不遇スキルで神をも食らう!
「ああ、腹減ったなぁ……」
友人の連帯保証人になったのが運の尽き。借金二千万、貯金も尽き、電気、ガス、水道までも止められてしまった。最早、動くことすらままならない。
――静かに目を閉じ、運命を委ねた。
「おやおや、こんな進歩した世界で餓死する奴も珍しいね」
不意に聞こえてきた声に思わず問いかける。
「……あんた、誰だ?」
「こういうものです」
さっと名刺を渡された。受け取って目を通す。
「なみ……よる……ふる? うーん読めん……」
「あったま悪いわねーっ、俗に言う神様よ」
「神だあ? 嘘つくなよ。そんなのがいたら今頃こんな状態になってねーよ!」
「全世界に何人いると思ってるの? いちいち見てられないわよ」
正論に違いないが腹立たしい。吐き捨てるように言葉を返す。
「んで? 今頃、何の用だ?」
「可哀想だから、ちょっと助けてあげようかなっと思ってね」
「助けるって、お前が見えるくらいだからもう死んだんだろ? 手遅れだわ」
「そうよ、だから違う世界で一からやり直しさせて、あ、げ、る」
「何だって!」
俗に言う、異世界転生。これは現世の不遇を覆すチャンスかもしれない。
「本当か! もちろん、チート級のスキルもつけてくれるんだろうな?」
「うふ、あなたにふさわしい最高の物を用意したわ」
「では、お願いしゃーす」
「まかせて!」
神のその一言の後、俺はまばゆい光に包まれた。
――気がつくと山の中。しかも、何故か全裸である。生まれ変わったゆえ、生まれたままの状態、とかありえない。
「あのバカ、俺は野生人じゃねぇ!」
叫んだ後、スキルのことが気になり、慌てて確認する。
「悪食?」
記載されている説明文に目を落とした。
「えっと……何でもおいしく食べられます? これも意味が分からん……それなら食事を摂らなくて済むスキルでいいじゃねーかよ……まったく」
餓死した状態からの転生のため、先ほどからずっとお腹の虫が鳴っている。人がいないこともあり、衣服を調達するよりも先に、腹を満たすこととした。
「あれ、食えんのかな?」
うまいことに目の前の木にはキノコがたくさん生えている。怪しさ全開であるものの、スキルを信じて試し、一つ口に運んてみた。
くにゅっとした食感。そして、咀嚼するたびに苦みが広がり、口内がしびれていく。
「まっずーい。なんじゃこれ?」
説明と違い、おいしくない。しかし、背に腹は代えられぬと、そこにある物、全て食い尽くした。
「ふーっ、何とか腹は満たされたけど……」
安心したのも束の間、お腹の調子がおかしい。
「うっ、やばい」
内股になりつつ、安らげる場所を探す。すると、近くに洞窟を見つけた。
「しめた! あそこで安静に……」
よろよろと歩を進め、中に入って横になる。
「うおおおおおっ」
予想通り、例の症状が襲ってきた。
「全て出せば楽に……」
ここでふと気がつく。拭く物がない。
「神よ、紙くらい用意しとけや……」
身を出さぬよう、意識を集中し、ガスのみ放出した。しかし、嗅いだことのない臭いに悶絶する。
「うわっ、くっさっ! 何これくっさっ! うっ……」
――そして、次第に意識が遠のいていった。
「ちょっと、いきなり死ぬって早すぎない?」
聞き覚えのある声に目を覚まし、口を開く。
「えっ? なんでまたここに?」
「毒キノコの成分を思いっ切り吸ったからでしょ? あんな狭い空間でブーブーしたら濃度も上がってイチコロよ」
「はあ? いやいや、何でもおいしく食べられるスキルだよね? 何で解毒できて無い訳?」
「ん? 知らない」
――適当すぎる。
「しかも、キノコ美味しくねえし」
「神様と人間の味覚は違うからねー、仕方ないよ」
何だこのひどい設定。
しかも、ああ言えばこう言う。いちいち腹立たしい。これ以上、この使えないクソ神に付き合いたくなくなった。しかし、また戻されたところで状況は改善するはずはない。
――ここで妙案が浮かぶ。
「ちょっとお願いがありまして……」
「なぁに?」
「美しい声を聞いて顔を見たくなりました。拝見させていただけませんか?」
「いいよ」
その言葉の後、光り輝いた器に盛られたカレーが姿を現した。
「どう? イケてるでしょ?この透明感ある、う、つ、わ。てへっ!」
「器が本体? なんでカレーが乗ってるの?」
「華麗に変身。なんちゃって」
「ふーん」
――笑えない。
とはいえ、姿を確認できた。目的を達成するため、そっと近づき、眺めるふりして屈みこむ。
「いただきます」
そう言って、勢いよく神に食らいついた。さすが、何でもおいしく食べられるスキル。神すら例外ではなかった。順調に食は進む。しかし――
「ちっ、不味い! カレーの味が、しねえええええっ。この馬鹿舌神!」
「痛いよーう。でも僕は死にましぇーん」
――全て平らげた後、程なく催してきた。出尽くした途端、声が聞こえる。
「何か、しびれるよー!」
「ん? これでも死なねえのかよ……」
「だって神様だもの、ハニを」
「何某詩人の真似してんだよ! 土に埋めんぞ!」
「それだけは許してー。謝るから、水に流してよー」
「流せるわけねーだろ!」
「ケチ……」
「ケチ以前に、金なくて水道止められてんだよ!」
「まあ、かわいそう。私が助けてあげるわよ、キャハ」
「もう、ええわ!」




