表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

二.神エイト③

 テーブルを囲んで巨大なソファーが部屋の中央に置かれていた。

 長方形のテーブルを囲む形で置かれており、片側の長辺は四人掛け、その対面には二人掛けが二つ、短辺も二人掛けのソファーだ。計十二名が座ることができる。

 そこに六名の男女が思い思いの恰好で座っていた。僕らが部屋に入ると、弾かれたように一斉にこちらを見た。その視線には、どこか敵意を感じてしまった。

 新庄さんが口火を切る。「悪いね。もう一度、話を聞かせてもらうよ。事件があった日の行動をもう一度、残らず教えてもらいたい」

「またかよ」と向かいのソファーに座りテーブルに足を乗せていた男が呟いた。

 ツーブロックのマッシュルームヘア、ガリガリで線の細い若者だが、周りに誰も座っていないところを見ると、グループの中で浮いた存在なのかもしれない。右耳にイヤーカフが幾つも止めてある。

 聞こえていたであろうが新庄さんは気にしない。「じゃあ、一人一人、紹介するのも面倒なので、自己紹介から初めてくれ」とこちらも遠慮がない。

 渋々といった感じで、先ほどのイヤーカフの若者が立ち上がって言った。「じゃあ、俺から。松野朔一郎、四回生、以上」

 きちんと頭を下げた。不良っぽく見せているだけで、真面目な若者なのかもしれない。

「愛好会の主務をやっているそうですね? 主務って、どんなことをするのですか?」と早速、二代目。愛好会のメンバーについては、車内で一度、新庄さんから説明を受けただけなのに、よく覚えている。

 松野君は「別に。雑用係ですよ」と取り付く島もない。

「日程を決めたり、場所を手配したり、みんなに頼りにされるのが主務の仕事ですよ~」と手前に座った女性が答える。

 金髪に派手なネイル、濃い化粧、天を向くまつ毛、地質愛好会という、どちらかと言えば地味なサークルのメンバーにそぐわないギャルっぽい女性だ。すっくと立ちあがると、「私、北野花香と言います。二回生です」と言うとペコリと頭を下げた。

 北野さんが座ると、隣の二人用のソファーに腰を降ろしていた男女の内、男の方が立ち上がって「筒井晴仁、三回生です」と名乗った。ウェーブのかかった茶髪に大きな目、長身で小さな頭、いかにも女性にもてそうだ。隣の美女は彼女なのだろう。

 その彼女が立ち上がって、「新沼知奈、二回生です」と名乗った。長い黒髪、切れ長の目、口角の上がった口、清楚な感じの痩せた美人だ。

 お似合いのカップルだ。

 四人掛けのソファーに離れて座っていた若者、二人が立ち上がり、「若狭輝臣です。三回生です」、「若狭龍臣です。三回生です」とほぼ同時に言って頭を下げた。

 瓜二つ、双子だ。行動がシンクロしている。小柄でショートカット、眉尻がぐっと上がり、尖った耳と一対を成している。動作がきびきびしていて、運動部系の学生に見えた。

 これで全員の自己紹介が終わった。

「じゃあ、事件当日の様子を聞かせてもらおうか。先ずは――」と新庄さんが言いかけるのを「ここからは僕に任せてもらえないか」と二代目が遮った。「君は黙って聞いていてくれれば良い」

 これじゃあ主客転倒だ。新庄さんがむっとしたのが傍目にも分かった。

 二代目は「ああ、ありがとうございます。さあ、座って」と若狭兄弟を座らせると「最初に皆さん、何故、そんなに長崎慶太氏のことを嫌っているのですか?」と衝撃の一言を放った。

「・・・」一瞬だが、メンバーの顔が強張ったのが、僕にも分かった。

 相変わらずだ。僕や新庄さんは慣れたものだが、地質愛好会のメンバーの度肝を抜くには十分な一言だっただろう。勿論、誰も答えない。

 それにしても二代目、相変わらず気色悪い。

「まあ、良いです。おいおい分かってくるでしょう。事件のあった日のことをお聞きしましょうか。昼間はどうでした? 何か変わったことがありませんでしたか?」

「ないね」と松野君が答える。相変わらず反抗的だ。流石に言葉足らずだと思ったのか筒井君が補足してくれる。「この辺は梅沢層と氷川層というふたつの地層が複雑に交差している場所で、梅沢層は砂岩・砂岩泥岩互層、チャート、氷川層は砂岩・砂岩泥岩互層から成っています。二つの地層が観察できるのです」

 説明されても分からなかった。二代目も同じはずだ。地質までは詳しくないだろう。

「それで、何か変わったことは?」案の定、スルーした。

「特には・・・テルが崖から落ちたくらいですかね」

 崖から落ちた⁉

「大袈裟だな。ちょっと斜面を転がっただけだよ。それにあれはタツだ」と若狭兄弟の一人が口を挟む。テルは輝臣君、タツは龍臣君のことだろう。

「怪我しなかったのですか?」

「肘を擦りむいただけです」

 うん⁉ 答えたのは輝臣君? それとも龍臣君?

「そうですか。龍臣君、良かったですね。ああ、大丈夫、骨に異常がないようです」

 お前は医者か! 何時から透視能力まで身に着けたのだ? と心の中で突っ込んだ。無論、口に出して言えるはずない。二代目は上司で次期社長候補だ。それにしても二代目、双子を見分けることが出来るようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