六.裏の顔③
「あなたも筒井君のことを知っていましたね?」と二代目が繰り返すと、暫く躊躇してから「はい」と素直に頷いた。隠し事をしても無駄だと思ったのだろう。
「私も彼と会ったのは、いや、初めて彼を意識したのは地下鉄でした」と言う。
「あなたも彼のことが気になっていた?」
「高校三年生の時――」と新沼さんが語り始めた。「受験の為に予備校に通っていました。夕方から始まるので、何時も帰宅が遅くなりました。予備校は駅前にあったし、最寄り駅までは父母が車で迎えに来てくれていたので心配はありませんでしたが、帰りの地下鉄は夜遅くなると、混んでいるし、酔っ払いが増えて嫌でした。あの日も、模試があって帰宅が遅くなってしまいました。電車に乗っていると、若いOL風の女性が酒に酔った二人組のオジサンに絡まれていました。若い人はいいねえ~って、そんな訳の分からない理由でしつこく絡まれていました」
光景が目に浮かぶようだ。
「その時、傍に立っていた若い男性が、彼女、嫌がっているじゃないですか。止めて下さいって、オジサンたちに言ったのです。そしたら、オジサンたち、怒ったみたいで、生意気なやつだ。次の駅で降りろっ! て怒鳴り始めました」
「へえ~それでどうなったのです?」
「知りません。若い男の人とオジサン二人が次の駅で降りて、それをOL風の女性が心配そうに見送っている内に、電車は駅を出てしまいました。あの後、若い男性はどうなったのだろうと、他人事ながら心配になりました」
「そうでしょうね」
「それから暫くして、また、その若い男性に会ったのです。今度は朝の電車でした。制服を着ていたので、隣町の高校の学生だと分かりました。私と同じように予備校に通っていたのでしょう。あれからどうなったのだろう? と思ったのですが、声をかける勇気なんてなくて、それから、朝、時々、電車で顔を会す度に、彼のこと、気になっていました」
「それが筒井君だった訳ですね」
「はい。大学に入って、同じ学部になったので、びっくりしました」
「それで、あの後、どうなったのか、筒井君に聞きました」
「いえ、なんか聞けなくて、未だにもやもやしています」
「はは。お互い、可愛い秘密を抱えていた訳だ。では、私が代わりに聞いてあげましょう。筒井君、電車を降りた後、どうなったのですか?」
突然、話を振られて、筒井君は「あっ」と小さな悲鳴を上げてから、「別に、何も」と説明を始めた。電車を降りた後、からんできたオジサンを「まあ、まあ。セクハラだなんだと、色々、うるさい世の中だから」ともう一人のオジサンがなだめて、筒井君を残して去って行ったそうだ。彼らの降りる予定の駅だったようだ。
結局、一人残された筒井君は次の電車を待って、家に帰ったと言う。
「ふふ。あちらも喧嘩はしたくなかったようですね。どうです? これでスッキリしたでしょう」と二代目が言うと、「はい」と新沼さんが花のような笑顔を見せた。
その笑顔にクラクラしない男なんていないだろう。




