一.獄門丸の呪い④
そこで新庄さんが白羽の矢を立てたのが二代目だ。
「お前、ちょっと行って誰が犯人なのか教えてくれ」と軽い口調で言われたらしい。しかも、メンバーを屋敷に拘束しておくのも、そろそろ限界だ。今日、一日で犯人を特定して欲しいという条件まで付いていた。
部外者に捜査を任せるなんて、警察の上層部の了解を得ていないだろう。新庄さんの独断に決まっている。だから、一日しか猶予がないのだ。
「良いだろう。力を貸そう。その代わり、ひとつ条件がある。タマショー君を連れて行くよ」という二代目の言葉で、僕の同行が決まった。業務に関係のない外出だ。課長が良い顔をしないだろう。
名前が多摩翔なので、二代目は僕のことをフルネームで呼ぶ。タマショーだと何かの略語に聞こえてしまう。
「二代目、僕の名前を呼ぶときは、多摩で一回、切るか、多摩か翔だけにして下さい。フルネームで呼ばれると多摩川商事とか、玉川商業の略みたいに聞こえてしまいます」と文句を言うと「いやあ、君、上手いこと言うね~」と感心するだけで、「タマショー」と呼ぶのを止める気配はない。
こうなれば持久戦だ。
「人里離れた屋敷での連続殺人事件。犯人はこの中にいる! の典型的なケースだね。面白そうだ」
車の中で、二代目はノリノリだった。これくらい仕事にも精を出してもらいたいものだ。仮にも上司なので、僕が言うようなことではないが。
「遊びじゃないぞ」と新庄さんが釘を差すと、「無論、捜査には全力を尽くすよ。心配するな。ハチ」と二代目が言い返した。
「言っとくが捜査じゃないぞ。お前らに捜査権なんて無い。単なる事情聴取の立ち合いだ。それに俺のことハチと呼ぶな」
新庄さんはハチと呼ばれることを嫌がっている。学生時代からのあだ名だそうだ。瑛人いう名前なのでハチだそうだ。
「分かっているよ。犯人が分かったら、教えてやるよ、ハチ・・・じゃなかった新庄君」
「ふん。犯人の目星なんてついている。お前に確認してもらいたいだけだ」
「ああ、そうかい。君は一体、誰が犯人だと思っているんだい? ハチ・・・じゃなかった新庄君」
絶対、わざと間違えている。
「先入観を与えては悪いからな。今は黙っておく」
「それは助かるね。まあ、犯人が誰かということより、何故なのか? 動機は何なのかということが重要になって来るけどね」
「何故だ? 犯人が誰か分かれば動機は自然と見えてくるだろう」
「人の行為を見通すことは出来ても、心の内に潜む、どろどろとした暗い感情を見通すことは難しいのだよ。 ハチ・・・じゃなかった新庄君」
「ハチと呼ぶなと言っているだろう!」
本気で怒られた。
髑髏屋敷に着いた。
「犯人はこの屋敷から出ていないようだな」と二代目が言うと、「当たり前だ。事件関係者は皆、屋敷に拘束しているのだからな」と新庄さんが冷たく返した。
僕も何を当たり前のことを言っているのだろうと思った。