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第三章 光の中で


魔法の光が、ウィッシュランド全体を照らした。金色の光は、雪をさらに輝かせた。空は、明るく輝いた。この世界全体が、光に包まれていた。


その瞬間、ソウタに異変が起きた。


彼の体が、少しずつ光を放ち始めた。見えない存在だった彼の体が、金色の光で照らされていく。


ソウタは、自分の手を見た。かすかに、それが映っていた。彼の体が、光によって一瞬だけ可視化されていたのだ。黒い肌。長くはない爪。工作員のような、実直な手。


光の中で、ソウタの全身が見えるようになった。


黒い髪。静かな瞳。整った顔立ち。彼女を守り続けた、見えない男の姿。その顔には、リルへの深い愛が刻まれていた。


だが、光が消えれば、彼はまた見えない存在に戻るだろう。その瞬間を、彼は悟った。


でも、構わなかった。


リルは、その光の中で、ソウタを見た。初めて、彼の姿を目にした。


見えない存在だと思っていた彼。その彼の本当の顔。その顔には、彼女への愛が満ちていた。涙が、彼女の頬を伝った。


「見えた...」


彼女は、ソウタの顔を見つめた。焼き付けようとするように。記憶しようとするように。光が消えた後も、この顔を忘れないために。


その瞬間、もう一つの魔法が起きた。


リルの願いが、別の形で叶ったのだ。


彼女の体から、光が放たれた。その光は、銀白色に輝いた。見えない存在を、永遠に可視化する光。


その光は、ソウタの体を包み込んだ。見えない存在を。一瞬ではなく、永遠に。


光が消えた時。


ソウタは存在していた。見える存在として。彼の体は、二度と透明にはならない。


村人たちは、その瞬間を見つめていた。見えない存在が、見える存在に変わった。その瞬間を。


そして、ソウタの願いも叶っていた。


リルの顔には、涙とともに、最高の笑顔が浮かんでいた。それは、孤児であることの悲しみから解放された笑顔。自分の存在に価値があると感じることができた、心からの笑顔。


彼女は、ソウタを抱きしめた。


「見えた...あなたが見えた...本当に見えた...」


彼女の声は、喜びと涙で震えていた。


ソウタも、彼女を抱きしめた。初めて、見える身体で。見える瞳で。見える心で。


「俺も見えた。君の笑顔が。最高の笑顔が。君の心の光が」


二人は、クリスマスの光に包まれながら、教会の中で抱きしめ合った。


村人たちは、その光景を見つめていた。見えない存在と見える少女。二つの願いが交わり、二つの願いが叶った瞬間を。


見えないことで通じ合った心。見えることで確かめた愛。


司祭・ゴードンは、涙を流しながら、語った。


「これが、本当の愛だ。自分のためではなく、他者のために願った愛。その愛が、世界の魔法を動かした」


祭りは続いた。村人たちは、この奇跡を祝った。


ソウタは、リルの手を握った。そして、膝をついた。


「リル」


彼の声は、震えていた。


「これからずっと、俺は君のそばにいたい。見えない存在だった時も、見える存在になった今も、変わらずに。君が笑顔でいるために。君が幸せでいるために。俺は君を愛している」


