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レーゲンデートル  作者: 山田 奇え
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第一話「【烏輪の八族】①」


第一話「【烏輪の八族】①」



 烏河(からすがわ)市――。

 かつての主要産業だった製鉄業が時代の流れの中で衰退したあと、その水源に恵まれた平坦な土地柄を活かし、首都へのベッドタウンとして発展した市である。

 その中心から離れた位置に九軒町(くのぎちょう)はある。

 マンションや商業ビルが立ち並ぶ烏河駅周辺の様相とは異なり、住宅地や工場ばかりが目立つ閑散としたこの町は、よく言えばどこか牧歌的で、悪く言えば閉鎖的だ。

 コミュニティも日々の営みも中央都市から切り離されたような地域は、だからこそ弾き者たちが寄せ集められる()()()として栄えた。

 九軒町のシンボルとも云えるのが、見晴らしのいい景観の中央でその威容を誇っている二〇階建てのビルーー『超人類観測所』である。

「――あ、雨月さん、おはようございます」

「おはよ。あれ、今日は早いね」

 坊主頭に野暮ったい黒縁眼鏡。特徴らしい特徴を挙げるなら、長袖のポロシャツも黒、スラックスも黒とやたら服装がモノクロなところだろうか。

 青年――雨月桂(あめつきけい)は見慣れた一五階オフィスに「おはようございまーす」とどこか気の抜けた挨拶を反響させながら、自分のデスクについた。

「――そうなんですよ、どうにも保安課っぽい案件がウチに回ってきちゃってて。引き継ぎやらなにやらでちょっと忙し気味です」

「そう、まあ無理はしないでね」

 自分の後ろをひょこひょこと着いてきた女性課員は、何やら言いたげな表情でこちらを見上げてくる。

「……あのな、睦仲(みずなし)、お前――」

「おや、分かりますか。言いたいこと」

「……分かるが、分かりたくない」

「無理はするな、と言ったのは雨月さんです」

「………」

 恨めしげに睨んでみるが、彼女はニコニコ笑うのみだ。

「……詳細は」

「やった! 雨月さんやっぱり頼りになるー。さすがは元・保安課のエース」

「いつの話してんの。あとそれ、褒めてるようで『元』って言い方ちょっと刺さるから」

「あれ、そうでした? これはまたとんだ失礼を………」

 言いながら悪びれるそぶりが全くない。

 桂はため息を一つ吐き出しながら、起動したデスクトップを操作する。

「課長代理は人使いが荒いな」

「デキる部下を持った私は果報者ですね、うふふ。――あ、そのフォルダ。項番バツバツにしてあるやつです」

「焼死……なんだこれ、露骨に保安課案件じゃんか」

「そうなんですよ。でも、対象の【特異体】が特定できていない以上、申請は受けられない決まりだーって反故にされちゃって」

「特定できてない? そんなことあるのか?」

「ええ、それがどうにもデータベースと照合ができないんですよね。それで……事案だけが先に上がってきちゃったものだから、トリガーもなくて困ってたんです」

「ふーん。灰咲……はともかく、紫藤あたりと会話はしたのか」

「そのあたりもコミコミで、雨月さんにお願いしようと」

「厚かましすぎる」

「まあいいじゃないですか。たまには会いたがってると思いますよ、アリサちゃん」

「それが面倒だから、今げんなりしてんの。ったく、保護課に先に話が上がってくるなんて【紫電】も何やってんだか」

 苦々しげに桂は目を細める。思い出したくもないことが、少しだけ頭をよぎった。

「気になります? 古巣のこと」

「なんない」

 桂は画面に映る資料をスクロールして下まで眺めて見る。

 空白欄ばかりが目立つドキュメントを洗ってみて分かったことは、この件について何も分かっていなさそうということだけである。

 犠牲者は全国各地で現在七名。

 いずれも街中を歩いている最中突然体が発火し、死に至ったそうだ。

 こんな温暖湿潤な国で人体発火現象なんてそうそう起こりうるものではないし、殺人事件にしても手口があまりに迂遠すぎる。つまりこれは――『魔戒使い』による事件だ。

「じゃあとりあえず話に行ってみるよ」

「うふ、お願いします」

 カマトトぶって、睦仲と呼ばれた女性課員は屈託の隠れきらない笑みを浮かべてくる。

「あ、そうそう。そんなわけでおれ、今日一日外出するから担当案件の引き継ぎ頼むわ」

「へぁ?」

「乙種が三件と甲種にエスカレしたのが一件。甲種の申請はまだで全部判定会議も通してない」

「つ、つまり何もやってないじゃないですか……!」

「じゃ、あとよろしく」

 それだけ言い残して、桂は逃げるようにオフィスから退出した。

 閉まるセキュリティドアの向こうから「こらー! 仕事を溜め込むなー!」と、非難のようでも悲鳴のようでもあるような声が聞こえた気がしたが、桂は気にしないことにした。

「……ま、個人的な働き方改革ってことで」

 エレベーターを待つ間、桂は昔馴染みのあの女上司がむくれた顔でオフィスから飛び出してくるんじゃないかと、やや落ち着かない気持ちで過ごした。


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