佐々木は見せられた。

 握って千切れるわけがない鞄のヒモが、加野によって千切れたところを。


「うぇええええええええええええええええええええええ⁉」


 驚きの声を上げる佐々木。

 加野は俯きながら続ける。


「幼い頃から強いの……力が。特に感情が高まると力が制御できなくて……小学生の頃、好きな人と手を繋いで帰ってるとき、興奮して思わず力強く握っちゃって、その子の手を粉砕骨折させちゃったこともあるの」


「粉砕骨折ぅ⁉⁉⁉」


「私、普通の女の子じゃないの」


 佐々木の背筋がゾクリと震える。

 自分の小さな手が粉砕骨折する未来を想像したからだ。


 加野はそんな佐々木の恐怖心を感じ取り、落ち込んだように俯く。

 

「そう……だよね。私なんて怖いよね。だから恋なんてしたくなかった。しないようにしてた」


(はっ! だから加野さんは俺を避けて……)


 佐々木の脳内に、これまでの加野に避けられた出来事が走馬灯のようによぎる。


「……わかってる。私は怪物だから。いいよ、さっきの告白取り消して。私は好きな人を傷つけたくない。だから……もういいんだ」


「ッ!!!!!!!!!!」


 佐々木の頭に再び、一筋の雷が落ちた。



「それでもッ!!!!」



 佐々木は加野の手をぎゅっと握り、言い放った。











「――それでも僕は、佐々木さんが好きだぁあああああああああああ!!!」











 佐々木の心からの告白が、世界を走り抜ける。

 諍いや矛盾、国境を越えたすべての難題は佐々木の愛の告白の前では無力だった。


 そして、加野も例外ではなかった。


「ッ!!!!!!!!」


 加野の胸はときめいていた。

 自分がめちゃくちゃ力が強いことを忘れるくらい、心を打たれていた。



「佐々木くん……!!!!!」



 ――グシャッ。



「ッ!!!!!!!!!!!!!!」



 握り返した加野の手は佐々木の手を握り潰した。粉砕した。

 ――しかし。



「加野さんッ!!!!!」



 佐々木は加野を抱きしめた。

 痛みすらも、恋の前では無に等しかった。



「佐々木くんっ……!!!!!!!」



 ――グシャァッ!!!!



「グハッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 加野も佐々木を抱きしめる。

 その拍子に、佐々木の全身の骨が折れた。

 いとも簡単に潰された。


 全身を走る壮絶な痛み。


「佐々木くんッ!!!!!!!!!」


 佐々木の意識は朦朧としていた。

 それでも、佐々木の全身には痛みに競り勝つ、愛おしいという気持ちがあった。


「加野、さん……」


 佐々木は貧弱で舐められる、薄味な男。 

 しかし、その小柄な体に宿す誰よりも大きな愛が、加野を落として見せた。

 その所以が、佐々木の今の姿にあった。


「幸せに……します」


 今にも消え入りそうな声で、佐々木が呟く。

 加野の迷いは佐々木のゆるぎない姿勢で吹き飛ばされた。


 佐々木に身を預け、加野は目を閉じる。

 佐々木は最後の力を振り絞り、加野に口づけをした。


 触れ合う柔らかな唇。


 加野の興奮具合に応じて、佐々木の体はさらに締め付けられた。

 肉体の限界が先に来て、佐々木の意識が遠ざかる。


 意識を手放す直前、佐々木は幸せに満ち溢れた表情で言うのだった。






「キスだけはソフトタッチ、か……最高だ」






「佐々木くぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううん!!!!!!!!!!!!!!!」




 恋に障害は付き物って――うん、アオハルだ。

 


 おしまい。





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