リルは、ソウタの手を握り返した。


「ソウタさん...私も。私も、あなたを愛しています。見えない時も。見える時も。変わらずに。ずっと、一緒にいたいです」


クリスマスの光は、やがて消えた。


だが、二人を包む光は消えなかった。それは、二人の心から放たれる、永遠の光だった。


村人たちは、朝日の中で、見える男と笑顔の少女が手を握り合っているのを見た。


その時、村人たちは気づいた。見えない善き存在は、いつもこの少女を守ってくれていたのだ。見えない手で。見えない心で。それは、愛という名の光だったのだ。


司祭・ゴードンは、ソウタとリルに近づいた。


「二人よ。この世界で、何か望みはあるか」


ソウタは、司祭を見つめた。


「この世界で、リルと共に生きたいです。この村で」


司祭は、微笑んだ。


「それなら、この村はお前たちを受け入れるだろう。見えない善き存在の正体が、このような男だったとは。村人たちも喜ぶ」


こうして、ソウタは見える存在として、村で生活することになった。


それから一年が経った。


ソウタとリルは、この村で共に生きていた。


ソウタは、見える身体で、村の様々な仕事に携わった。農業。建築。修理。彼の実直な仕事ぶりは、村人たちから高く評価された。


リルは、村人たちから尊敬される存在になった。孤児だった彼女は、今や村の皆から必要とされる人間になっていた。彼女の優しさは、村全体に光をもたらしていた。


次のクリスマスが近づいていた。


ソウタは、新しい願いについて考えていた。前年は、リルの笑顔を願った。だが、今年は何を願うべきか。


その夜、リルが彼に話しかけた。


二人は、教会の階段に座っていた。初めて出会った場所。


「ソウタさん、今年のクリスマスで、あなたは何を願いますか?」


ソウタは、リルを見つめた。見える瞳で。彼女の顔を。彼女の笑顔を。


「実は、決まってないんだ」


「そうなんですか?」


「前年は、君の笑顔を願った。今年は...」


ソウタは、ポケットから何かを取り出した。


「君の人生全体が、笑顔で満ちている世界を願いたい。そして、俺がその笑顔を作るパートナーになれるように」


それは、指輪だった。銀製の、シンプルな指輪。村の職人が、ソウタのために作ってくれたものだ。


「これは...プロポーズですか?」


リルは、目を丸くした。


「そう。これは、クリスマスの魔法に頼らない願い。俺が、自分の力で叶える願いだ」


ソウタは、リルの前に膝をついた。


「リル。俺と結婚してくれ。見える世界で。見える人生で。君の笑顔のために、永遠に支え続けたい。今度は、見える手で。見える心で」


リルは、涙を流しながら頷いた。


「はい。ずっと、あなたと一緒にいたいです。見える存在になったあなたとも。そして、もし見えなくなったとしても、心で見ていきます」


ソウタは、リルの指に指輪をはめた。


その時、二人の周りに、淡い光が現れた。クリスマスの魔法が、二人の約束を祝っているかのように。


クリスマスの夜。


ソウタとリルは、村の教会で式を挙げることにした。かつて、二人が最初に出会った場所。見えない存在が、見える少女の手を握った場所。


村人たちは、この結婚式を祝った。孤児だった少女と、見えない存在だった青年。二人の愛の物語を知っている村人たちは、心からこの結婚を祝った。


クリスマスの光が、再び村を照らした。


ソウタは、この世界に来た時のことを思い出していた。透明人間として、何もできない、誰にも見られない状態から始まった人生。


だが、リルと出会ったことで、すべてが変わった。見えない存在だからこそ、彼女の本当の心が見えた。言葉がなくても、心が通じ合った。


そして今、見える身体を得て、彼女の顔を直接見ることができる。彼女の笑顔を、毎日見ることができる。彼女の手を、見える手で握ることができる。


ソウタは、リルと誓った。


「この世界で、君と共に生きることを誓う。見える世界でも、見えない世界でも。言葉で伝えることでも、沈黙の中でも。俺は、君を愛し続ける」


リルも、彼に誓った。


「この世界で、あなたと共に歩むことを誓う。透明だった時も、見えるようになった時も、あなたの愛は変わらなかった。だから、私も変わらない。ずっと、あなたを愛します」


クリスマスの光が、二人を包み込んだ。


その光の中で、見えない存在と見える少女は、一つの命になった。


見えないことで通じ合った心。見えることで確かめた愛。


ソウタは、この異世界に転移されたことを、もう後悔していなかった。


あの白い光。あの瞬間。すべてが、彼をリルのもとへ導くための運命だったのだろう。


ソウタとリルは、この村で、これからも共に歩んでいった。


毎日。毎晩。毎年のクリスマス。


二人の愛は、見える世界でも、見えない世界でも、変わることはなかった。


そして、数年後。


ソウタとリルの間に、子どもたちが生まれた。


その子どもたちも、父親の来た異世界の物語を聞いて育った。


透明人間だった父が、クリスマスの夜に、見える存在になった物語を。


見えない手で、見える少女の心を守った父の物語を。


その物語は、村全体に伝わっていった。


そして、やがて伝説になっていった。


「透明なクリスマスの奇跡」


それは、見えないことの価値。見えないことの美しさ。そして、愛の偉大さを示す、この世界で最も神聖な物語。


村の子どもたちは、毎年クリスマスが近づくと、この物語を聞いた。


見えない存在だった男が、どうやって少女を愛したのか。見えない手で、どうやって彼女を守ったのか。


そして、クリスマスの魔法が、二人の純粋な愛を見極めて、二つの願いを同時に叶えたという奇跡を。


リルは、子どもたちに語った。


「見えないことは、悪いことではありません。むしろ、見えないからこそ、心が通じ合うことができます。そして、本当の愛とは、相手を見ることではなく、相手の心を感じることなのです」


ソウタも、子どもたちに語った。


「俺は、この世界に来た時、絶望していました。見えない身体で、何もできないと思っていました。だが、君たちの母親に出会ったことで、俺は変わりました。他者のために願うことの大切さを。そして、その純粋な心が、世界の魔法さえ動かすことができることを」


子どもたちは、その言葉を聞いて、目を輝かせた。


見えない存在だった父。見える少女だった母。二人の愛の物語。


それは、この村で最も大切な物語になっていった。


クリスマスの時期になると、村人たちは、この物語を思い出した。


ソウタが透明だった時代。リルが見えない存在だった時代。


だが、二人の愛が、世界を変えた。


見えない手と見える手。見えない心と見える心。


二つが交わる時、最も美しい奇跡が起きるのだ。


ソウタとリルは、毎年クリスマスイブに、教会の階段に座った。


初めて出会った場所で。


そして、その時、二人は自分たちの愛を改めて確認した。


見える今も。見えなかった時も。変わることのない愛を。


ウィッシュランドの夜空に、クリスマスの星が輝いた。


その光は、遠い世界から来た一人の青年と、この村で生まれた一人の少女の愛を照らし続けるのだろう。


永遠に。


終わり

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