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二.神エイト②

 ざっと一階を見て回った。玄関ロビーを挟んで、居間と食堂があり、食堂の隣が台所、トイレ、風呂と水回りの施設が並んでいる。

「愛好会のメンバーには居間に集まってもらっている」と新庄さんが言うので、居間は後回しにした。食堂には十人は座ることが出来る長いテーブルが据えられていた。風呂には大浴場と小浴場の二つがあった。

 居間の隣は会議室、その隣が書斎になっていた。書斎には大きなデスクがあり、壁一面、本棚になっていて本が並んでいた。図鑑や専門誌ばかりで、雑誌は小説といったものは皆無だった。

 二階へ上る。

 吹き抜けになったロビーをぐるりと渡り廊下が取り囲んでいる。

 階段とは反対側、入り口近く、玄関上、髑髏の目に当たる二部屋だけ、他の部屋より大きくなっているようだ。部屋にバスルームがあると言う。左右対称に四部屋ずつ並んでいる。

 他より広い二部屋に被害者の長崎慶太と五代院頼繁の二人が宿泊した。部長と副部長、地質愛好会の幹部だ。

 向かって右側の部屋には黄色い規制線が張られてあった。犯罪現場だ。緊張する。

「さあ、ここだ。大丈夫、遺体は片づけた。それに絞殺だったから、血痕は残っていない」

 まるで僕の心を見透かしたかのように新庄さんが言う。良かった。グロいシーンは苦手だ。

 新庄さんがドアを開ける。「証拠採取は済んでいるので、好きに見て回ってくれ」僕らは規制線を潜って中に入った。

 まるでホテルだ。ダブルベッドにデスク、チェアー、ソファーにテーブル、テレビにクローゼットまである。それでも部屋にゆとりがあった。

 天井のライトはLEDに変わっていたが、かつてシャンデリアを吊るしたフックがあり、そこにロープを掛けて、長崎慶太は首を吊って死んでいたと言う。

「長崎慶太はここで天井から首を吊って死んでいた。発見した学生たちは自殺だと思ったようだが、我々の目から見たら偽装工作がバレバレだった」

「偽装工作?」

「ああ。例えばガイシャの両手首には拘束した跡があった。両手が塞がっている状態で首を吊るやつがいるか?首筋に残った策条痕もそうだ。水平なのと斜めの二つ、策条痕が残っていた」

 策条痕とは紐状の凶器で首を絞めた際に残る痕跡のことだ。それが水平についていると他殺、斜めについていると自殺だと判断できるらしい。

 恐らく両手、両足を結束バンドのようなもので縛った後、首を絞めて殺した。そして、死体を天井から吊るしたのだ。

「随分、荒っぽいやり方だな。ロープはどうだ?」と二代目。

「ロープはどうだって、どういう意味だ?」

「持ち込んだものか?」

「それが重要なのか?」と新庄さんが怪訝な表情を浮かべた。恐らく調べていない。

「多分ね」と二代目は素っ気なく答えた。

「いずれにしろ、素人臭い犯行と言って良い。どの道、犯人はこの屋敷にいる学生だ。やつらの考えることなど、こちらにはお見通しだ」と新庄さんが言う。じゃあ、二代目に応援を頼む必要なんて無いじゃないかと思ったが、口に出来なかった。

「ああ、そうだ。検死の結果、遺体が見つかったのは長崎が後だが、殺されたのは彼が先だということが分かっている。五代院が階段から転落したのが、彼らがここに着いて二日目の深夜、零時を回っていたので、三日目になる。長崎はその前、二日目の夜に殺害されたようだ。夜九時に予定されていた実地調査の反省会前に五代院と長崎が良い争う声を部員が聞いている。恐らく停電している間に殺害されたものと考えられる」

「二人は何を言い争っていたんだい?」

「生憎、話の内容までは聞き取れなかったそうだ」

「ふ~ん。まあ、良い。後で、彼らから直接、聞いてみよう。死亡推定時刻は?」

「前日の夜八時から十時の間ってとこだな」

「停電の原因は分かっているのかい?」

「いや、この辺り一帯で、停電はなかったようだ。停電したとしたら、屋敷内で何かあったのだろう。警察官が駆け付けた時には、ディーゼル発電機が動いていたが、電気は復旧していた。ここまでで、何か分かったか?」

 それは僕も聞きたい。二代目の直感はよく当たる。

「ああ、犯人像が見えて来た」

「誰だ?」

「誰だも何も、関係者に会っていないのだから分からないよ」

「ああ、そうか。じゃあ、やつらに会いに行くか」

「うん」と二代目が子供っぽく頷く。

「いよいよだな。頼んだぞ」

「大丈夫だ。心配するな。君も言っただろう。素人臭い犯人なのだから」

 本当に彼らと話をしただけで、犯人を特定することが出来るのだろうか? 普通なら無理だと思うが、二代目なら出来るのではないか、そう思えてしまうから不思議だ。

 さあ、謎解きの始まりだ。

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