一.獄門丸の呪い⑤
背丈の倍はありそうなドアを押し開けて屋敷に入る。吹き抜けの玄関ロビーの正面には二階への階段がある。階段の横には僕の胸元までありそうな巨大な壺が置いてあった。陶器だ。きっと値の張るものに違いない。
「右手側はリビングに会議室になっている元書斎がある。左手側はダイニングに厨房、風呂、トイレなど共用スペースだ。二階は宿泊施設だ。全部で八部屋ある」
「ああ、だから選抜メンバーが八名なのですね」と僕が言うと、新庄さんはまるで置物が言葉をしゃべったかのように驚いた顔をして「そうだ。洋館の背後に日本家屋があって、まだまだ泊ることが出来るが、維持費がかかるので使っていないらしい。部屋数に合わせて八名のメンバーを選抜して来たらしい。愛好会の神エイトだと言っていた」
「神エイトですか」
「二人減って神シックスになっているけどな」なんて会話をしていると、二代目が「おや。その神シックスはリビングにご集合ですか。おやおや。どうやら屋敷にいる人たちは、皆、長崎君が嫌いらしい」とまた、オカルトじみたことを言う。
悪い癖だ。こうやって、いかがわしい占い師のような台詞を平気で口にする。だから、変人扱いされるのだ。
だけど、二代目の予言は当たることが多い。いや、滅多に外れないと言った方が正確かもしれない。
「はは。人間観察の賜物さ」と二代目は言う。
心理学でも学んだのかと思ったが、大学では経済学を専攻したはずだ。心理学を学んだとすると独学だろう。
――僕には理力が備わっている。
二代目はそう言ってはぐらかす。
「理力って何ですか?」と聞くと、「う~ん・・・何だろう?どう言えば良いのかな。超能力・・・じゃないよ。そんな胡散臭い代物じゃない。悪いことを予感する能力――とでも言っておこうか」と答える。
「ハリウッドの有名なSF映画で、フォースって出てきますけど、あれですか? 人の心を操ったり、物を動かしたりする、宇宙の生命を繋ぐエネルギーみたいなものですか? そうそう、日本であの映画が公開された時、フォースは理力って翻訳されていたそうですよ」
「だから、そんな胡散臭い代物じゃないよ。はは。冗談、冗談。変な力じゃない。相手を観察していると自然と見えてくるんだ」
「へえ~あっ、分かりました。微表情ってやつですね。視線が斜め上を向いたら考え事をしているとか。昔、ドラマで見たことがあります」
「タマショー君。君、映画やドラマに詳しいねえ~」
「理力と共にあらんことを――なんちゃって」
なんて会話をした記憶がある。
学生時代から長い付き合いだ。新庄さんは二代目のこの妙な能力のことをよく知っていて、時に意見を求めに来たりするようだ。それで手柄を上げたことが、一度や二度ではないらしい。二代目がそう言っている。二代目の能力を上手く利用しようとしているのだ。今回もこうして、上司に黙って僕らを屋敷に呼んで事件を解決させようとしている。
事件解決に手こずっている証拠だ。
さて、新庄さん。ロビーで足を止めると、二代目に尋ねた。「どうする? 一人一人呼んで、個別に話を聞いた方が良いだろう」
「いや、六人、まとめて構わない。時間の流れに沿って、それぞれ、どういう行動をしたのか確かめておきたい」
おいおい。何だ。思わず声が出た。「えっ⁉ 推理小説のラストでお馴染みの犯人はこの中にいる! をいきなり始めるってことですか?」
随分、無茶な気がするが、いきなり事件の結末を知ることが出来る。
「どうだい? お得な気分だろう」
「バッチグーな気分です」
「バッチグーなんて君は何歳だ?」
「お爺ちゃん子でしたから」
新庄さんは「ほほう」と感嘆すると、「その意気だ。時間節約、その方が助かる。とにかく今日中に頼むぞ。犯人を見つけ出してくれ」と言った。
眼差しが真剣だ。よほど追い詰められているのだ。
「心配するな。至極、単純な事件だ。犯人が誰かより、何故、こうなったのか? 動機は? 殺害方法は? といったことが焦点になりそうだ」
いつものことだが、自信満々だ。